見出し画像

シベリウス初心者お断り?なロジェストヴェンスキー指揮の交響曲全集

北欧系ともドイツ系とも一線を画したかなりホットで個性派のシベ全。

基礎情報

曲目: シベリウス『交響曲全集、ヴァイオリン協奏曲』
演奏者: ゲンナジー・ロジェストヴェンスキー指揮、モスクワ放送交響楽団、ダヴィッド・オイストラフ(ヴァイオリン)
録音: 1965〜74年、ステレオ

全曲レビュー

交響曲第1番

熱気が溢れるような強奏はいかにもロジェストヴェンスキーの音。全楽章のクライマックスにおける豪快な鳴らしっぷりはチャイコフスキーを振っている時に通じるものがある。多少のミスなんてものともしない。

推進力と力感に満ちた演奏ではあるが、第一楽章の展開部に入る際のピッツィカートや、第二楽章の再現部導入、第三楽章の中間部、第四楽章の第二主題部など、所々慎重過ぎるくらいの間の取り方をしていて、一瞬止まったような気さえしてくる。

交響曲第2番

この全集の中で第1番と第2番はインテンポの部類に入る。第一楽章はかなりゆったりと始まったかと思えば次第にテンポが速くなったりと、やはりアゴーギグは独特。あと、こんなに暑苦しい展開部は聴いたことがない。第二楽章は第二主題部で肩の力が入り過ぎており、コーダはいちいち溜めすぎな印象。少しピッチも怪しい。

第三楽章は比較的オーソドックスな演奏。弦のフレーズがクリアに聴こえるので緊張感がある。第四楽章はオスティナートがドラマ性を構築する重要要素として際立っている。しかし、金管はそれに輪を掛けて自己主張が強いのでクライマックスでは少々煩く感じる。

ヴァイオリン協奏曲

オイストラフの成熟した演奏スタイルと、ロジェストヴェンスキーの若き才気の見事な融合。オイストラフは大河の流れのようなしなやかなスケール感がある。交響曲同様に北欧的な冷たさや澄んだ空気よりも、情熱とロマンを判断に盛り込んだ我流のシベリウスになっている。

第一楽章から深みある音色と緻密なボウイングテクニックで聴き手を引き込む。第二楽章は語りかけるようなフレージングで終始荘厳な雰囲気が保たれる。第三楽章はオイストラフの精巧さが際立ち、終盤の対話が力強い。

交響曲第3番

これまでと一転して快速演奏で通している。第一楽章のティンパニを劇的に駆使した第一主題部の高揚感はムラヴィンスキーを想起させる。あれほど引き締まった緊張感はないが。第二楽章は非常に速い演奏。第二番までのひと呼吸置くような休止は一応あるものの終始忙しなく聴こえるし、繊細なディナーミクも効かせていないので変奏の魅力が伝わる余地がない。

第三楽章はコラール部分でインテンポになる。この部分は弦から金管へと主導権の移行が極めて明確なので、ロジェストヴェンスキーの芸風が適合し、堂々たる印象を与える。

交響曲第4番

第二楽章を除いて全体に速めの演奏。室内楽的で寒々しい印象の音楽であるが、ロジェストヴェンスキーにかかるとここまで熱気を孕んだシンフォニックなものに仕上がる。

第一楽章の展開部以降や第三楽章で顕著だ。音色からして根本的に北欧系とは違う。テイストが真逆であっても、奇を衒わずにサクサク進む様はベルグルンドにも通じるものがある。

交響曲第5番

引き続き速めのテンポの演奏。第一楽章は、弦に対して金管やティンパニの喧しさが目立つ。コーダはその極致。後半部分へ移行する際も結構急な加速をしているのも特徴的だろう。

第二楽章はこの曲にまだこんなに盛り上げる余地があったのかと面白い驚きを得た。第三楽章は非常に個性的なアプローチ、第二主題のホルンが朗々とは対極の切れ切れな奏法で終盤に至ってはいくら何でも力が入り過ぎているのではないかと思う。

