ゲーム理論 ビジネスと経済学の例でわかりやすく解説!
ゲーム理論って聞いたことありますか?
”ゲーム”と名がつくので簡単そう/面白そうなイメージはありますが、実際のゲーム理論は、ビジネスや経済学の分野で戦略的意思決定を行う上で不可欠な分析ツールとして広く知られています!この理論は、複数の意思決定者が存在する状況下での最適な行動選択を数学的に分析する手法であり、その応用範囲は経済学から政治学、生物学にまで及びます。。。
このようなゲーム理論が注目される理由は、現実世界の複雑な相互作用を単純化し、分析可能なモデルに落とし込むことができる点ですね。例えば、企業間の価格競争や市場参入の戦略、国際政治における外交交渉など、様々な場面でゲーム理論の考え方が活用されています(詳細は本文にて説明します)。MBAでも「経営科学」という名称でカリキュラムに入っていたりします。
本記事では、課題解決するための強力なツールとして、「囚人のジレンマ」をはじめとしたゲーム理論とその実務への応用について詳しく解説します。ゲーム理論の基本概念から、ビジネスにおける具体的な適用例まで、幅広く網羅しています。
この記事を読むことで、ゲーム理論の概要を理解し、戦略的な意思決定を行う能力を少しだけ身につけることができるでしょう。競合他社の動きを先読みし、Win-Winの解決策を見出す力を養い、日々の業務における判断力を向上させることで、より効果的なビジネスパーソンへと成長することができるはずです。
それでは読んでいきましょう!
ゲーム理論とは?
ゲーム理論は経済学を中心に発展した数学理論
ゲーム理論は、複数の意思決定者が存在する状況下での最適な戦略を分析する数学的手法であり、経済学を中心に発展してきました。この理論は、人間の合理的な行動選択を数学的に表現し、相互作用の結果を予測することを可能にします。
簡単かつかっこよく言うと、理論的に未来予測をする学問です!
ゲーム理論が経済学を中心に発展した背景には、市場における企業や消費者の行動を理解し予測する必要性が出てきたことにありました。経済活動の多くは、複数の主体が互いの行動を考慮しながら意思決定を行う状況であり、これはまさにゲーム理論が扱う「ゲーム」の状況に他なりません。
具体例としては、寡占市場における企業の価格設定があります。市場に2社しか存在しない場合、各企業は相手の価格設定を考慮しながら自社の価格を決定する必要があります。このような状況は「クールノー競争」としてモデル化され、ゲーム理論の枠組みで分析されます。
寡占市場とは(https://www3.cuc.ac.jp/~t2yamada/ie2_2014_08.pdf)
ゲーム理論の発展は、経済学に留まらず、政治学、社会学、生物学など幅広い分野に影響を与えました。特に、ナッシュ均衡の概念の確立は、ゲーム理論を応用科学として確立させる重要な転換点となりました。
現在ではビジネスの現場で活用されている
ゲーム理論は、現代のビジネス現場において戦略立案や意思決定の重要なツールとして広く活用されています。この理論の応用は、企業の競争戦略/医療のマッチング/学校の選択制(詳細は後述します)など、多岐にわたる領域で見られます。
ビジネスにおけるゲーム理論の活用が進んだ理由は、複雑な市場環境や競合関係を体系的に分析し、最適な戦略を導き出すことができるからです。特に、グローバル化や技術革新が進む現代のビジネス環境では、競合他社の行動を予測し、自社の利益を最大化する戦略の立案が不可欠となっています。
例えば、"新規市場参入"を検討する企業は、ゲーム理論を用いて競合他社の反応を予測し、最適なタイミング/方法を決定することができます。また、"価格競争"においても、ゲーム理論の知見を活用することで、過度な価格引き下げを避けつつ、市場シェアを維持する戦略を立てることが可能です。
さらに、M&Aの交渉や提携戦略の立案においても、ゲーム理論は重要な役割を果たしています。プレーヤーが2社と限定した時、双方の利害関係を考慮しながら、Win-Winの結果を導き出すため(もしくは、1社の利得を最大化するため)の交渉戦略を策定する際に、ゲーム理論の概念が活用されています。
