『アルフィー』 マイケル・ケインが第4の壁を破り観客に絶えず語りかける異色作。60年代ロンドンの空気感にも見どころがいっぱい。
60年代のイギリスといえば、よくスウィンギング・ロンドンとか、スウィンギング60’sなどという言葉でも表現されるが、とにかく世界中がイギリスの文化に熱い眼差しを向けた時代だった。こと映画に関していえば、ミケランジェロ・アントニーニの『欲望』や『アルフィー』(66)がこの時代の代表格とされるようである。
この映画はかなり特殊だ。特定の恋人を持たず、何人もの女性たちと欲望の赴くままに関係を続ける主人公アルフィーは、現代のコンプライアンスからすればかなりアウトな人間。マイケル・ケインが飄々と演じるからこそ何となく見ていられるが、こういう奴が自分の近くにいたらと思うとゾッとする。とまあ、多少イラつきながら見ていると、向こうもそれを察したのか、さも自分の行動を正当化するかのように、しきりと第4の壁を破って観客側に語りかけてくる。
これが60’sの代表格とされる理由は、ファッションとか音楽や街の雰囲気などもそうなのだが、それ以上に「性の解放」を色濃く投影していることにある。ただし、本作を最後まで見ると、決して作り手がアルフィーの生き様を肯定しているわけではなさそうだ。その証拠に、欲望の限りを貫くアルフィーのもとからはやがてあらゆる恋人たちが去っていく。そして彼の胸には、とある出来事をきっかけに芽生えた大きな罪の意識が、突き刺さったままだ。すべて自業自得とはいえ、かなり辛辣で物悲しい幕切れなのだ。
この題材、そして当時のタブーを盛り込んだ内容ゆえ、主演候補だった俳優はことごとく出演をためらった。舞台版に主演したことのあるテレンス・スタンプにも打診があったものの、彼はこれを断り、代わりに親友のマイケル・ケインを推したといわれる。結果、ケインは『アルフィー』の演技で米アカデミー賞の主演男優賞にノミネートされるなど大きな評価を手にすることに。彼の輝かしいキャリアは本作を抜きにして語れないのである。
アルフィー Alfie
監督:ルイス・ギルバート 出演:マイケル・ケイン、シェリー・ウィンタース、ミリセント・マーティン、ジュリア・フォスター(1966年/イギリス)