空蝉
title: 蝉
date: 2018/08/15 00:05
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蝉の羽化に立ち会った
4年とか7年とか
土の中にいてやっと
日の目を見て這い上がり
おそらく本能とは別にある、大空への期待に胸膨らませ
ふるえてはとまり ふるえてはとまり
乳白色のまばゆいグリーンの羽を伸ばして
ぽとり と落ちた。
こんな悲劇はない。
土の中のことを知らないままそこは暗くて息の詰まるような世界なのだと決めつけ
この世界が美しくない訳がなかろうと言わんばかりに落ちた蝉を見て嘆いた私のなんと人間らしいこと
"こんな悲劇はない"?
本当にそう?
目の前で起きたことを悲劇にすることでなにかを救おうとしていない?
あなたの人生ってそんなに素晴らしい?
それって驕りやエゴの類じゃない?
"知りもしない感触を、不憫だなんて思わないで 勝手に可哀想だなんて言わないで"
"あなたから見える世界がすべてだと思っているうちはずっと
暗い 暗い土の中からは出られないよ"
落ちた蝉をやさしく拾い上げたら
細やかな爪先がゆっくりと動いた
葉をつかませて 息を止めたまま
蝉の羽化に立ち会った。
人間らしさへの後ろめたさを認めてもなお、落ちた蝉がこの夏を謳歌できることを願った。
私は本当に、人間なのだろう。