「二月の勝者」のリアルな小学生たち
少子化が進んでいるにも関わらず、中学受験する小学生の数が過去最高というニュースを見て驚きを隠せないでいます。
https://toyokeizai.net/articles/amp/430006?display=b&_event=read-body
ちなみに、私は20年以上前に中学受験を経験した経験者ですが、子供に関しては中学受験をしても、しなくても、どっちでもいいかなと思っています。(むしろ学力が低い場合には、中学受験しない方がいいという意見すら持っています。)
なぜ、みんなこぞって中学受験を目指すのか、最近の中学受験事情を知るために、Twitterで「リアルだ」とよく話題に出る「二月の勝者」を読んでみました。
昔と今の中学受験を比較する
父親の経済力と母親の狂気
この漫画を象徴する強烈なキャッチ・フレーズです。最近の中学受験では、親が塾に落とすお金は年間100万円以上。それに加えて母親の熱心な教育サポートが必要だそうです。
私が中学受験をした、1990年代と違って、今の中学受験は親にとって過酷な戦いになっているという印象を持ちました。まず、私は塾に加えて個別指導も受けたというような話は、聞いたことがありません。一部にはいたのかもしれませんが、少なくとも一般的な話ではなく、塾自体の費用も含め、より重課金化が進んでいる印象を受けました。また、昔より、塾の指導内容が洗練され、入試の形態・戦略も複雑化しているいう印象を持ちました。昔は入試は午前中のみでしたが、午後も受けれるようになったので、受験手数料や入学金の負担も昔より大きいでしょう。
しかし、親が頭を悩ます一方で、小学生が勉強に取り組む様子は、昔とあまり変わらないなという印象を持ちました。
この記事では、登場人物の小学生を元ネタに、20年前にもいたような中学受験生たちを紹介し、どの時代にも共通する子供の受験戦争を考えてみたいと思います。
※重大なネタバレはありません。
努力家優等生・前田花恋
女子校トップの名門・桜蔭を狙う優等生の女の子。勉強が得意で負けず嫌いです。
自分を追い込むあまり、ストレスから髪の毛を抜く描写が心配ですが、成績は塾の中で女子トップ。
私の小学校の同級生にも、こういうタイプの子がいました。彼女はストレスから鉛筆を10本以上折ったらしいですが、最終的に彼女は御三家に進学しました。
こういうイメージがあるために「中学受験は過酷」という意見もあるのでしょう。しかし、ここまで目標にまっすぐ、がんばれる子はそう多くはありません。また、こういう子は、公立小のレベルの低い内容では不完全燃焼でしょう(中学受験の勉強は、高校生くらいの内容まで先取りします)。メンタルのケアには気をつけつつも、中学受験を進めたいタイプです。
教育虐待の優等生・島津順
男子トップ・開成中を狙う男の子です。実はお父さんの教育熱心さが高じるあまり、お母さんに暴力をふるうという家庭事情を抱えています。
私の身近では、大事にしていた漫画を全部捨てられた子がいました。しかし、親にこういうことをされると、普通は勉強が嫌いになったりして、成績落ちて中学受験どころでなくなるか、受かっても大学受験まで持ちこたえられないのが関の山です。漫画を捨てられた私の知人も、中学に入学後、親への信頼と勉強へのやる気をなくし、三流私大に進みました。
登場人物の島津くんは、高成績をキープしていますが、珍しいパターンです。実際のモデルがいたとすると、相当地頭のいい子だったのでしょう。普通は萎縮した暗い性格になり、成績も落ちてしまいます。
なお、某学習塾経営者のお話によると、1学年40人くらいの生徒を持つと、1人くらいこういう家庭の子がいてもおかしくないそうです。
レアなケースではありますが、父親が受験指導に熱心になるあまり、子供を刺し殺した事件も起きているそうです。
天真爛漫・直江樹里
算数はパズル感覚で解き、ゲームや遊びの中で知識を自然に覚える、天真爛漫な女の子です。制服のない自由な御三家・女子学院を目指しています。
実は、私自身がこれに近いタイプでした。好きな科目は勉強するけど、そうでない科目は勉強しないというムラがある、競争意欲はそこまでないのも同じです。この子の「算数はパズル感覚」というセリフは実際に私も言ったことがあります。
こういうタイプは自分が気乗りしない事(特に単調な暗記)でもコツコツやるクセをつけないと、あとあと苦労します。しかしながら、中学受験の塾に、もっとも楽しく通っているタイプでもあります。
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この漫画は、所々リアリティがある小ネタが散りばめられているのですが、上記優等生の親の職業もそのひとつです。桜蔭志望と開成志望の子の母親は医療系専門職、女子学院の子は美容院の経営者。高給で潰しのきく医療系専門職を選ぶ母親や、色々なことに気を配らなければならない経営者という職業には、普段から頭を使った生き方をしている親に育てられている子供がトップ層というメッセージを感じます。
