移動 ~世代交代
彼は地味ではあるものの 「この会社には尽力してきた」
それは、彼の中では小さいけれども自身を支えてきた誇りでもあった
30年近い勤務歴 この部署一筋 今のこの組織の基礎を築き上げたのは
紛れもなく彼や彼と同じ世代の同僚たちである
そしてそんな仲間の中 今もここに残っているのは彼だけである
彼はなんとなくではあるが安心感のような寂しさのようなものを
その胸に抱えながらも日々を満足も不満もなく落ち着いて過ごしていた
部下にも心底信頼されているかどうかはわからないが
決して嫌われているわけではない
そんな感覚も持っている
「この部署では、まあ下っ端の王様みたいな立場にはなった
きっとこれくらいのところで波に揺られながら静かに引退・・・
それが俺のここでの生き様なんだろうな」
ある日 彼は上司に誘われ外に出た
「へ~ 部長が・・・飲みならわかるけど お茶だなんて珍しいな~」
店に入るとどこか上司の様子に違和感を感じた
硬いというか緊張というか どうでもいい話を作り笑顔で話してくる
「部長、なんですか?世間話で自分を誘ったわけじゃないですよね?」
そう問うと上司はおもむろに切り出してきた
彼に「部署移動」を突き付けてきたのだった
はっ? えっ?何言われたの今・・・?
俄かには理解しがたいことであったが、次第に事態が呑み込めてきた
いろいろ話をされたが 要約するとこうだ
「もう歳をとったのだから若い者に道を譲る潮時なのだ
俺がこの部署にいたのでは次の奴らの道を塞ぐだけだ
そう俺の時代ではなくなったのだ」
老兵は死なず 去り行くのみ・・・
確かに・・・その理由は認める
かつての自分もそうだった 年配の先輩をみていて
「ちょっと古臭い感覚でやってる 時代が違うじゃん」
そんなことを感じていた時期があった
そして今は自分がそう思われる側になっていたのだ
わかるよ・・・うん よくわかる・・・けどさ・・・そうなの?
胸のざわつきが収まらないまま職場に戻った
何事もなかったように振る舞いいつも通りに仕事をこなした
しかしその日何をしていたのか頭に入ってこない
「これから何をしてゆくっていうのか・・・?」
そんな想いの中 一週間後の移動が正式に決まった
これまでいた部署の下請け的な部署へ「所属長」という肩書と共に