ゲーム理論は”理論”であるため、すべての環境において最適な戦略を導き出すことは難しいです。なぜなら、市場及び社会には情報が無数にあり、すべての情報を考慮に入れて考えることは不可能だからです。そのため、ゲーム理論は複雑な市場環境すべての考慮は難しいことを前提としながら、市場を単純化し、最適な戦略を導き出しています。
体感ベースではありますが、ゲーム理論の役割は徐々に拡大していくと思われます。現在は、ビジネスの現場に理論的基盤を提供し、より合理的で効果的な意思決定を支援する役割を果たしています。今後も、AI技術やビッグデータ分析との融合により、その応用範囲はさらに拡大していくと予想されます。
ビジネスシーンで応用できるゲーム理論の代表例
囚人のジレンマ
囚人のジレンマは、ゲーム理論の中でも最も有名な概念の一つであり、ビジネスにおける協調と競争の難しさを端的に表現しているモデルです。このモデルは、個人の利益追求が必ずしも全体の最適な結果をもたらさないという、ビジネスにおける重要な示唆を表す最も簡単な方法として大学の授業などで教えられています。
囚人のジレンマが示す本質的な問題は、相互不信や情報の非対称性が存在する状況下で、協調することの難しさです。ビジネスの文脈では、例えば競合企業間の価格設定や研究開発投資の決定などに応用されます。
具体例を見てみましょう。囚人はAさんとBさんの2人おり、どちらも検察から自白を迫られています。下図を見てみると、それぞれが自白した場合は両者とも△、それぞれが黙秘した場合は両者とも〇、片方だけ自白した場合は、自白した方が◎、黙秘した方は×という状況になっています。
客観的に見ると、どちらも黙秘したほうが全体最適になる(≒パレート最適になる)のですが、それを認識したうえでも各囚人は自分の利益だけ追及してしまい、結果的に両方とも自白し、囚人たちにとって最悪の結果をもたらしてしまうのです。
鹿狩り
鹿狩りゲームは、協調行動の重要性と難しさを示す代表的なモデルになります。このゲームは、個人の短期的な利益と集団の長期的な利益のバランスを考える上で、ビジネスに重要な示唆を与えてくれます。
このゲームの本質は、大きな報酬(鹿)を得るために必要な協調行動と、小さな確実な報酬(兎)を追求する個人的な行動の選択にあります。ビジネスにおいては、大規模なプロジェクトや革新的な取り組みが「鹿」に、日常的な業務や既存の商品が「兎」に例えられます。
例えば、新規事業の立ち上げを考えてみましょう。大きな成功(鹿)を狙うためには、チーム全体の協力が不可欠です。しかし、各メンバーが自分の担当業務(兎)にのみ集中してしまうと、新規事業の成功確率は低下してしまいます。
鹿狩りゲームが示唆するのは、組織内での明確な目標設定とコミュニケーションの重要性です。全員が「鹿」を追いかけることの価値を理解し、そのための協調行動をとることができれば、大きな成果を得られる可能性が高まります。
機会主義的行動
機会主義的行動は、ゲーム理論においてプレイヤーがその他プレーヤーを犠牲にして自分の利益を増やす可能性を示唆したモデルです。たとえば意図的な契約不履行、職務での怠慢、不当な情報漏洩などです。
囚人のジレンマと似ている印象はありますが、下図の左下の利得が(△,△)となっているところが違います。
例えば、プレーヤーA,Bがいたときに、プレーヤーBは非協力を選択することで、Aの利得を犠牲にしてより多くの利益を取得できる可能性があります。一方で、AはBの裏切り(機会主義的行動)を見据え、協調しないという選択肢を選択します。
チキンレース
チキンレースは、ゲーム理論においてプレイヤーが互いに譲歩しないことで最悪の結果を招く可能性のある状況を表現するモデルです。このゲームはビジネスにおける競争戦略や交渉術を考える上で重要な洞察を提供します。
このゲームの本質は、互いに譲歩しない姿勢が最終的に双方に不利益をもたらす可能性があるという点です。ビジネスの文脈では、過度な価格競争や市場シェア争いなどがこれに該当します。
