ベテランすぎるCMプランナーはイノベーションの夢を見るか?
何やら未来の香りのする「イノベーション」がテーマということで、近未来SF的な、というかフィリップ・K・ディック的なタイトルにしてみたのですがどうでしょうか?どうでしょうかと言われても困ると思いますので進めさせていただきますね。
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こんにちは。ADKクリエイティブ・ワンの土肥と申します。CMプランナーという職種です。今まで約20年、TVCMをたくさん作ってきました。そんな僕が所属するのが「クリエイティブ・イノベーション」を標榜するチームです。まあ何か新しいことをやっていくチーム、くらいに捉えてもらえれば良いのですが、今回はトラディショナルなマス広告であるTVCMをずっと作り続けてきた僕のような人間が、どう「イノベーション」に向き合っているかお話しできればと思います。
CMプランナーから映像プランナーへ。
少し前のことですが、会社の名刺の肩書きから「CM」が外れ、「プランナー」のみになりました。確か当時の上司から軽く聞いた理由としては、「これからの時代、CMだけに留まらず何でもやれるようにならなきゃいけない」みたいなことだったような気がします。もちろん、クリエイティブのスタッフもデジタル時代に対応して多様化してきており、伝統的な職種名、いわゆるコピーライター/アートディレクター/CMプランナーという区分けに当てはまらない人間も増えてきていることもその理由の一つだったのかと思います。特に「CM」というアウトプットのフォーマットまで限定している「CMプランナー」という職種名は、時に企画の幅を限定するものになっていたのかも知れません。クリエイティブの領域を広げていくというその趣旨には完全に同意でした。ただ、自分としては20年もCMを作り続けていてそのスキルで勝負するしかないと思っていたので、自分の主戦場を明確にしつつも、領域は拡張していくぞという、主に自分に対する宣言の意味を込めて「映像プランナー」という肩書きを名刺に入れさせてもらっています。CMだけでなく、全ての映像領域の企画制作をしていきたい、と思ったからです。
映像の可能性
そんなことを考えるきっかけになった仕事があります。数年前に所属していたチームで携わった仕事なのですが、ハイブリッドレーシングカーが生み出すエネルギーでコーヒーを沸かすWEBムービーです。な、何を言ってるのか分からない、と思いますのでこちらの映像をご覧ください。
海外向けのPRとして作ったこの映像は、数多くの海外メディアに取り上げられ、いくつかの海外広告賞もいただくことができた仕事になったのですが、この制作作業を通じて、企業の言いたいメッセージをユニークな映像コンテンツとして発信するという「ブランデッドエンターテインメント」という、インターネット時代に現れてきた新しいフォーマットを試すことができました。CMのように枠の中で偶発的、一方的に遭遇するモノではなく、より能動的に見たくなるような、人に教えたくなるような映像。だからこそ見てもらうためには、より制作者の腕が試される映像コンテンツです。
現在、映像コンテンツは身の回りに溢れています。YouTubeやNetflixなどなど、豊富かつ強力なコンテンツと勝負しなければいけない時代にどのような映像を作っていくのか、を日々考えています。この当時はサプライズイベントの映像化というフォーマットが目新しくもあり、またそのエネルギー換算の意外性がフックになり多くの人の目に留まって見てもらえたのかと思います。この仕事を通じて、15秒などの様々な制限のあるCMというフォーマットにとらわれない映像制作の面白さとその可能性に気づいた気がします。
映像制作とは体験設計
以降、映像領域の拡張というテーマで、自分なりに様々なチャレンジをしてきたつもりです。「ゴールボール」という視覚障がいのある選手がプレーするパラスポーツのPRを担当したときに、単純に映像を作るのではなく、パラスポーツを擬似体験してもらうために、アプリゲームを作ったことがあります。スクリーンに映るビジュアルという意味でこれも映像領域の一つであるという解釈で企画しました。記事はコチラ。(個人的には高橋名人がプレイしてくれたのが胸アツでした。)
また、映像を一つの「お土産」として捉えたこともあります。ウェアラブルデバイスでのタッチ決済のPRだったのですが、お花見の名所でタッチ決済を試すと、桜吹雪を浴びる自分のドラマチックな映像がもらえるというイベントです。これも、な、なにを言っているのかわからない、と思いますので内容はこちらのリリースをご覧ください。
