僕たちの11.9物語
〈はじめに〉
これは、今から15年程前、地方の公立高校で起きた小さな物語です。新聞に載ることもなく、ニュースになることもなく、どこにでもありそうな小さな物語なのです。それでも、僕は毎年11.9が近づくと今でも思い出します。どこにでもありそうな、しかし、忘れることのできない仲間との物語です。
僕たちラガーマンにとっての甲子園は
大阪花園ラグビー場
高校入学と同時に、当時は決してメジャーとは言えない【ラグビー】というスポーツと出会い、13人の同期と、偉大な先輩方と一緒に全国大会を目指して毎日必死になって練習していた。当時の母校は県内では負け無し、毎年メンバーが入れ替わりながらも連覇を続けていました。
高校1年生の時には、僕自身も大阪花園ラグビー場でプレーした。
「これが全国か〜」と味わうこともなく、あっという間に負けてしまった記憶がある。
高校2年生の時には、母校初の全国大会1回戦突破を果たし、歴史を創るという経験をさせていただいた。学校や地域、OBの方々と喜びを共有できたあの瞬間は今でも鮮明に覚えている。ちなみに、2回戦は、歴史的な大敗で敗れました。
そうして迎えた、高校3年生のラストシーズン!
チームの目標は
【全国大会の1回戦を勝ち、2回戦でシード校撃破】
だったと記憶している。春シーズンを最高の結果で折り返し、季節は夏から秋へ。公立高の多くの3年生は、春の大会が終わる6月頃には引退し、3年生は受験、進路と向き合うことになっている。ラグビー部は、12月の全国大会を目指すため、周りが受験勉強ムードの中、部活に打ち込むというのが例年の流れである。3年生は、就職や推薦、受験対策でなかなか練習にも身が入らず、もやもやしながら、練習にも取り組むという期間が続いた。
そんな中、僕たちの11.9の鍵を握る1つの事件が起きたのだった。
〈11.9の物語〉
我がチームのS君は、160㌢50キロというラグビーの世界では、信じられない程小さな体。それでいて、誰よりも体を張り、激しいタックルをし、チームを勇気付けるplayerだった。S君は成績も優秀で、有名私立高校の推薦入学を受験することになっていた。文武両道で校内での選考を勝ち抜き、見事S君は受験資格を得ていた。通知のあった受験の日は11.9
「11.9 11.9? 11.9?」
そう、11.9は全国大会の県内決勝戦の日。運命のイタズラか
受験と決勝戦の日程は全く同じだった。当時を振り返りS君はこのように語っている
【日程を聞いた時、頭の中が真っ白になって、3日間不登校になった。そもそも、就職しろって言われてたのに、親の反対を押し切って受験に切り替えた!でも、最後の大会出られへんって、、、受験やめよかな?っていう気持ちもあった。答えは出なかった。】
そんな時、当時の顧問の先生が、家に来たそうだ。
「S!安心せぇー!仲間がおるやろ!必ずお前を花園に連れて行くから、安心して受験してこい!」
この恩師とのやりとりは、10年程経った後に聞かされた話だが、当時の僕たちは、
〈Sを花園に〉を合言葉に猛烈に練習に取り組んだ。
3年生のシーズンがスタートしてからも、県内では負け無し、【Sを花園に!】の約束は当然果たすことができると誰しも疑いもしなかった。
〈いざ決戦へ〉
そうして始まった11.9
Sは試験へ
僕たちは決勝戦の会場へ
入学して3年間
一度も負けたことのない県内大会決勝
負けるはずはない!僕たちは自信に満ち溢れていた。
しかし、いざ試合が始まるとプレッシャーからか体がうまく動かない。
そして、11.9 2つ目の事件が起こる。
試合開始10分。
我がチームのエースで、50メートル6.0の俊足トライゲッターのM君が、相手チームのハードタックルにより負傷交代【後に手術が必要な大怪我】
何もできぬまま前半終了。まさかの0-7での折り返し。
完全に浮き足立ち焦る僕たち。
見えない敵は、時間と共に大きくなり襲いかかってきた。プレッシャーに打ち勝つ合言葉はSを花園へ!
僕たちは必ず逆転することを誓い後半のピッチに向かった。
後半開始早々にもトライを奪われた。
0-14
時間は刻一刻と進んでいく。
試合時間は残り10分
10分で2トライ差はギリギリの点差。
相手チームも足が止まり始めた。
残り8分1トライを返し、7-14
勢いにのる我がチーム!押せ押せだった!
試合時間残り2分!ついにトライ!!
12-14
トライの後のコンバージョンキックが決まれば同点!!
キックは・・・外れた。試合時間は残り1分
大丈夫!Sを花園に!
負けるはずない!
負けたことない!
Sと全国でプレーするんだ!
その後のことは、ショックのあまりあまり記憶にない。
確かに、僕たちは負けていた。
12-14 トライ数は同じ。3年間で初めて負けた県内大会。僕たちはグランドに崩れ落ちた。
〈戦いの後〉
Sは試験を終え、車で帰路についていた。
Sの母親は、僕たちの試合の応援に来てくれていた。Sに少しでも伝えたくて、試合中、ずっと電話で実況してくれていたみたい。
試合終了の瞬間、Sの母親はこう伝えた。
「みんな頑張ってくれた。でも負けた。みんなとのラグビー終わっちゃった。」
僕たちは試合を終え、学校へと向かった。
「Sが部室で待ってくれてる。みんなで報告しよう。そして、謝ろう。約束守れんかった。みんなで謝ろう。」
Sの気持ちを考えるだけで、僕たちは涙が止まらなかった。一生懸命戦った。同じグランドで戦えなかった仲間の気持ちを考えると申し訳なくて、どんな言葉を伝えるべきか思いつかなかった。
部室に入るとSは予想外の言葉で僕たちを迎えてくれた。
「お疲れ!ありがとう!」
Sの顔、言葉を聞いた3年生12名はみんな一斉に泣いた。
Sもそれを見て泣いた。
どれだけ時間が経った頃か
監督が部室に来てこう言った
「すまん。全て俺に責任がある。みんなお前のためにやるんや!と最後まで戦った。勝たせてやれんかったのは全て俺の責任。」
こうして、僕たちの3年間の物語は終わった。
忘れられない11.9
仲間との約束を果たせなかった11.9
自分たちの無力さと後悔を感じた11.9
Sの夢を、僕たちの夢を叶えられなかった3年の秋
それでも僕たちはそれぞれの道を歩いている
〈あれから15年〉
卒業から15年・・・Sは起業し、あの時戦えなかった悔しさをバネに地元で戦うと決めて勝負している。
僕は、幸運にも、ラグビーを指導するチャンスをいただいている。
あの時の11.9があったから
そう思える日はまだまだ先かもしれないが、
僕たちの11.9は終わらない!!
これからも仲間のために、そして、自分のために戦う!!仲間の夢、自分の夢のために戦う!