「強みに基づいたコーチング」はエンゲージメントと希望を高める ~小学生38名への実践~
こんにちは。紀藤です。今日も強みに関する論文をご紹介させていただきます。今日の論文は「小学生に強みに基づいたコーチングを行った結果、”希望”の強みレベルとエンゲージメントが高まった」という内容です。
オーストラリアの私立小学校で、実際のカリキュラムに組み込む形で取り組まれたもので、詳しい介入プロセスと、また定量的な結果だけではなく、関わった教師のコメント(定性データ)も掲載されており、実践に活用できる論文だと感じました。
ということで、早速内容をみてまいりましょう!
30秒でわかる本論文のポイント
本研究では、オーストラリアのシドニーにある私立小学校5年生38名が、自己啓発・健康プログラムの一貫として、強みに基づくコーチングプログラムに参加をした。
参加者は2学期にわたって合計8回のコーチング・セッションを受けた。コーチングでは、VIA-Youthを使って性格的強みを明らかにし、意味ある目標を特定し、目標に向かって努力することや強みを活かす方法を指導された。また、自分の最高の状態について書いた。
その結果、生徒の自己申告によるエンゲージメントと希望のレベルに有意な上昇をもたらした。
という内容です。
教育における「応用ポジティブ心理学」
「強み」はポジティブ心理学の中核となる考えであり、これらのポジティブ心理学の教育への活用は、その登場から開発されてきました。
オーストラリアでは、2008年セリグマン教授とペンシルバニア大学の研究者チームによって、私立学校のジーロング・グラマー校と協力して「ポジティブ教育の指導・定着・実践」というプログラムが実施されました。
アメリカでは、2006年「ペン・レジリエンス・プログラム」なる、生徒が遭遇した問題に対して、現実的で柔軟な考え方をする方法を教える介入が行われ、生徒のウェルビーイングが改善しました。
イギリスでは、2005年に「ストレングス・ジム」プログラムが実施され、青少年のウェルビーイングに影響を与える研究が行われ、教育に組み込まれる動きがありました。
こうした、ポジティブ心理学を元にして、レジリエンスやメンタルヘルス促進、教育への活用などを行う「応用ポジティブ心理学」は、2000年代中盤から始まってきたようです(今では更に開発が進んでいます)。
本研究の全体像
さて、本論文は2010年のものになりますが、小学生を対象にして「強みに基づくコーチング・プログラム」を実践し、検証をした内容となります。
本研究の目的
「強みコーチングの実施により、小学生のエンゲージメントと希望レベルが向上するか」を確認する
参加者
オーストラリアのシドニーの私立小学校に通う38名の男子小学生(年齢10-11歳)となります。
介入プログラム内容
8週間のコーチングプログラム(1回あたり45分)
(※具体的な介入方法は、後述)
調査尺度
プログラムの1回目と2回目(事前事後)に、以下自己報告式のアンケートに回答しました。
1)精神病理学の尺度(Beck Youth Inventory)
ー不安・抑うつ・怒りのレベルを評価する
2)性格的強み尺度(VIA-Youth)
3)子どもの希望尺度(Snyder, 2000)
-子どもの目標指向的思考を主体性などを元に測定する尺度
強みに基づくコーチングの3ステップ
今回の介入である、8週間のコーチングプログラム(1回あたり45分)は、大きく3つの重要なパートで構成されていました。
第一部 強みを特定して自尊心を高めるコーチング
まず、VIAを活用し、自分の性格的強みを特定しました。そして特徴的な強み(主に上位5つの強み)をどのように使っているのかを示す「強みの盾(Strength Shields)」を作成しました。そして、それらを教室に掲示し、定期的に参照するように促されました。
第ニ部 強みを目標に活用するコーチング
次に、参加者が個人のリソース(強みを含む)を特定し、個人の目標に向かってそれらを活用するようにコーチングされました。具体的には、SMART(Specific, Measurable, Attrac-tive, Realistic and Timeframed)(Locke & Latham,2002)を活用し、参加者自身にとって意味のある目標を特定し、 目標達成に向けて努力するよう指導されました。
また参加者は、目標達成に向けて、「自分の強みの1つを活用する新しい方法」を見つけることを実施しました。
第三部 目標達成に向けた自己調整コーチング
そして、目標設定に続いて、行動計画の策定、進捗状況のモニタリングと評価という「自己調整サイクル」にを通じて、参加者をコーチングしました。
参加者は、目標に向かって自分で解決策を考え、具体的な行動ステップを考えました。
その他(「グループ・プロセス」と「未来からの手紙」)
●グループプロセス:
個人コーチング・プロセスに加えて、グループ・プロセスも活用されました。参加者はグループで結果を共有し、学んだことを共同で振り返る機会を与えられました。
●未来からの手紙:
自分の最高の状態について書いて、自分のニーズや価値観がどのように満たされているかに焦点を当てて、自分が実現したい全てのことを可能にする解決策を見つける、という自分宛ての手紙を書きました。
結果
コーチングプログラムへの参加によって、開始時(Time1)と終了時(Time2)において「エンゲージメント」「希望」の測定値が有意に増加していることがわかりました。
「希望」については d=2.70と大きな効果量が観察され、「エンゲージメント」についてはd=.98と中程度の効果量が観察されました。
※:コーエンの「d」:効果量を表す指標。d値が0.2を下回ると小さい効果、0.5付近だと中程度の効果、0.8以上で大きい効果と考えられる
教師とコーチのコメント(定性結果)より
また論文内において、教師とコーチからのコメントが記載されていました。その内容がイメージがつきやすいものでしたので、一部引用いたします。
まとめと個人的感想
シンプルな研究ではありますが、コーチングのステップが明確で、興味深く読ませていただいた論文でした。
個人的な感想ですが、私自身はVIAではなく、ストレングス・ファインダーを活用して、今回のような3ステップを用いてコーチングを行うことがあります。その結果を思い起こすと、実際にクライアントのエンゲージメントや希望が高まるような感覚があるなあ、感じました。
もちろん、強みに基づくコーチングプロセスでは、様々な介入が含まれているので、どこが機能しているのかを特定することは難しいものです(3ステップのどの部分が機能しているのか?、個人プロセスとグループプロセスのどちらがより効いているのか?など)。よってこの点についてはさらなる探求が必要とも思いますし、介入ごとの結果の違いに関する論文も出ています。
いずれにせよ、こうした一つの体系があることで、小学生の教育に活かすことができるのは、有益な示唆だと感じた次第です。
最後までお読み頂き、ありがとうございました!