デンマークの若者達はどうしてメンタルをやられているのか
のびのびと育つ環境。一方でのひずみ
デンマークの教育といえば、日本に比べて、自由で柔軟。そんな中で育つ若者はストレスや心の病は少ないだろうとイメージすることも多いと思われます。近年、デンマークの教育やパブリックヘルスの現場で問題視されている若者の心の不調について、調査や個人の経験を交えて、紹介します。
統計でみる若者の心の不調
デンマークでは、若年層のメンタルヘルスの悪化が問題視されています。
4年に1度行われる全国的な健康調査、デンマーク国家保健委員会の2021年の結果では16-24歳の女子で35パーセントがメンタルヘルスが悪い状態にあると出ました。2023年の結果ではさらなる低下は免れたものの、未だに高い数字を保っています
出典:Sundhedsprofilen_2023_230124_KORT.indd (sst.dk)
心の不調を訴える若者の中でも、家庭環境などで深刻な苦境にさらされていると答える人はごく一部で、いわゆる安定した一般家庭をもつ人が大半だとも言われています。これは、メンタルの問題が複雑化、深層化している事を考えさせられます。一方で深刻な苦境にさらされている少数の若者は、他の若者と比較して、心の不調の問題を抱えるリスクが顕著に高いことは変わっていません。
出典:Børn og unge i Danmark. Velfærd og trivsel 2022 - vive.dk
心の不調の原因
若者の不調が増加している理由について、最近行われた青少年研究センターの研究プロジェクトでは、以下の三つの大きな要因を指摘しています。
教育のペースの加速傾向
長い教育機関での学習をより速く終わらせ、早い時期に人生で何をしたいかを知っていなければ、幸せになれないと感じるデンマークの若者が増えています。若者は以前よりも自分の生活が自分の選択と能力により大きく左右されるという強い感覚を持っており、自分の生活のさまざまな側面で、取り残されたり、大事な仲間や集団の外に立たされるのではないかという恐れから、外からの圧力を断る能力がないと感じています。
パフォーマンス
デンマークの若者は、多くのことを達成しなければならないという、自分自身のパフォーマンスに焦点を当てています。学業面でのテストや評価でのプレッシャーに加えて、社会的にも、友達や、仲間に受け入れられなければいけないという、プレッシャーがあります。このようなプレッシャーは、ソーシャルメディアによって強化されているといわれています。
心理学化
個人の意思決定が重要なデンマーク。これによって、デンマークの若者は自分が、何を、なぜ、しているかについて常に自己認識することが増えています。この内面の自己認識のプロセスは心理学化とよばれています。心理学化は、自分が抱える思考や感情の整理や理解に役立つかもしれませんが、一方で、自己監視的、自己批判的、自己規制的な結果となり、心の不調を増大させる可能性もあるといわれています。
出典:Mistrivsel i lyset af tempo, præstation og psykologisering - om ny udsathed i ungdomslivet (cefu.dk)
学校でウエルビーイングが重要だから、逆に問題視されるんだよ。
これは、デンマ-クと日本の学校の両方を経験したことのある、私の子供の一意見。日本の小学校では、先生や生徒たちの関係で、成績や学業がとても重要だった。だけど、デンマークの小中学校では、成績よりも、クラスでのウェルビーイングが重要で、ウエルビーイング活動や、話し合いをすることが多いから、みんな自分の気持ちや心の不調を表現しやすい。だから悪かった時は、問題として取り上げてもらえるし、問題にもなるのだ、と言っていました。
社会全体において、心の健康を大切にする文化が浸透している、のは良いことだと思います。ただ、心の健康状態に過度に注視する、心の状態が常に評価される、ことによって、問題が肥大化することもある気がしてならない今日この頃です。