例えば、2つの競合企業が新規市場への参入を巡って激しい競争を繰り広げている状況を考えてみましょう。両社が大規模な投資を続け、互いに譲歩しない場合、最終的には両社とも多大な損失を被る可能性があります。一方で、一方が譲歩すれば、譲歩した側は市場から撤退することになりますが、少なくとも過度な投資による損失は避けられます。
このチキンレースのモデルが示唆するのは、競争において「勝利」だけでなく、「撤退」のタイミングを見極めることの重要性です。競争の激化が自社の将来や業界全体にもたらす影響を慎重に評価し、適切な判断を下す必要があります。
ちなみに、これは第二次世界大戦後のソ連/米国の冷戦にも適用できます。お互いに譲歩ができなくなり、武器増強にずっと走り続けてしまう現象ですね。ご要望があれば後日書きます。
協調問題
協調問題は、複数のプレイヤーが協力することでより大きな利益を得られるにもかかわらず、個々の利害関係や情報の不完全性によって協調が困難になる状況を指します。この概念は、ビジネスにおけるチーム内の協力や企業間の提携を考える上で参考になります。
このゲームの重要なポイントは、個々のプレイヤーの短期的な利益追求が、全体の利益最大化を阻害する可能性があるという点です。ビジネスにおいては、部門間の連携不足や、業界全体の発展を妨げる過度な競争などがこれに該当します。
具体例として、複数の企業が共同で新技術の開発に取り組む場合を考えてみましょう。各企業が自社の利益のみを追求(相手と同じ選択肢をとらない)すれば、技術情報の共有が制限され、開発の進展が遅れる可能性があります。しかし、適切に協調(相手と同じ選択肢をとる)することができれば、開発コストの削減や技術革新の加速化が期待できます。
協調問題を解決するためには、まずは情報伝達をすることが重要です。信頼関係の構築や、明確なルールの設定、そして協調によるメリットの可視化がをすることで、各プレーヤーは適切な選択ができます。
また、”逐次選択”にするという解決策もあります。逐次選択とは、選択に前後関係を付けるということです。仮にプレーヤーAが先に選択する場合、BはAの動きを見てから選択できるようになるため、利得を最大化する選択肢を選ぶ、つまり協調策をとることができます。つまり、協調問題における逐次選択は、広い意味での情報共有になります。
男女の争い
男女の争いは、プレイヤー間で選好が異なる中で、協調行動をとる必要がある状況を表現するモデルです。このモデルは、ビジネスにおける異なる利害関係者間の調整や、組織内の意思決定プロセスを考えるうえで参考になります。
このゲームの本質は、各プレイヤーが異なる選好を持ちつつも、協調することでより大きな利益を得られるという点にあります。ビジネスの文脈では、部門間の優先順位の違いや、提携企業間での戦略の相違などがこれに該当します。
例えば、製品開発部門と営業部門の間で新製品の方向性について意見が分かれている状況を考えてみましょう。製品開発部門は革新的な機能の搭載を望む一方、営業部門は既存顧客のニーズに応える製品を求めているかもしれません。両者の意見が完全に一致することは稀ですが、何らかの形で合意に達し、協調して行動することが企業全体の利益につながります。
「男女の争い」モデルが示唆するのは、異なる選好を持つ者同士が協調するためには、柔軟性とコミュニケーションが不可欠だという点です。また、このゲームは全体最適を追求することが個人最適につながるという点も考えられます。
上述したように、これらのモデルはビジネスにおける複雑な市場を単純化し、意思決定や戦略立案を体系的に理解し、最適な解決策を見出すための強力な武器となります。これらの概念を適切に応用することで、より効果的なビジネス戦略の構築と実行が可能となります。
ゲーム理論はビジネスでどのように活かされるの?
(このパートは少し専門的になるので、読み飛ばしても構いません。)
上述したように、ゲーム理論は、ビジネスの様々な場面で戦略的意思決定を支援する重要なツールとして活用されています。理論に落とし込んでいるという点で「現実とかけ離れている」という意見もありますが、なぜ活用されるのでしょうか?そして、具体的にどのような場面で活かされているのでしょうか?