カルタを使って自然に歴史ネタを覚えたり、大人の本が混ざった本棚で自由に読書を楽しむ描写など、自然に勉強のネタを覚えられる環境が整っている様子も印象的でした。
公立中回避・柴田まるみ
小学校に不登校で、公立中学を回避するために中学受験を目指しています。なので、そういった繊細な事情を理解してくれる、偏差値低めの私立中学を目指していました。
しかし、女子学院に通う先輩に会って憧れを持ち、上を目指し始めます。コミュニケーション能力に難のある子でしたが、同じ志望校を持つ直江樹里との友情を通じて人間的にも成長していきます。
また、この子のエピソードでは、子供の障壁を取り除いてしまう過保護な母親にもリアリティを感じました。そういう親の子はチャレンジができず、どんどん弱くなっていきます。母親がよかれと思っていることが、子供に害を及ぼしているヘリコプター・ペアレンツの典型例です。
なお、不登校でなくとも、こういう親子が最寄りの公立中に不信感をもって、私立中を受けるというのもよくある話です。
親に誘導されつつも...(多数の生徒)
本人は中学受験に強い希望を持つわけではないが、親の言うがまま、時に親に反発し、時に一緒に考えて、自分の偏差値で狙える志望校を目指す生徒たち。
はっきりした目標もなく、偏差値が上がらない我が子に多額の塾代を払う親。親は金策に頭を悩ませるが、子供は文房具を揃えたり、友達と悪ふざけをしている。
特別なストーリーではありませんが、非常にリアリティがあります。実際の中学受験をする家庭の半分くらいが、こんな感じのモブキャラ親子になることでしょう。冒頭に紹介した御三家を目指して過酷な受験戦争を闘える人は、ごく一部なのです。
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最下位クラスには、以下に紹介するように、勉強を頑張る同級生を邪魔するような子もいます。
プライドだけ高い・今川理衣沙
他人と自分を比較したがり、実力が伴わない割にプライドは人一倍高い、一番成績が下のクラスに通う女の子です。過去問の解答を丸暗記して小テストを乗り切るような、目標をはき違えた行動をします。そんな調子で偏差値は上がりませんが、志望校のレベルは下げるつもりはなく、「私はまだ本気をだしていないだけ」と言い訳を始め、母親も「あの子は後伸びするタイプだから」と、現実を見る努力をしません。
しかしながら、同級生が勉強して力をつけてくると、文房具を隠したり、正しい採点を邪魔したり、嫌がらせをするようになります。そんなことをして、塾でライバルに打ち勝っても志望校への合格が近づくわけではないので、いまいち目的に沿った行動ができていないのですが、自覚がありません。
このお母さんは娘に「勉強しなさい」というわりに、娘さんが「どう勉強するの?」と聞くと、「あんたが考えない」というような感じで、娘に丸投げです。
残念ながら、大学受験でもこういう人いますよね。結局の所、ちゃんと地に足をつけて物を考えられていないんですよね。
学童代わりの塾通い・石田王羅
塾に来ても、遊んで他の子を邪魔するばかり。こういう子は私が通っていた塾にもいました。なんで学力不足なのに、中学受験の塾に通っているんだろ?と当時から疑問に思っていましたが、親になった今、このエピソードが一番考えさせられました。
石田くんの家は、母子家庭で、お母さんは働いている間、構ってあげる暇はない。学童保育は3年生で終わり、公園ではボール遊びをするでもなく、みんなゲームばかり。
しまいには、カードゲームを買うためのお金を親の財布から盗んでしまいます。
そこで苦肉の策として、勉強が得意ではないのに、拘束時間が一番長い中学受験の塾に"放課後預けられる"ことになります。
私は、このエピソードを読んで、共働きの場合の子供の居場所をどうしたらいいのかと考えさせられました。私が子供の頃のように、公園で適当にサッカーをしたり、友達の家に行けばいいという考えは通用しないのです。
放課後の居場所。中学受験に限らず、昔より学習塾が街中に増えたのは、共働きの家庭が増えたことと関連しているのかもしれません。
少子化なのに中学受験は盛況な現状
私が子供の頃、少子化によって塾産業や私立中学は、縮小するという観測を聞いたことがあります。しかし、実際はその逆で、1人の生徒からより多くのお金を取る仕組みで繁盛しているようです。
しかし、親の重課金化は進んでも、勉強する子はよく勉強するし、勉強しない子は勉強しない。そんな姿は、私の頃と大して変わりません。登場人物の子供たちを見ると、「こんな子いたなぁ。親もこんな感じだったわ」と懐かしさを覚えました。
(記事中の画像は全て、「二月の勝者 絶対合格の教室(1〜12巻)高瀬志帆著」より引用)
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