OEDO[1-2]戦争観のアップデート
防衛の話となると必ず北方領土や竹島、尖閣諸島など──その所有権や漁業権、海底資源をめぐる経済的な利権が焦点になります。しかし年間5兆円もの国防費をかける必要は本当にあったのでしょうか? これまでも何十年間にも渡って──。たとえ自衛隊が存在しなかったとしても、国境は動かなかった気もします。
まして北海道や沖縄本島、五島列島に敵国が攻め込んでくる可能性となると皆無だったのではないでしょうか。プーチンのウクライナ侵攻が「19世紀の価値観」による「古い戦争」だと評されるように、領土の奪い合いに血道を上げるのは、もう完全に時代遅れ。経済的にはまったく採算が合いません。
そもそも「もともと自国だった領土を取り戻す」ことを主張するだけでも──ウクライナにしても台湾にしても、国際的にこれだけ非難され、経済制裁を食らうのです。真に国を愛し、国の利益を重んじるなら、領土問題に感情的になってはいけません。
しかし現実問題として「取られる=悔しい」と感じる人が多いのも事実です。行ったこともないような島、縁もゆかりもない土地のことで、ついムキになってしまうのも人間感情。致し方ないのかもしれません。でも、ちょっとだけ冷静に考えてみましょう。さもないと足元を見られて、元も子もなくなってしまいます。
第二次大戦まで続いた列強諸国による領土、植民地の奪い合いの時代を「帝国主義の時代」と呼びます。かつてのローマ帝国やその他の帝国と同様に、領土の拡大と他民族の制圧とを国家事業にしていたからです。単なる陣取り合戦です。しかしその成功が必ずしも国益につながらなかったことは歴史が物語る通り。
古くは、スペインへの金銀流入。最強艦隊を誇った大国が、大英帝国に覇権の座を譲った有名なエピソードです。中南米で先住民に強制労働を強い、富(主に銀)を自国に大量に持ち込んだ結果起きたハイパーインフレーション。領土と富の拡大が国の繁栄につながらなかった好例になります。
また新しくは、他でもない我が国家、日本。北方は樺太から満州、南方はインドネシアからソロモン諸島まで──敗戦によりの広大な領土を失ってからの奇跡の復活。世界が目を見張る高度経済成長を遂げ、Japan as No.1にまで登りつめたその経緯は、我々自身が身を持って知っています。
そんな日本がいつまでも古い価値観に囚われているようでは、世界にしめしがつきません。北方領土はともかく、岩だか島だか分からない緩衝地帯なんて、そのままキープしとけば良いのです。埋蔵量も分からず採掘コストも見合わない海底資源に、年間5兆もかけるなんて経済原則からして外れています。
そしてその経済原則以上に、人道的に見ても「帝国主義」など時代錯誤。1960年、国連による「植民地独立付与宣言」を待たずして、各植民地の自治・独立が始まりました。そして半世紀も経ずして奴隷制も、アパルトヘイトも──数千年続いた人類の悪習が風化しつつあります。
まったく不思議でなりません。ほんの100年前までの世界の常識が一変したのです。それが何の原理によるものか、誰の功績によるものか、浅学にして僕は知りません。しかも経済、政治体制以上に、一番大きく変わったのは人々の意識、常識。心のありようなのではないでしょうか。
これはもう不可逆的な歴史の潮流としか言いようがありません。世界の民主化と自由化により戦争が沈静化していくことを弁証法的に論じた『歴史の終焉(フランシス・フクヤマ)』──今世紀も続く紛争や戦争、文明の衝突を持ち出されて否定されることもありますが、その判断は早計に過ぎます。
僕は弁証法というよりもコーヒーに落としたミルクポーションが広がるように、エントロピー的な法則により戦争の歴史は終焉するだろうと踏んでいます。ゆっくりと渦を巻きながら、時にムラをつくることはあっても、フクヤマも言うように、長い時をかけてゆっくりと、そして自然に──。
「地球防衛隊」法案の一端は、歴史が時折見せるこの奇跡とでも呼ぶべきパラダイムシフトに支えられています。渦中にいる時は信じられない程の価値観の転換を、僕たち人類は遂げて見せるものです。戦後日本の民主化、ベルリンの壁崩壊など──ほんの1年前とは真逆の価値観に国民全体が平気で鞍替えするのです。
そしてその最たる例として、あの戦争ばかりに明け暮れていた欧州の統合を、いったい誰が予想できたと言うのでしょう。現在のEU内で「皇帝ナポレオンにオレはなる!」と宣言するのは無理ゲー。同様に今の日本で「戦国武将にオレはなる!」と叫んでも、嘲笑を誘うだけで相手にもされないでしょう。
いずれは世界全体がそうなります。「帝国主義」が相手にされなくなったように。ならば「地球防衛隊」によるメディア戦略で、敵国の領土よりも、世論を奪う方がずっとスマートで、はるかに効率的、経済的。領海侵犯時の海上保安庁の仕事も、海賊王を撃退するぐらいなら造作もなくなることでしょう。
※最後までお読み頂きありがとうございます。この「地球防衛隊」全体の構想は最初の投稿「OEDO[0-0]地球防衛隊法案──概論」にまとめています。それ以降の章は、この章も含めて、その詳細を小分けして説明する内容になっております。
第一部[1-1]〜[1-9]では「戦争観のアップデート」について。第二部[2-1]〜[2-9]では「地球防衛隊の活動と効用」について。第三部[3-1]〜[3-9]では「予想される反論への返答」について。第四部[4-1]〜[4-9]では「地球防衛隊に至る思想的背景」についてを綴って行く予定です。
敢えて辛辣に、挑発的に書いている箇所もありますが、真剣に日本の未来を危惧し、明るいものに変えて行きたいとの願いで執筆に励んでいます。「スキ♡」「フォロー」や拡散のほど、お願いいたします。