「強みに基づくコーチング」は、エンゲージメントと仕事のパフォーマンスを高めるのか? ースペインの比較試験からわかったことー
こんにちは。紀藤です。本日も強みに関する論文をご紹介いたします。
今回の論文は久しぶりの(!)個人的ヒットでございます。内容は「強みに基づいたコーチングの成果について、非ランダム化比較試験で検証した研究」というものです。
「強みに基づいたコーチングって、本当に効果あるの?」という疑問について、約60名の参加者を介入群と待機群にわけて、仕事のパフォーマンスやワーク・エンゲージメントが介入によってどのような影響を受けたかを調査するという調査設計で、シンプルですが説得力がある論文でした。
ということで、早速内容をみてまいりましょう!
30秒でわかる本論文のポイント
強みに基づくコーチングの影響について、その利益が語られているものの、基本的な疑問が残っている。
本研究では、スペインの自動車産業で働く非マネジメント層の従業員60名が、5週間の強みに基づくコーチングプログラムに参加し、個人の強みの特定・開発・活用を促す介入を行った。
なお、介入の影響を調べるために、60名の参加者を介入群、待機群にわけて3つの時間にてアンケート調査を行うこととした。
参加者とその上司の双方が、事前・事後・フォローアップのアンケートに回答した結果、介入プログラムは、ワーク・エンゲージメント、仕事のパフォーマンスの調査変数を有意に高める結果となった。
という内容です。
「強みに基づくコーチング」について、「無作為対照化実験」「参加者本人+上司の両方からの評価」というものをかけ合わせた論文では、私も初めて見るものでした。(かつ、結果もポジティブな効果が示されていたため、個人的には嬉しい内容でもありました)
ポジティブ心理学と強み・コーチング
まず、本研究の元となっている学問は、「ポジティブ心理学(PP:Positive Psycology)」です。
そして、このポジティブ心理学の要素のひとつが 「強みに基づくアプローチ」となります。このアプローチは、クライエントが自分の強みを特定し、その才能や能力を有意義で魅力的な行動に向けられるよう支援することを目的としている(Peterson and Seligman 2004)とします。現在、VIAなどの強みアセスメントに代表されるものへと展開し、今日に至っています。
次に、ポジティブ心理学の応用分野の一つが「コーチング」です。
コーチングはクライアントとの協力的な関係の枠組みの中で、コーチが個人的に意味のある目標を設定し、それに向かって努力することを奨励するプロセスです。
具体的には、(1)望ましい成果の特定、(2) 具体的な目標の設定、(3)個人の強みの特定によるモチベーションの向上、(4)リソースの特定と行動計画の策定、(5)進捗状況のモニタリングと評価、(6)この評価に 基づく行動計画の修正(Grant 2011, 2013)などが挙げられます。
この「強みに基づくアプローチ」も「コーチング」も、ワークエンゲーメントや仕事の成果へのメリットは語られているものの、実際その効果を検証した研究が少ない、というのが本研究が行われた背景であり、目的であるとのことでした。
研究の全体像
それでは、具体的にどのような研究だったのか、その概要をみてまいりましょう。
参加者と手順
●参加者:スペインの多国籍自動車産業企業で働く60名
(平均年齢36歳、非マネジメント層)
(説明会を行った上で、手挙げで参加をした人たち)
●手順:
<STEP1>:参加者は、(1)実験条件(EX; N =35)と、(2)待機リスト対照条件(WL; N =25)に分けられ、同時に6 つのグループに分かれて参加しました。(ただし、参加者の多くが製造業でローテーション勤務であったため、各群は無作為に選択されませんでした)
<STEP2>:実験条件(EX)と待機リスト対照条件群(WL)どちらもに介入前アンケート(Pre:T1)を行い、その後、実験条件群(EX)がコーチングプログラムに参加しました。その終了のタイミングで介入後アンケート(Post:T2)をどちらの群も行いました。
<STEP3>:次に、待機リスト対照条件群(WL)に介入プログラムを実施し、介入後アンケート(Post:T3)を行い、最後にフォローアップテスト(FUP:T4)を行いました。
介入方法(強みに基づいたコーチング)
今回の研究で開発された介入は「強みに基づくマイクロ・コーチング・プログラム」と呼ばれました。プログラムの内容は以下の通りです。
上記のプログラムの流れに沿って、以下の介入プロセスを具体的に行いました。
調査尺度
本研究の調査尺度は、以下の項目を測定しました。
それぞれ参加者と上司に同じアンケート調査を行っています。
<定量調査>
●ワーク・エンゲージメント(9項目)
・ユトレヒトワーク・エンゲージメント尺度
●仕事のパフォーマンス(6項目)
・役割内行動と役割外行動の2次元の尺度
<定性調査>
介入プログラムの成果に関する情報を得るため、自由記述式の質問を追加しました。(質問内容:「このプログラムに参加したことで、具体的にどのようなプ ラスの成果が得られましたか?(もしあれば)」)
結果
本調査の結果、以下のことがわかりました。
●わかったこと1:実験群は対照群に比べて、ワーク・エンゲージメント、仕事のパフォーマンスのスコアが有意に高かった。
T2時点(実験群のみの介入後)では、対照群(待機リスト群)は、介入を受けていません。実験群と対照群で交互作用モデルで検証したところ、実験群のほうが有意にスコアが高いことがわかりました(自己評価におけるワーク・エンゲージメント:効果量小、仕事のパフォーマンス:効果量中)。
また対照群(待機リスト群)はT1・T2でt検定を行いましたが、有意差は得られませんでした。
●わかったこと2:介入グループ全体として、介入前と比較して、介入後の全てのスコアが有意に高かった
また、今回は時差を持って、待機リスト対照群にも介入をし、T3時点では両グループとも、介入が終了する調査設計としています。
そして実験群と対照群を合わせた54名(6名は離脱)にてt検定を行った結果、ワークエンゲジメント、仕事のパフォーマンスのスコアが有意に高いことが示されました。
●わかったこと3:上司の評価では、参加者の「仕事のパフォーマンス」が介入前と比較して高まっていた
また今回は上司からの評価も測定をしていますが、その結果「仕事のパフォーマンスについて有意な変化が見られていました。
特にT2時点でみたときに、実験群は対照群と比較して仕事のパフォーマンスについて、大きな効果があったことがわかります。
まとめと個人的感想
シンプルな内容ですが、対照群と実験群をわけて、参加者と上司それぞれから評価をもらうという設計に、説得力を感じるものでもありました。こうした実験であれば、自分もできそうだと思いましたし、実際にやってみるとどんな結果が出るんだろうな、と調査方法についても、真似したいと思う内容でした。
一方、参加者の標本が少ないこともあるため、実際にどの程度の影響があったかは、より大きな群で試してみる必要があるかとも思いましたし、コーチングという介入そのものが、コーチの力量や、クライアントとの相性なども影響するものなので、介入プログラムの要素を分けることがなかなか難しいというのも気になるところではありました。
非常に現場での実践に使えそうな論文で、そのプロセスも含めて勉強になった研究でございました。著者の方に感謝です。
最後までお読み頂き、ありがとうございました!
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