このような仕事を通じて、薄ぼんやりと自分の頭の中で映像プランナーの自分の仕事とは「映像そのものだけでなく、その映像が存在する空間や時間を含む体験を設計すること」なんだと考えるようになりました。そう捉えることによって、ウェブサイトや、映像を活用したイベント、さらにはメタバースなども自分の仕事の領域であり得るんだと考えることができるようになったのです。
映像制作とは物語構築
そのように自分の中で映像を捉え直し、領域の拡張にチャレンジし続けていますが、映像コンテンツの王道としてストーリーを構築する仕事もしています。特にNetflixなどで映像リテラシーが上がっている視聴者に満足してもらうためにどうすべきかと考えて作った映像があります。ごく一部で(というか関係スタッフのみですが笑)あの話題作『イカゲーム』を先取りしていたのでは?と囁かれているこの映像。自転車の安全品質検査というお堅いお話を、ダークSF的なデスゲーム調のストーリーで描いたコンテンツです。寄せられたコメントを見ると「自転車ってこんな厳しい検査を受けているのですね」とメッセージが伝わった、というものだけでなく、「広告なのに最後まで見ちゃった」、「こんな広告ばっかりなら楽しいのに」、「映画かよ!」というリアクションもあり、映像コンテンツとして喜んでもらえるものを作る、という目的も少しは達せられたのだな、と思えた仕事でした。
映画は映像界のラスボス
上記コメントで「映画かよ!」とありましたが、やはり映画は映像コンテンツの王様、という意識があります。出かけていって、お金を払って、時間を拘束される。そこまでしても見たいというコンテンツパワー。映像に携わる人間としては、いつか映画制作にもチャレンジしてみたい、という思いは心のどこかにずっとありました。そんな時、ご縁がありプロバスケットボールクラブのドキュメンタリー映画制作の話が来たのです。自分が大のバスケファンということもあり、めちゃくちゃ興奮しつつも、さて、そもそも広告ではない映像、自分は脚本家でもないし、映画監督でもない。いち広告制作者としてこの映像にどう向き合うべきか、どう作っていくべきか、と悩みました。自分にできること、やってきたことを見つめ直した時に、「映像を通じてブランドの魅力を伝え、心を動かすこと/好きになってもらうこと」だなあと。そのバスケットチームをブランドと捉えれば、いつも自分が広告制作しているときの考え方で作れる、と気づき、企画・制作を進めることができました。作品情報はコチラ。
「好き」の力
とはいえ、広告じゃない映像、映画を作れたのは、結局、そもそもバスケが好きだったから、ということのような気もしています。だからどう伝えるのが良いかを考えられる。見る人の気持ちに思いを馳せることができる。これも広告の基本として、まずはそのブランド/商品を好きになること、とよく言われますが、改めて初心に帰った思いでした。
昔、先輩に「オマエは、企画にもっと自分の『好き』を出した方がいい」といわれたことがあります。企業の課題解決に自分の好きを出してもなあ、とドライに思っていたフシがあったのですが、結局そのアイデアに自分の好きが入っているからこそ、強いものになるし、誰かに共感される、オリジナルなものになるのだと思いハッとした記憶が甦りました。
映像×クリエティブ・イノベーション
僕の所属するチームが標榜する「クリエイティブ・イノベーション」。何やら難しげに聞こえるかも知れませんが、このチームで僕が担うべきミッションとしては、特に映像領域で、新しい表現、映像そのものの新しい使い方、広告というジャンルに止まらない新しい領域の映像制作、というチャレンジをしていくことだと捉えています。もちろん従来のCMも作りつつ。チームの仲間はそれぞれ専門領域を持ちつつ、各自が新しいチャレンジをしています。そんな仲間とともに新しいコミュニケーションを作っていきたいと思います。一緒に何か新しいことにチャレンジしたい!と思ったら、是非我々のチームにお声がけください。ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
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土肥龍介|映像プランナー
好きなもの:バスケ/SF小説/映像
※写真はイノベーティブなコンテの描き方