支配者に勝手に怒った話
田中芳樹さんの人気作「創竜伝」の一巻に、こんな一節がある。登場するのは、「御前」と呼ばれている政財界の黒幕とその側近。黒幕が、側近に対して一通り指示を出した後、唐突な行動に出る。相手の持つグラスの中に、いきなり唾を吐き出すのだ。そして側近は眉一つ動かさず、それを飲み干す。自分の持つ絶対の支配権を確認するための儀式として、まともな人間ならとうてい受け入れられないことを行う御前、そして奴隷的な忠誠心の証として受け入れる側近……そういう両者の立場を表現するシチュエーションだった。