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忍耐力最強説 ~仕事の成果につながる強み1位は「忍耐力」だった?! 論文『余分な1マイルを行く』より

今日のお話は、「性格的強みと仕事の成果の関係を調査したら、”忍耐力”が重要な要素だった」ことを示した研究論文の紹介です。

性格的強みは、24に分類されています(VIAによると)。勇気や創造性、誠実さ、熱意など様々な強みがあるのですが、研究の結果、仕事の成果に最も相関があるのが「忍耐力」ということがわかりました。

まさに、次のレース、更に次のレース、更に更に次のレースと「余分にコツコツ走り続けられるか」。これが仕事の成果において重要な鍵である、というわけです。

では、その根拠となる研究について、その内容を見てまいりましょう!

<今回ご紹介の論文>
『余分なマイルを行く:仕事における重要な性格的強みとしての忍耐力』
Littman-Ovadia, Hadassah, and Shiri Lavy. (2016).
“Going the Extra Mile: Perseverance as a Key Character Strength at Work.”
Journal of Career Assessment 24 (2): 240–52.

30秒でわかる本論文のポイント

  • 性格的強みには、様々なものがある。たとえばVIAアセスメントの強みで言えば、”仕事の満足度”を説明する強みは”熱意・希望・好奇心・感謝”などであることがわかった。しかし、「仕事の成果」に関連した性格的強みについてはほとんど研究されてこなかった。

  • よって、本研究において「”仕事の成果”に影響を及ぼす”性格的強み”はなにか」を、686名を対象に調査した。

  • その結果、「忍耐力」が「仕事の成果」と最も高い相関を示し、また「忍耐力」が「非生産的な仕事行動」と最も高い負の相関を示した。

  • また、この「忍耐力」は「仕事の意義感」「キャリアとしての仕事」「天職としての仕事」に対する認識によって媒介されることがわかった。

とのことです。

いやはや、既に漂ってきています。
忍耐力最強説の匂いが・・・。

キーワード「忍耐力(Perseverance)」

本論文のタイトルは「Going the Extra Mile: Perseverance as a Key Character Strength at Work」とあります。キーワードは「忍耐力(Perseverance)」です。

忍耐力というと「我慢する」みたいなイメージを持つ方もいるかもしれません。大事なキーワードなので、この言葉の意味を咀嚼したいと思います。

調べてみると、このようにありました。

【Perseverance(忍耐力)】
意味:忍耐力、粘り強さ、根気強さ、不屈の努力
語源:「始めたことを続けること、着実に設計やコースを追求すること」という意味で、14世紀後半に遡り、perseverenとして記録されています。この言葉は古フランス語のperseverer「続ける、忍耐する、耐える」からきており、ラテン語のperseverare「堅実に続ける、粘り強く続ける」にも直接由来しています。これはpersevereus「非常に厳格な、真剣な」という意味からper「非常に」と+ severus「真面目な、重大な、厳格な、質素な」から成り、「堅実さ、強さ」の観点から多分にはPIEの根*segh-「持つ、保持する」から来ています。関連する形容詞にはPersevered「忍耐した」、persevering「忍耐強い」があります。

https://www.etymonline.com/jp/word/perseverance

とのこと。

サウナで、もうちょっとでも長く入っとこうみたいな一時的な「我慢」「耐える」という意味ではなく、「始めたことを続けること」「堅実に続ける」というように、長期的にコツコツと持続するのが、ここでいう「忍耐力」です。

研究の全体像

さて、では具体的にどのような研究を行ったのでしょうか。以下、研究について、その詳細を順に見てまいりましょう。

研究の仮説

まず、本研究の仮説は以下の2つです。

{仮説1}:「忍耐力」は、「仕事の成果」と最も正の相関があり、「非生産的な仕事行動」とは最も負の 相関がある。

{仮説2}:「忍耐力」と「仕事の成果」および「非生産的な仕事行動」との関連は、(a)「有意義な仕事」と認識していること、および(b)仕事を個人の人生においてより中心的なもの(「キャリアとしての仕事」「天職としての仕事」)と認識していることによって媒介される。

研究の参加者と手順

本研究の参加者と手順は以下の通りです。

◯参加者:
・合計686名(女性553人、男性133人)
・ VIAのウェブサイトを通じてインターネ ットで募集した。
・フルタイムの雇用者(84.1%)、パー トタイムの雇用者(4.5%)、自営業者(11.4%)
・参加者の82%が大卒、参加者の大多数は白人(479人)

◯調査尺度:
・調査対象者に対して、以下の5つの尺度で質問をしました。

●「性格的な強み(VIA-IS)」
・性格の強み参加者の性格的強みの支持を評価するために、 VIA-IS( Values in Action Inventory of Strengths; Peterson & Seligman, 2004)を用いた
・本研究では120項目の短縮版(VIA-120; Littman-Ovadia & McGrath, in press)を使用した

●「仕事の成果(役割内行動)」(Williams and Anderson (1991))
・7つの項目(例:''私は与えられた職務を適切に遂行する'')

