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筒井康隆の『エロチック街道』

胡桃堂喫茶店での「夜のもちよりブックス」に出品した筒井康隆の短編集です。古書として店頭に置いてもらうので、コメントをスリップに書きました。にわか本屋さんになった気分を味わえるので、これ書くのは好きです。図々しく二枚も書いてるので、店先の暖簾みたいになっちゃってます。

ちなみに、『中隊長』の冒頭は、こんな風に始まります。「自分はいつも馬に乗る時さかさまにまたがってしまう。鎧(あぶみ)にどちらの足を踏みかければよいかためらいがあり、そのためらいのために尚(なお)さらわからなくなり結局は逆の足を踏みかけてしまう。」

このカフカの作だと言ってもおかしくないような不条理な短編が、こんな風に書き出されているのは興味深いことです。ここには自らの身体へのある種の違和感と、それを偏執的なこだわりで言葉にしていくこの作家の特質が、姿を見せています。

筒井の文学がもつ独特の身体性は、作家をずいぶん遠くまで連れていきます。青春の甘酸っぱいセンチメンタリズムを撒き散らすタイムスリップSF『時をかける少女』から、ナンセンスなスラップスティックを壮大な時空に展開するスペースオペラ『虚航船団』まで、身体の言葉は時空を駆け巡って、「意味」の世界の臨界に読者を運んでいきます。そんな筒井文学のオデッセイへの入口を、こんな短編集に求めるのも、また楽しからずや!

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