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【ショートショート】13章の③



娘の結婚

王様の娘を手に入れることは、ある意味簡単であった。それまでに培ってきた王様からの信頼もある。王様の娘は、世間知らずのところもあり純粋であったので、この男の言うことを真に受けてしまう。年は20歳に近づこうとしていた。王様も娘も20歳までには結婚をと考えていたので、焦りもあった。占星術で相手の特定をするのだけれど、その相手はこの男自身だと言い切り、この男と結婚しないと将来子供を授かることができない。そうなるとこの国は滅びてしまうのだと、脅しも含めて結婚まで漕ぎつけた。

細胞分裂して増殖した欲望のままに、この男は王様の娘までも手に入れた。故郷に置いてきた妻と娘はいないのも同然であった。

衰退の陰

それからというものの、男の身勝手さは日に日に増していった。王様も歳を重ねて、随分気力も落ちていったのもあるが、この男が権力を握ろうと意図し、王様の気力さえ奪うような行いも裏でしていた。まるですでに自分が王様になったかのように、頑固でわがままに振る舞い続けた。王様の力だけでなく、国全体の力も衰退し始め、貧困が広がっていった。この男が贅沢をしようとすればするほど、多くの人が貧困に苦しんだ。
貧しい者からも厳しく貢ぎ物の取り立てをした。飢えで亡くなり、道端に屍が転がっていた。
一度味わった贅沢を止めることが決してできず、王様のように勇気ある行動をすることができなかったこの男が、いよいよ国王の座に着く頃には、かつての煌びやかな国力は無い。
国に貧困が広がると、隣の国にまでその貧困が伝染する。歪んだ国、不調和なエネルギーで満ちたこの国が及ぼす影響は大きい。周りの国々の君主たちは、この国の王である男が全ての悪の元凶であると考え、この国を滅ぼそうと画策を立て始めた。

孤独な最期

周りの国の権力者たちにとって、衰退した国力をなんとか保っていたこの国を滅ぼすことは容易であった。勇気ある王様の娘であるお妃を奪い取り、男を牢屋に閉じ込めることに成功した。
もっとお金が欲しい、もっと豊かになりたい、もっと高級な物を得たい、そんな欲深さを出すだけでなく、人を騙して洗脳してまで王様の娘と結婚した男。男の結末は虚しく、寂しいものであった。暗くじめっとした地下の洞窟に閉じ込められて最後を迎えたのだ。最後のその光景はとてつもなく寒々しい。寒さの中で目を閉じていくと記憶が飛んでいく。今自分が生きているのか、死んでいるのかも分からなくなる。今度眠りについたら、もうこの世にはいないのかもしれない。自分の欲のために、大好きな父親も捨て、自分のために尽くしてくれていた奥さんも捨てた。かわいい娘さえも捨てたのだから、自業自得なのかもしれない。欲に眩み続けた人生であった。本当のところは、温かさや人の温もりはすでに手にしていた。あえて、その温かさに気づかずに欲に走ったのだ。

前世がもたらすもの

この前世は今の私に何をもたらすのか?欲深くなること、欲深い自分自身を表現することの恐怖。欲に忠実に突っ走ることで最後は孤独の中、死んでいったその結末に怯えている。自分にある欲深さを晒せない。しかし、その秘めたる欲、情熱は確かにそこにある。もっと愛し、愛されたい。人の肌の温もりを感じ、人の声の振動を聴いていたい。愛を受け取るだけでなく、人に愛で接することをしたい。表面的に見せるクールさとは裏腹に、私は愛欲に溢れている。自分が自分を認めることが大事だ。自分が自分のことを分かってあげることで随分と楽になる。素直にその愛情を表現していこう。

そして今の私の使命へと繋がっていく。『本当の自由は、責任があることを忘れず、自由に子どものように自分の才能の花を咲かせていく』
この前世の男は、自身の才能を咲かせることには成功している。しかし、大切な家族を捨てたことや多くの人を自分の思い通りにコントロールし、貧困に苦しめたカルマは大きい。

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