ゲーム理論がビジネスで活用される主な理由は、相互依存的な状況下での意思決定を体系的に分析できるからです。市場参入、価格設定、M&A、提携戦略など、ビジネスの多くの局面で、競合他社や顧客の行動を考慮しながら意思決定を行う必要があります。たとえビジネスの場面が複雑でも、考え、議論するうえで、言語化⇒可視化するプロセスを持つゲーム理論は重宝されています。
例えば、新製品の発売タイミングを決定する際、競合他社の動向を予測し、最適なタイミングを見極めるためにゲームマトリクスやディシジョンツリーを用いて意思決定をすることができます。
また、価格競争においても、競合他社の反応を考慮しながら、利益を最大化する価格設定戦略を利得表をモデリングするなどして立てることができます。
ゲーム理論の応用は、個別の意思決定だけでなく、ビジネスモデルの設計や組織構造の最適化にも及びます。以下の具体的な応用例を通じて、ゲーム理論がビジネスにどのように活かされているかを詳しく見ていきましょう。
応用例①:出店競争
出店競争は、ゲーム理論の応用が最も顕著に見られるビジネス事例の一つです。この状況は、複数の企業が限られた市場空間内で最適な立地を争う「空間競争モデル」として分析されます。
出店競争におけるゲーム理論の核心は、競合他社の行動を予測しつつ、自社にとって最適な出店位置を選択することにあります。この分析は、小売業やサービス業など、立地が重要な役割を果たす業種で特に重要です。
具体例として、コンビニエンスストアの出店戦略を考えてみましょう。各チェーンは、人口密度、交通アクセス、競合店の位置などを考慮しながら、最も効果的な出店位置を決定する必要があります。ゲーム理論的アプローチを用いることで、競合他社の出店パターンを予測し、それに対する最適な対応を導き出すことができます。
出店競争におけるゲーム理論の応用は、以下のような戦略的意思決定に役立ちます:
市場の均衡状態の予測:長期的に、各企業がどのような出店パターンを取るかを分析できます。
先発者利益の評価:新規市場への早期参入のメリットとリスクを定量的に評価できます。
差別化戦略の立案:競合との位置的差別化や、サービス内容の差別化の効果を分析できます。
簡単に利得表を出してみるとこのような形になります
この場合、ナッシュ均衡は「両社とも出店する」になります。なぜなら
となるからです。
ゲーム理論を活用することで、企業は単に需要予測だけでなく、競合他社の行動も考慮した総合的な出店戦略を立てることが可能になります。これにより、限られた経営資源を最大限に活用し、効果的な市場展開を実現することができるのです。
応用例②:研修医マッチング
研修医マッチングシステムは、ゲーム理論の応用が社会システムの設計に大きな貢献を果たした代表的な事例です。このシステムは、医療機関と研修医志望者双方の選好を考慮しつつ、最適なマッチングを実現するために設計されました。
研修医マッチングにおけるゲーム理論の核心は、「安定マッチング」の実現です。これは、どの研修医と医療機関のペアも、現在の組み合わせよりも互いにより好ましい組み合わせを見つけられない状態を指します。
具体的な話をすると長くなってしまうので、概要だけ説明すると、研修医志望者は希望する病院のランキングを、病院側は希望する研修医のランキングを下のように提出します。
そして、ゲール・シャプレーのアルゴリズムと呼ばれる方法を用いて、これらの選好に基づいた最適なマッチングが行われます。マッチングアルゴリズムは以下のようなステップを踏みます
上の表に当てはめてみるとこのようになります。
したがってマッチングはA→1,B→2,C→3となります。これは全ての医学生と病院が安定したマッチングになります。どの医学生も、他の病院に移動することで得られる利得が現在のマッチングよりも高くならないため、これがナッシュ均衡となります。
ビジネスの文脈では、このアプローチは人材配置や取引先選定など、多対多のマッチングが必要な場面で応用可能です。例えば、大規模な企業内での部署配属や、サプライチェーンにおける取引先の選定などに活用できます。
研修医マッチングの事例は、ゲーム理論が単なる競争戦略の分析ツールではなく、効率的で公平なシステム設計にも貢献できることも示しています。この考え方を応用することで、企業は組織内外の資源配分を最適化し、より効果的な経営を実現することができるのかもしれません。
【まとめ】
ゲーム理論は日々の実務にも応用できる
このように、ゲーム理論は複雑なビジネス環境における意思決定を支援する強力な武器として、日々の実務においても広く応用可能です。
ゲーム理論を日々の実務に応用することの最大の利点は、ふわっとしたビジネスの情報を可視化/言語化する思考プロセスを身につけられることです。これにより、直感や経験だけでなく、理論的な裏付けを持った意思決定が可能になり、ビジネスパーソンとしての能力向上につながります。MBA上がりの戦コン/デザインファームの人はこの手法を使ったりもします。
ただし、ゲーム理論の応用には注意点もあります。現実のビジネス状況は理論モデルよりも複雑で、完全な情報を得ることは難しいことが多いです。したがって、理論を柔軟に解釈し、実際の状況に適応させる能力も重要です。
最後に、ゲーム理論の学習と応用は、ビジネスパーソンの思考の幅を広げ、より戦略的な視点を養うことにつながります。日々の業務の中で意識的にゲーム理論の概念を適用していくことで、より効果的な意思決定と問題解決が可能になります。結果、個人としての成長だけでなく、組織全体の競争力向上にも貢献できるでしょう。