聞こえない歌
向こうから男が歩いてくる
痩せ気味だが筋肉質だ
みすぼらしい服を着て
薄い唇をきつく結んでいる
薄汚れた顔で目がぎらついている
何やら重い荷物を背負っている
靴は破け足から血が流れている
眉間の深い皺には砂埃が溜まり
ゆったりと王族のように歩く
木陰に座って息を整えるようだ
無邪気な子どもが話しかける
どこから歩いてきたの?
憶えていないと男は答える
意外なほどに優しい声
男はすぐに目を伏せた
眠っているように見えたが
荷を大事につかんでいる
老婆が肩を叩き一杯の水を渡す
男は黙ったまま飲み干すと
そのまままた目を一度閉じた
うっすらと目を開いて
男は老婆を見つめて言った
あなたのような人との約束だ
王になるために旅をしたのだ
多くの味方を得たが多くを殺した
この世の悪辣を行い尽くし
あらゆる善行を施した
あの人はもう死んでしまった
それなのに俺はまだ王ではない
それどころか落ちぶれの身だ
賞賛も罵倒も雨のように浴びたが
もう疲れ果ててしまった
最後は声がかすれて
男はまた眠りについた
唇には卑屈さが滲んでいる
手が宙を掴もうとしている
誰かが男をPeerと呼んだ
男は目を開き首を横に振る
そして小さくつぶやく
これほど醜くみすぼらしい男を
待つ者などひとりもいないのだ
Peerと聞いて
ほとんどの者が嘲笑した
わずかな者は畏怖の念を抱いた
相変わらず首を振って男は言う
違う俺はずっと囚われの身だ
辺りの者たちは
安堵かあるいは落胆の表情を浮かべる
森から歌が聞こえる
遠い昔から繰り返される歌
だが男の瞳は宙を見て動かなかった
Solveigs sang
※動画の曲に刺激を得ていますが、この詩と動画の曲に直接の関係はありません。
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