叶えられた祈り
さまざまな願望を確かめてみれば全部現実になっている。しかも自分が恐れていた事をゆらゆら、ひょろっと避けている。
避けてる?
避けるというよりも、逃れる?
いや、逃れるというよりもそれは別世界の出来事だったのかもしれない感覚だよ。
パラレルワールドってやつを知ったのは、リチャードバックの小説だった気がする。
確か、イリュージョンってタイトルだった気がする。ずっと本屋であらすじを集めてた頃、金もないのに買った文庫本だ。
たくさん本を買ってもどのページからでも読める本というやつは、純文学だろうと詩集だろうとポルノだろうと、ファッション雑誌やサブカル雑誌と同じ感覚で読んでしまう僕は、あらすじを集める事こそ欲を満たすものであった。
もっと知識があれば、苦悩なんてなかったのかも知れないと考えた時があったが、様々な書籍で知識を積み上げた方々の脆さを知るのは最近の事だ。
ウィリアムバロウズが、アレンギンズバーグが死んだ時に、ビートニクスとは精神の解放、意識の拡大と言った、らしい一文をサブカル雑誌で読み、僕に深く刻まれる。
僕は、ずっと、僕なりの精神の解放、意識の拡大を目指し作品を生まれた場所で発表し続けた。
たどり着いたわけじゃないが、ただ手をつなぎ、笑顔して、くちびるを合わせる歓喜を発表したくなっている。まあ、ある意味、解放と拡大かも。
叶えられた祈り、この言葉にはなんとなく強烈なイメージがあった。
確か、トルーマンカポーティの小説のタイトル、だったかもしれない。
読んでいるわけじゃない。
祈りが叶うという事を考えたこともなかった。
それが、叶えられた、祈り、という言葉に僕の内面は踊っていた。
願望、祈り、全部、実は叶ってた。
叶えられたと言ってもおかしくない。
それを確認、実感し始めたのだ。
んな事を考えたら、久しぶりにセイコーマートで、あのワインを飲もうと思ったわけだ。
会話はないが、八十六歳の女性と今、呑みながらこれを書いてる。
この今を祈った事はない。
ただもうこの世にはいないふたりの女性を浮かべた。なんとなく味噌汁の調理途中の出汁の匂いが化粧ガラスに染み付いているようだ。
ゲジゲジが横切ったので捕まえて外に逃してやった。虫ってやつはなんで、別れ際に、別れたくないと少し足掻くのだろう。