交響曲第6番

今回の全集において、3番以降では唯一インテンポの演奏。第一楽章も非常にゆったりとした立ち上がりで、透明感の高いサウンドを提供する。やはり再現部では熱量豊かに咆哮するのだが。第二楽章だけはせかせかした印象を与える。

第三楽章は起伏がハッキリしているので比較的驚きは少なかった。第四楽章は金管があまりにも力強く音を伸ばしているので他の演奏と別物に聴こえる。

交響曲第7番

こちらも20分台の引き締まった演奏。予想通りトロンボーン主題は力強い。ムラヴィンスキーが硬派で冷徹な攻撃性を持っているのに対し、ロジェストヴェンスキーは曲に内在するエネルギーを引き出して爆発させるようなイメージだ。終盤へ向かうに連れて加熱していくペース配分は円熟を感じるし、だからこそコーダの核主題の回帰が堂々たるものになる。

ロジェストヴェンスキー特有の魅力とは?

ロジェストヴェンスキー指揮のシベリウス交響曲全集は、その演奏スタイルと録音特性により、意見が分かれやすい。

演奏スタイルと特色


ロジェストヴェンスキーのシベリウス交響曲全集は、その豪快で力強い演奏が際立っています。特に金管楽器の強調や、ティンパニのアタックが鮮烈で、まるで爆発的なエネルギーが放たれるかのような印象を与える。「体育会系」「ヘヴィー級ボクサー」などと形容されるように、力強さと迫力を前面に押し出した演奏だ。このようなスタイルは、従来の北欧の抒情的なシベリウス像とは異なり、ロシアのオーケストラ特有の力感と熱情が感じられる。

この全集では第1番や第5番など、特に金管の使い方が際立ち、圧倒的な音の迫力を感じさせます。中でも第3番と第6番では、弦楽器の伸びやかな表現が評価されています。これにより、シベリウスの交響曲における「怒濤」や「深い叙情性」が力強く描かれている。

録音と音質


録音については、古さとともに音質の問題が指摘されがちだ。特にLP時代の録音からの移行に伴う音質の劣化や、金管楽器の歪みは問題になりやすいかもしれない。音の明瞭さや細部の再現には限界があり、音の「想像」を余儀なくされる場面もあるだろう。その一方で、再発盤では、音質が改善され、より良いリスニング体験が提供されるとの意見もあり、このあたりは聞き手の感性次第だろう。

評価の分かれるポイント


賛否が分かれる要因の一つは、シベリウスの「北欧的な抒情」よりも、ロシア的な力強さや劇的な表現が前面に出ている点だ。北欧の繊細さや自然美を期待するリスナーには、異国情緒が欠けると感じられるかもしれない。

その一方で、ロジェストヴェンスキーのアプローチは、シベリウスの音楽を新たな視点から捉え直すことを可能にし、力強い演奏が一種の新鮮さをもたらしている。

全体として力強さや熱量が注目され、特にヴァイオリン協奏曲についてはオイストラフは名演と言え、感情表現の深さが格別だ。

一方で、第1番や第5番をはじめ金管楽器の強調やトゥッティの激しさが、過剰に感じられる意見も多い。これにより、シベリウスの音楽が単なる爆音に感じられることもあり、個々のリスナーにによって評価が大きく分かれる要因となっている。

総括


ロジェストヴェンスキーのシベリウス交響曲全集は、その力強い演奏スタイルと音質の特性から、シベリウスの音楽に対する一つの新しい視点を提供している。豪快な表現と音楽の力感は、従来の解釈とは異なる魅力を持っているといえるが、シベリウスの「北欧的な抒情」を期待するリスナーには賛否が分かれることも理解できる。録音の古さや音質の問題もあるが、オイストラフのヴァイオリン協奏曲など、いくつかの名演も含まれており、シベリウスの作品を深く掘り下げたいリスナーには新たな発見をもたらすかもしれない。

まさにロジェストヴェンスキーのファン向けな、個性派中の個性派なシベリウス全集と言えるだろう。


最後まで読んでいただきありがとうございました。

いいなと思ったら応援しよう!