
- 運営しているクリエイター
#和風ファンタジー
厄咲く箱庭 〜忌神と贄の花巫女(1)壱.両極の能
序幕.尊巫女
――これは常世の何処かに存在すると伝えられてきた、古の理が息づく別世のお噺。
そこに生きる人族の民は、八百万の神々を崇め、妖を畏れる暮らしと共に在った。
その中でも、彼らを祀り、鎮める社を司る一族に生まれ、特異な能を持つ人族の女は『尊巫女』と呼ばれる。
彼女達は、十八になると神々の住む神界に向かうという契約が、遥か昔からあった。雨喚ぶ巫女は龍神界、陽をもたらす巫女は稲荷
厄咲く箱庭 〜忌神と贄の花巫女(4)弐.二律背反
弐.二律背反居場所
それは理解していた事実だったが、先程の会話の中で感じ取った、逆に彼の何かが自身と共鳴し、救いを求めているような……そんな自惚れと勘違いしそうな予感があった。
それが、どうしようもなくアマリを駆り立てていたのだ。それが何という感情なのか、動力なのかも……わからないまま。
「貴女様のその心持ちは美徳ではございますが、場合によっては、ご自身を窮地に陥れる要因にもなり兼ねませ
厄咲く箱庭 〜忌神と贄の花巫女(3)弐.二律背反
弐.二律背反保護
――…………
……遠い、遠い彼方から、何か……聞こえる。
キャン、キャン、という悲鳴のような子犬の鳴き声。『かえして。おねがい。しんじゃうわ』と必死に乞う自分の弱々しい叫び声。その場に座り込んで、ひっく、ひっく……としゃくりあげる。
涙と鼻水で濡れた顔がみっともなくなり、慌てて拭おうとした瞬間――自分と変わらない大きさの柔らかな手が、その手を包んだ。
続いて、ぶ
厄咲く箱庭 〜忌神と贄の花巫女(2)壱.両極の能
壱.両極の能八百万の河
どのくらいの時が過ぎたろうか。暗がりの狭い駕籠の中、アマリの意識は寝不足と空腹で朦朧としていた。昨夜から今日一日、社の地下水しか口にしていない。人族の世界――俗世の気を少しでも身体から失せさせる為と聞いた。
窓どころか隙間も無い駕籠の中からは、外の様子は全くわからない。何処を通っていて、どの方角に向かっているのかも、弱った頭や身体では感じ取れずにいる。万が一、尊巫女