木の葉化石6: Salix palaeofutura
ヤナギ属の化石種Salix palaeofuturaを紹介します。
この化石は2021年9月現在,私が新種として報告した唯一の植物化石です。
Salix(ヤナギ属)は現在の北半球に広く分布しますが,日本ではヤナギと言えば,公園や街路樹に植栽されているシダレヤナギSalix babylonicaを指すことが多いようです。しかし,シダレヤナギは実は中国原産のヤナギで,現代の日本に自生している種ではネコヤナギSalix gracilistylaやオノエヤナギSalix udensisの方がメジャーと言えます。それ以前にヤナギにもそんなに種類があったのか!?と思う人が多いかもしれませんね(日本では30種以上)。
化石の葉を見て,それがヤナギ属かどうかは比較的簡単に識別できます。まず葉の縁の鋸歯が「サリコイド」と呼ばれる独特の形で,鋸歯の先端がよく見ると丸まって,維管束と接続し,そこが腺点(時にそこから水滴を出し,植物体内の「体液循環」を促進させるようです)となっています。また,葉脈のうち,2次脈の伸び方があまり規則的ではなく,派生する間隔や角度にばらつきがあります。葉形全体は広卵形ないし線形の細長い形をしています。以上の点を見抜くことで,その葉がヤナギ属であることはそれなりに簡単にわかるのですが,種のレベルでどのヤナギなのかを見分けるのがとても難しい属です。
現代のヤナギ属では,異なる種どうしで簡単に雑種をつくることも確認されており,そのため,ヤナギ属であることはわかっても,葉の形が異なる2種のヤナギのいずれにも似ている,ということがよくあります。それと同じようなことが化石葉でも確認されているので,ヤナギ属の同定はなかなか難しいのです。
今回紹介するSalix palaeofuturaですが,これまで化石種として報告されてきたヤナギ属化石のいずれよりも葉が大型であることから,ちょっと他の化石ヤナギ属とは違うことに気づいたのが発端となり,新種の可能性を探ってきました。これらの化石葉を細かく見ていくと,長い葉柄やスパイク状の鋸歯,楔形の基部,二次脈の派生角度が広い,などの特徴から現代の東北南部から近畿地方の,主に日本海側に生育するオオキツネヤナギSalix futuraによく似た特徴をもつことがわかりました。そこで私はこの化石葉に,古いものという意味の「palaeo-」をオオキツネヤナギSalix futuraの種名につけて,Salix palaeofuturaと命名し,他のヤナギ属化石との違いを明確にして報告しました。英文ですが,以下のリンクからその論文がご覧になれますので,興味のある方はご覧になってください。
https://acpa.botany.pl/Late-middle-Miocene-Konan-flora-from-northern-Hokkaido-Japan,127948,0,2.html
このSalix palaeofuturaは以前紹介した1300万年前ころの北海道北部士別市湖南から産出する「湖南植物群」中に認められる種です。湖南植物群に含まれる植物化石に似た現生種の多くは,現代の中部地方から北海道南部に自生しています。Salix palaeofuturaもそのような植物の一つです。現代のオオキツネヤナギSalix futuraは日本固有のヤナギですが,その祖先が少なくとも1300万年前の北海道に生育していたという事実は単純に面白いです。現代の北海道にはオオキツネヤナギは自生していませんから,Salix palaeofuturaから現代のオオキツネヤナギに至るまでの進化の道筋がどのようなものであったのか,いつか解明できればいいなぁ,と思います。長い道のりとなりそうですね。