イベント紹介レポート
ただいま、準コロナ禍の出口にかすかな光がさす2022年6月4、5日及び11、12日、武蔵野美術大学通信教育課程 情報デザイン学科 コミュニケーションデザインコースの4年次必修科目「コミュニケーション研究Ⅱ」/「社会形成デザインⅢB」の面接授業が行われました。学生それぞれが有しているバックボーンを生かして、地域社会をフィールドにデザインが地域で果たすことのできる役割と可能性を探り、オンラインでのトークイベントの企画から運営を自分たちの力で行うという具体的な体験を学びの糸口に、そこで得た経験と知識を消化しそれぞれの日常に還元すること目的とした本授業に、26名の学生が参加しました。全体統括、広報、イベント企画、動画作成といった役割ごとにグループを作成し、それぞれのグループ活動を中心に全員で6月12日のイベント当日に向けて全力で取り組みました。
本イベントは、地域で活躍する武蔵美の卒業生にスポットを当て、大学で学んだアートとデザインのスキルを活かし地域社会で活躍の場を生み出している活力のある事例を紹介するという趣旨のもと、『はじまりは「おばあちゃん家」〜アートやデザインの力があればどこだって生きていける〜』と題し、茨城県石岡市の八郷地区に移り住んで活躍する3名の武蔵美の卒業生をゲストに迎えて実施しました。武蔵美吉祥寺校の教室と八郷の「おばあちゃん家」に集まってくださったゲストの3名をzoomで繋ぎ、YouTubeにて6月12日10:00から約90分に渡るライブ配信を行いました。イベントには75名の視聴者を迎え、大盛況のうちに終了しました。
石岡市+ゲスト紹介
トークイベントではまず最初に石岡市と3名のゲストの活動を紹介する動画をご覧いただき、ゲストの方達にお話を伺いました。
茨城県石岡市は東京から車で約2時間程の距離にある、温暖で自然豊かな町です。八郷地区は、筑波山系に囲まれた、棚田や茅葺き屋根の民家が残る自然に囲まれた地域です。 2010年、武蔵野美術大学建築学科の長尾重武教授により八郷地区で「アートサイト八郷」というアートイベントが開催されました。この活動には建築学科の学生に限らずさまざまな学科から学生が参加し八郷の大自然の中、その土地の素材で作品を制作したり屋外での作品展示を行いました。この活動は2020年まで続き、その間約100名の学生が参加しました。本イベントにオンライン出演してくださった、瀧田さん、井上さん、大重さんと、所用にて出演がかなわなかった田中さんの4名は在学中に「アートサイト八郷」に参加したことがきっかけで卒業後も断続的にアートサイト八郷に携わりました。その縁もあり、2017年からは「石岡市地域おこし協力隊」として八郷地区に移住し、さらに本格的に八郷地区での活動に取り組むこととなりました。4名は2019年度をもって石岡市地域おこし協力隊の任期を終えましたが、現在は各々に活動の場を広げ八郷という地域で肩肘はらず着実に活動を続けています。
瀧田さんにインタビュー
続いて、ゲスト3名に1人ずつお話を伺って参りました。1人目は瀧田暁月 (たきた あき)さんです。まずはじめに、事前の瀧田さんのインタビュー動画をまとめた紹介映像を見ていただきました。それから、司会から個別の質問をさせていただきました。
まず、「居場所」について、瀧田さんはこれまで12回お引っ越しをされており、同じ家に5年以上住まれたことがなかったとのことで、ここで生きてきた、ここで生きていく、という実感が生まれにくかったようです。卒業制作「縁側」も居場所というキーワードに関係しており、家に誰かがやってくる、招き入れる、ということに強い関心をおもちのようです。卒業制作の際により考えを深め、八郷でおばあちゃん家に訪れた際に、ただそこにいるだけではなく、お茶を出したり”役割”を与えられることで、その場所を居場所として認識できると感じられたと話していました。
現在の活動については、お客さんが来て、ただ過ぎ去っていくのではなく、茅葺やおばあちゃん家での庭のお手入れなどの活動を通して居場所を感じてもらえるような活動になっているとのことです。またこの場所をどのように使っていきたいか、一緒に考えてもらうこともあるそうです。
また、参加者は県外の人や近しい活動をしている方々など様々だそうです。
茅葺は、もともとは百姓の仕事で日常的な作業だったとのことです。茅を刈り、束ねるといった作業はいろんな人が参加しやすい作業だそうです。その刈ってきた茅が八郷のお家の屋根に使われていくことで参加者がより自分の役割や実感を感じられる流れを作っているようです。
最後に、これからも八郷で暮らしていくのか質問させていただきました。
5年以上同じ場所に住んだことがないため、自分自身どうなっていくのかわからないことがあり楽しみとおっしゃっていました。現時点では八郷に根をおろしていくつもりとのことでした。
大重さんにインタビュー
2人目は大重雄暉(おおしげ ゆうき)さんです。
動画では、インタビューの際の象徴的な単語であった「ダイレクト感」への問いかけ、八郷に訪れたきっかけや活動の意図や想い、これからについてを紹介しています。トークコーナーではそれらを基により詳しくお話をお聞きしていきました。