●「非生産的な仕事行動」Coun-terproductive Work Behavior Checklist(CWB-C; Spector et al., 2006)
・7つの項目「個人が行う可能性のある非生産的な仕事行動」を測定した。(例:''病気ではないのに、仕事を休んで体調が悪いと言った''など)

●「有意義な仕事」Meaningful Work Scale(MWS; Ho ̈ge & Schnell, 2012)
・6つの項目(例:私は自分の仕事を有意義なものと感じている、など)

●「仕事への志向性」WLQ(The Work-Life Questionnaire)(Wrzesniewski et al., 1997)
・3つの指標で、自分の仕事をどう捉えているかを測定した
・仕事を仕事として 、キャリアとして、天職としてどの程度認識しているかを評価するよう求められた。

分析方法

以下の方法で、調査を行いました。

1)相関分析:
・性格の強みと仕事の成果/非生産的な仕事行動との関連性を調査した。
(仮説1を検証する第一段階として、仕事の成果/非生産的な仕事行動と、すべ ての性格的強みとの間を相関分析した)

2)重回帰分析:
・「仕事の成果」を従属変数にして、「性格的強み」を独立変数としていくつかのパターンで、重回帰分析を実施した。

3)媒介分析:
・「忍耐力」が「仕事の成果/非生産的な仕事行動」に及ぼす影響を媒介する上で、仕事の意義と仕事中心性の認知が果たす役割を検討した。

とのこと。以下、分析の結果わかったことを整理いたします。

結果(わかったこと)

わかったこと1:「忍耐力」が仕事の成果に最も関連していた

まず、相関分析によって、「性格的強み」と「仕事の成果/非生産的な仕事行動」の関連を調べました。その結果、「忍耐力」は両方の仕事機能の結果と最も高く、最も有意な関連を示した性格的強みであることが示されました。

仕事の成果/非生産的な仕事行動と
性格的強みの相関分析

次に、重回帰分析を行いました。VIAの24の性格的強みを独立変数として入力し、「仕事の成果/非生産的な仕事行動」を従属変数として入力し、別々の回帰分析を行いました。その結果、「忍耐力」が「仕事の成果/非生産的な仕事行動」の分散を説明する上で、最も高く有意な寄与を示していました。(また、他の性格的強みを入力しても、依然として最も高い影響力が維持されていました ※STEP2~7)

これらの結果を総合すると、「忍耐力」は「仕事の成果」と最も高い相関があり、「非生産的な仕事行動」とは最も負の相関があることが示唆されました。

忍耐力が不動の1位の影響力!

わかったこと2:「仕事の有意義感/キャリア・天職としての仕事感」を媒介し「忍耐力」「仕事の成果」に繋がる

さて次に、仮説2を検証すべく、「有意義な仕事」「仕事の中心性の認識(キャリアとして・天職として仕事を認識していること)」が、「忍耐力」と「仕事の成果」の関係を、媒介しているのかどうかを確かめました。

忍耐力が仕事の成果の予測因子であることは先述の通りですが、忍耐力と仕事の成果の間をつなぐ潜在因子として、「有意義な仕事」「キャリアとしての仕事感」「天職としての仕事感」が媒介していることがわかりました。

つまり、「忍耐力が高いと、仕事を有意義と思ったり、天職やキャリアとして仕事を感じさせ、仕事の成果に繋がる」ということです。(一方、仕事を有意義で、自分にとっての天職・キャリアと捉えるから、忍耐力が高まり、仕事の成果に繋がる、というのもあるかと思います)

まとめ

先週、6年ぶりにフルマラソンに参加しました。毎度のことながら興味深いのが、フルマラソンのレースでは、35kmを過ぎた頃から歩き始める人が続出します。スタートしてから10kmくらいは、みんな意気揚々。ずっとこのまま終わるかと錯覚するのですが、42.195kmを最後まで走り続ける人は、思ったより難しいようです。

勝敗を決するのは結局「最後まで走り続けられるか」。そして、もっと視点を引いてみれば「レースが終わった後も、継続的に次のレースに向けて頑張れるか」。こうした、「走り続ける力」について、今回の論文を読みながら教訓めいたものを感じさせられました。

グリッド(やり抜く力)というのが、話題になりましたが、この論文でも最後に紹介されていました。以下引用いたします。

ダックワースら(2007)によれば、忍耐力 、すなわちグリットは、あらゆる分野の著名なリーダーに共通する個人的資質である。 グリットとは、課題に向かって奮闘し、失敗や逆境、進歩の停滞に関係なく、長年にわ たって努力と関心を維持することである。グリットのある人は、達成をマラソンのようにとらえる。失望や飽きが、他の人には軌道修正と損切りの時期であることを知らせるのに対し、気骨のある個人はコースを維持する(1088頁)

とのこと。忍耐力とは走り続ける力

「忍耐力が高い人は、ある瞬間だけやるのではなく、仕事を自分のキャリア・天職とみなし、ゆえに長期間にわかってコツコツやり続けるから成功する」という話とすると、何だか勇気をもらえるように感じました。

「Going Extra Mile(余分なマイルを行く)」。

コツコツと、もう一歩、更に一歩とひたすらに続けていくことが成功の秘訣なのかもしれませんね。

最後までお読み頂き、ありがとうございました!

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