日本の文化
春夏秋冬|料理王国
北大路魯山人
1960年2月、淡交新社から刊行されたものがちくま文庫によって誤植・誤記の訂正のみで2010年1月に刊行された名著と言って良いものではないか。タイトルは料理王国故内容は料理の諸々ではあるが、その真の内容は、時代を経る毎に消え続ける我々の生活文化の成熟を見た到達点を丁寧に活かせという深く啓示に富んだものに僕には聞こえている。
本書にこんな一説がある。
“京大阪に東京の醤油が入りこんでいる。これは料理に自覚がないために起こるあやまちであって、このことは日本中の料理をメチャメチャにしている。かてて加えて、近頃は化学調味料というものが流行して、味を混乱させている。単純な化学調味料の味で、ものそれぞれの持味を殺してしまうことは全く愚かなことと言うべきだ。よいものがよく見えないで、悪いものが良く見えるのは単に料理だけに限らない。この傾向は今日の日本のあらゆる面にはびこっている。そしてこの事実は、日本の価値を低下させている。料理する人は料理に対する深い自覚と反省がなければならない。”とは、薄口醤油と濃口醤油、味の素などの化学調味料のことを言っているところの一文だが、現在あらゆるところで起こっている諸々に対して“よいものがよく見えないで、悪いものが良く見える傾向は今日の日本のあらゆる面に蔓延り、それは日本の価値を低下させている”とは、60年前に魯山人が感じたそれより危機的な意味合いを深め、今にまさにな指摘であると言える。
あらゆる食材やその扱い、料理、そして盛る器の数々に良質に囲まれた丁寧な生活、その全てが“残肴”に芽生える。米の一粒に至るまで用を全うすることこそが天命とは、魯山人の大好きな考え方のひとつである。
ぞんざいにしないとは非常に難しいが、細部にまで気遣いを怠らないように努めたい・・