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2022年を代表する名作『秘密の森の、その向こう』に涙が止まらなかった・・・

こんな映画はじめて観た、なんて言うのは、昔から映画の感想や宣伝でよく見る惹句だが、本作に関しては久々にその思いに激しく貫かれた。思い返すたびに、とめどなく涙がこぼれてくる。

一見、静謐感に満ち、穏やかで、なんてことのない子ども映画のように見える。だがワンシーン、ワンシーン丁寧に織り込まれていくごとに、そこには深い感情と気づきが湧き上がってくるかのようだ。

この物語ははじめ、最愛の祖母の死からはじまるが、少女が一室一室に「さようなら」と告げて回るシーンから、彼女の心はこれまで感じたことのなかった人間の生と死にまつわる感情に足を踏み入れている。少女は祖母に別れの言葉を告げられなかったことを悔いている。そのまた母も、実母を失った悲しみで今にも崩れ落ちてしまいそう。

森には不思議が眠っている。この奥深くで8歳の少女が出会うのは、同じ8歳の、自分とよく似た少女だ。二人は無二の親友となって束の間の時間、心を通わせ合う。私たちはそれが幼い頃の母親なのだとすぐに気づき、少女に教えてあげたい気持ちにすら駆られる。だが、子供を侮ってはいけない。彼女はそのことをとうに
察し、この不可思議についてもう一人の少女に伝えるべきか考えている。「信じてもらえるかどうかわからないけれど、どうやらあなたは私のママなのだ」と。

悲しみの淵に立った時、人は誰かに心から寄り添いたいと思う。何か上から言葉をかけるでもなく、ただ寄り添いたいと願う。しかし本作はその一歩先をゆく。つまり、寄り添うのではなく、母と娘がこの森の中で、時空を超えて同じ8歳の少女の目線で知り合い、親友となり、深い秘密を打ち明けあうまでになっていく。

そこにはまだ「私」という生命を宿す前の、ずっとずっと前の、見知らぬ母の姿がある。彼女の口からは夢が語られる。悩みも語られる。「夕飯ですよ」と優しく呼びかける祖母の姿も映し出される。

生まれる前から互いのことを知っていた二人。森に満ちていく美しい輝きは、未来から差し込む一筋の光のようだ。やがて彼女たちが再会する場面の素晴らしさ。神々しさ。深淵さ。そこには母と娘である以上に、かつて8歳の目線で運命的に結ばれた愛と友情への限りない祝福がある。

私たちは別れのために生きているのではない。きっと過去に約束した出会いを果たすために生きている。


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