「ダイレクト感」
大重さんは八郷に訪れるまで、製品化された木や、木として佇んでいる状態しか身近になかったとの事でした。初めて八郷で伐採された木や間伐の過程を目で見た感動が、「ダイレクト感」というパワーワードを生むきっかけになっていたようです。
山は林業としての用途だけではなく、空間としての活用もできるのではないかという課題意識を持たれていたようです。そして地域おこし協力隊を機に行動を起こし、製材所のおやかたを介して山主に掛け合い、山の手入れをすることを条件に、催事場所として活用できる承諾を得たとのことです。イベントスペースは地域おこし協力隊を離れた今も継続的に、色々な人がイベントスペースを活用しているようです。
今後もオープンな場所をどのように使っていくか、大重さんの今後から目が離せません。
井上さんにインタビュー
休憩を挟み、次は井上岳(いのうえがく)さんに対するインタビューです。他のお二人と同様に、井上さんのことを簡単にご紹介した動画をもとに、井上さんの移住に関しての経緯やお考えをお聞かせいただきました。
まず話題にのぼったのは、「井上さんと八郷のつながり」についてです。井上さんは、在学中に教授に誘われ、タイトルにもある「おばあちゃん家」を舞台とした「アートサイト八郷」に自身の作品を搬入したことがきっかけで、今度はご自身が運営に携わることになったそう。その後、卒業制作でアートサイト八郷に小屋を建てることになり、その小屋のメンテナンスを通じて、卒業後も八郷とつながりを持ち続け、「地域おこし協力隊」に参画したことをきっかけに移住することになったそうです。
井上さんはこういったつながりを「縁をつなぎとめる」と表現されていて、一つ一つの活動が一本の糸になる、あるいはつながるように行動しているとか。
さらに、この時間では2つの気になるキーワードが飛び出しました。
1つ目は、「上林製材所の親方」さん。お三方が山に飛び込むきっかけをつくったキーマンです。井上さんいわく、「太陽みたいな人」「スーパースター」だそうで、彼がいたことで井上さんは山や素材、材料(木材など)に対する捉え方や考え方が深まり、自身がこれまで学んできた建築などの活動との結びつき、「暮らし」と「山」がどう繋がるのか、ということが具体的に捉えられるようになった、とのことでした。
2つ目は、「バランス」のお話。ここまでのお話の中で、井上さんは自由でとてもチャレンジングな方のように感じました。そんな井上さんご自身も移住当初は「生活は大丈夫なんだろうか」と不安になったこともあったとか。生活に必要な収入を計算した上で、最低限のバランスをとっているそうです。不安になりすぎず、それ以外の自由なリソースをどう使うかは自分次第、と考えるようにしているからこそ、豪快な挑戦ができるのかもしれませんね。
質問コーナー
続いては約10分間の質問コーナーです。この時間ではゲストの3名に事前アンケートからいただいた質問と、オンラインイベント中にチャット欄からあがった質問にお答えいただきました!
イベント開催前の事前アンケートでは、
・アートを知らない地元の人たちに、どのように受け入れられてるか、どのように発信しているのでしょうか。
・今まで住んだ所と違うと感じたのはどんな点ですか?
・移住者は移住者どおしで固まりがちですが、率先して地域に関わっていった方法や、また固まりがちな移住者を地域に関わらせていくアイデアなどがありましたら是非お伺いさせていただきたいです。
といった、地方への移住や、慣れない土地で活動することへの不安を感じている質問がありました。しかし当日のチャット欄ではこんな質問が出ました!
・木の種類で価値が変わったりするのですかね?
・給料の木で何か作りましたか?
・八郷で暮らすには車は必須ですか?
・家賃いくらくらいで住めますか?
・年間通じて、過ごしにくい季節はありますか?
・おばあちゃんちは、誰でも訪問できるんですか?
・八郷で暮らすのに向き不向きってありますかね?
などなど。
実際に移住されているムサビ卒業生のお話しから、八郷の良さを感じ興味をもってもらえたためか、八郷という土地に関する具体的な質問が多かったです!また、なんとチャット欄に八郷在住の方がいて、答えてくれた場面もありました。
終わりに
ここまで武蔵野美術大学の卒業生が自然豊かな八郷で活躍している様子をお伝えしてきてきましたが、いかがでしたでしょうか!八郷に惹かれて移住され、アートやデザインの力はもちろん、八郷の魅力ある資源を活かして自分自身がやりたいことをしながら地域のために活動する御三方の姿は魅力的に見えたと思います!
今回のオンラインイベント「はじまりは『おばあちゃん家』」が、美大に興味がある方や美大生、地方への移住に興味がある方、いま持ってるスキルを活かして何かをはじめたい方にとって、新たな選択肢がひとつ増えるようなイベントになっていたら幸いです!
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