4月に読んだ本
東京に引っ越してきてから、書店巡りがちょっとした楽しみになっている。福井に住んでいた頃は車がないと本屋に行けなかったが、東京は車がなくても電車でどこへでも行けるので本屋がぐっと身近になった。
というわけで最近は結構本を読んでいるので、せっかく読んだものを忘れないためにも簡単に感想をまとめておこうと思う。(経験上、感想を書かなかったものは数日で内容ごとすっ飛んでしまう)(物忘れというレベルではない)
①正欲
②何者
「正欲」ですっかり朝井リョウさんの文章に魅せられて、こちらも迷わず購入。人は人と比較し見下すことでしか立っていられない__。「正欲」とテーマは違えど、こちらも、人間誰しもが心の奥に忍ばせているエゴを容赦なくついてくる小説だった。朝井さんは読者が第三者でいることを許してくれないというか、この愚かさはお前の中にあるものだ、と正面から突きつけてくる。なんて意地悪な人なんだろうと思いながらページをめくった。
演出家の三木大輔さんは解説で「その徹底された含羞の中に、どうしても隠しきれない優しさが滲み出ている」と述べている。「朝井さんの人間を見つめる厳しい目の奥に、『この世界に絶望したくない』、そういう『祈り』のようなものを感じずにはいられない。(中略)朝井さんはこの小説の登場人物のような人間たちに『罰』を下そうとしたわけでもないと思う。むしろ『赦そう』としたのではないだろうか」(解説より抜粋)。
一読しただけではこの「どうしても隠しきれない優しさ」を感じることはできなかったが、解説を読んで確かにと思う部分があった。断罪したいのなら、もっとわかりやすい悪人を書いた気がする。でも「何者」の登場人物は皆善人でも悪人でもない。だから、三木さんの言うように、善人でも悪人でもないありのままの人間を描き、その中に希望を見い出したかったのかもしれない。
③何様
「何様」は「何者」のアナザーストーリー集。6編からなる短編集だが、最初の2編以外は刺さらず、後半は読み飛ばしてしまった。
個人的には「水曜日の南階段はきれい」がめちゃくちゃ良かった。光太郎視点の語りは拓人のそれと違ってとても爽やかで気持ちよく読めたし、「何者」には登場しなかった光太郎の初恋の相手、夕子さんとのラブストーリーも非常に良かった。これで一冊書いてほしいくらい。
「何様」はオードリー・若林氏の解説目当てで買ったが、やっぱり良かった。解説というより感想文に近く、彼特有の言葉の重み、厚みを感じる文章だった。朝井リョウさんの小説はどれも解説がいい。解説そのものが面白いのももちろんあるだろうが、違う感性や知識を持つ人の感想を読むと解釈が広がる。他の作家さんも同じかもしれないが、朝井リョウさんの小説はなおのことそんな気がしている。
④エトセトラ
ハン・トンヒョンさんの論考と犬山紙子さんのエッセイがすばらしかった。生身のアイドルを推すグロテスクさ、「推される人」が抱える矛盾や苦悩を取り上げており、最近観た「成功したオタク」が取りこぼした部分をしっかりと汲み取っているように感じた。読みながら胸が苦しくなったが、「推される人」にかかる負荷が少しでも減るように、理想的な推し活がどんなものかを絶えず模索していく必要があると思った。
⑤品がいいと言われる人
非常に読みやすく、テーマごとにコラム形式なっていてスルスル読めた。品のない例として挙げられる言動に心当たりがありすぎて何度も本を閉じそうになるも、歯を食いしばって読了。特に「言葉遣いには必ず“本性”が出る」の項目は耳が痛かった。
会社勤めの経験がないままフリーランス翻訳者になってしまったため、時々通訳等で初対面の相手と話すときに敬語等のマナーの未熟さを痛感する。もうすぐ28になるというのに、いまだにこんなことで悩んでいることに危機感すら覚えるが、こればかりは場数を踏む以外に上達させる方法がない。せっかく東京に来たのだから、いろんな場に出向いて大人の会話に挑戦していこうと思う。まだまだ先は長いが、意識できるところから意識して、いつか素敵なマダムになりたい。
⑥言葉にできるは武器になる
今後10年かけて自分のものにしたい一冊。特に一章の内容はまさに求めていた内容で、読みながら脳内で花火がパンパンあがるほど興奮した(←)。この本の著者は電通のコピーライターで、ようは言語化のプロだが、なぜこうも言語化が苦手な人のつまずきポイントを理解しているのか不思議でならなかった。
ちょうど2年前に読んだ「ずっとやりたかったことをやりなさい」でも、思考を紙に書き出すことの重要性を強調していたが、本書はただ書き出すだけでなく、書き方を細かく指定していた。「ずっとやりたかったことをやりなさい」では、自分の内面と向き合うことが目的であり、本書ではあくまでも言葉にするための意見を育てることが目的なので、同じ「紙に書き出す」ことを勧めていてもやり方が違ってくるのは納得だ。
この手の本は読むことより読後の実践が9割。言語化能力を高めるためにも、文章を書く面倒臭さから逃げずに実践したいと思う。
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