駈込み訴え/太宰治
#読書の秋2022 駈込み訴え/太宰治
いったい何を訴えるんだろう?と思って手に取った作品。主人公と思われる人物が、初っ端から物凄い勢いで駈込み、訴えてくる。
頭がおかしくなるほどひとりの人を愛してしまって、相手にも同じように愛してほしいのだけど、その欲求はどうしたって満たされない。与え続けることに不満が募り、ついには愛したその人を罪人だと売り飛ばす話。
愛された方は、万人に無償の愛を与えることが使命として生きていたのだけど、結果として利他の精神が自身の破滅を招いた格好になる。
愛憎の作品といわれたりもするけれど、私はただそれだけじゃないなと思ってる。どうしても太宰が「ほら見なさいよ。完全なものなどこの世にはないんだ、あるのはいつだって人間の陳腐な有様だ。それが唯一の真実だ」と言っているように感じられてならない。
この駈込み訴えは太宰が口述して、奥さんが記述したなんて逸話もあるけど、独特の緊張感と臨場感があるので納得。
ラスト、人間の垢と臭いのこびりついた"裏切り者"の笑みが鮮やかに出現してきてびっくりする。『途中から薄々気付いてたけどやっぱりお前の話だったのか…!』
読みたくなってきたでしょう?
すごく短いのであっという間に読めちゃいます◎