見出し画像

その心を包むもの ショートショート600字

さむい...。
つめたい...。

薄暗く冷え切った部屋で僕は1人、君を待っていた。

「がちゃり。」
部屋の空気を揺らすその音は僕の心を躍らせた。

でも、入ってきた君の様子にすぐにその心は沈む。

かなしい匂い...。

僕は毛羽立たせて、無い鼻をひくつかせる。

手洗いとうがいを済ませた君はベッドに来ると、僕で身体を包む。

冷たい身体に冷たいココロ。
僕たちは互いの温度で温め合う。

「おつかれさま。
今日も頑張ったんだね。」

届くはずもない言霊を僕はそっと君に送る。
君が涙を飲んだのが分かった。

君は僕の端っこをぎゅっと握りしめる。

たかが毛布の僕には君に何があったのかは分からない。
でも、心を見るにひどく傷つき、失望し、落ち込んでいることはわかる。

その傷の深さが分かるから、「大丈夫だよ。」なんて言えない。「必ず夜は明けるよ。」とも言えない。

言霊を送ったところで届くかどうかも分からない。

僕にできるのはただ寄り添いその身体を温めるだけ。

ただ、それだけなんだ。

でも、その辺の人間どもよりも君の心は分かる。
僕に痛覚はないけれど、その痛みが分かる。

だから傷ついてささくれだった心をそっと毛羽の1つ1つで柔らかく包む。

君はぎゅっと僕を抱きしめ、声を殺して泣いた。
照明に反射してきらきらと零れ落ちたその涙は、僕に吸い込まれていく。

いつかこの夜が明けたら僕から離れてしまうのかな。この冬が過ぎ去ったら、また僕を置き去りにするのかな。

そんなの絶対にゆるさない。
僕は君に寄り添い続けた。
その体温を吸い尽くすまで。


#毛布ホラー


とことこてーさんからインスピレーションを貰って書きました。
みなさんも#毛布ホラーのハッシュタグで書かれてみてはいかが?
飛んで見に行きます。

#よづき

いいなと思ったら応援しよう!

よづき|ASD不安障害の物書き
応援してくださる方は、もしよろしければチップをお願いします。頂いたチップは病気の治療費に使わせて頂きます。