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強みを活用すると目標進捗がより良くなり、幸福度も高まるという研究 ーイギリスの大学生240名への研究ー

こんにちは。紀藤です。本日は強みに関する論文のご紹介です。今日のテーマは「強みの活用と目標の進捗度、そして幸福度(ウェルビーイング)の関係」についてです。

強みを活用すると、目標進捗も高まり、そしてウェルビーイングも高まる。そしてウェルビーイングが高まると、更に目標に向けて努力するようになり、ますますできることが広がっていくという、ポジティブなループが生まれる可能性を著者らは強調しています。

さて、ではどのような内容なのか、早速みてまいりましょう!

<今回ご紹介の論文>
『目標達成のために特徴的な強みを活用する:目標達成、欲求充足、幸福度への効果とコーチング心理学者への示唆』
Linley, P. Alex, Karina M. Nielsen, Raphael Gillett, and Robert Biswas-Diener. (2010). “Using Signature Strengths in Pursuit of Goals: Effects on Goal Progress, Need Satisfaction, and Well-Being, and Implications for Coaching Psychologists.” International Coaching Psychology Review 5 (1): 6–15.


30秒でわかる本論文のポイント

  • 人は自己一致した目標を持つと、目標をより達成し、幸福度も高まる(「目標の自己一致モデル」)という。

  • 本研究の目的は、この「目標の自己一致モデル」を拡張し、強みの活用が、どのようにパフォーマンスと幸福感をサポートするかについてのモデルを検証することである。

  • イギリスの240名の大学生に、3ヶ月間において調査を行った結果、強みの活用がより良い目標進捗と関連し、それが心理的欲求充足や幸福感の向上と関連していることが示された。

という内容です。

なるほど。「強みを活用する」→「目標進捗が良くなる」→「幸福感の向上に繋がる」、かなりざっくりいえばこのようなメカニズムがあるようです。
では、具体的にどのようなことかを、みてまいりましょう。

「目標の自己一致モデル」とは

強みの研究で「強みの活用がポジティブな結果につながる」ことはわかっています。つまり、強みを使うと幸福度が高まる、というような結果ですね。

しかし、強みの活用が”どのように”幸福感の向上や目標達成といった心理的な利益に繋がるのか?”というメカニズムは、あまり知られていないのでは、と本論文の著者等は述べます。

そして、その中の一つが「目標の進捗と達成のメカニズム」です。強みを活用することが”どのように”目標進捗に影響を与え、そして目標進捗が”どのように”幸福度に影響を与えるのか・・・?

このことを紐解くときに、背景となる理論に「目標の自己一致モデル」があると述べます。「目標の自己一致モデル」(Sheldon&Elliot, 1999)とは、「目標の進捗や達成が幸福度に繋がる」という考えで、より詳しくいうと、「自己一致的な目標(自分の関心や価値観に合致した目標)を追求する人は、その目標を達成するために持続的な努力を惜しまないので、達成する可能性が高くなる」とするモデルです。

そして、この「自己一致的な目標」に「強みの活用」が関連してきます。強み研究において「特徴的な強み」とは、本人が”自分らしいと考える強み”であり、その強みを使用する際に所有感や必然性を感じるものです。すなわち、「特徴的な強みとはその人の本質的な興味や価値観と一致している」と考えられるのです。

とすると、「特徴的な強み」(=その人の本質的な興味や価値観)を使うことと、「目標の自己一致モデル」には、共通点があると考えられます。そして、強みの活用に紐づく自己一致的な目標を設定することで、目標追求、目標進捗、目標達成の可能性が高まる。そして結果、幸福感の向上に繋がる、と考えたのでした。

研究の全体像

本研究では上記の「強みの活用と自己一致的な目標」を複合させたモデルを検討し、実際に目標の進捗・達成、心理的欲求の充足と、幸福感につながっていくのかを検証しています。以下、研究の全体像について、参加者、調査方法、分析、結果についてポイントをお伝えいたします。

参加者

イングランド中部の主要大学に通う大学2年生240名
(男性49名、女性191名、平均年齢は19.95歳(SD=2.54歳))

調査方法

・参加者に対して、学士課程のコースの一部として、参加者に任意で参加させる形で募集をした。
・調査尺度について、合計3回行った。ベースラインは学期はじめの最初の授業。Time1は6週間後、Time2は10週間後に実施した。

調査した尺度については以下の通りである。

<「強み」に関する尺度>
●「VIA Inventory of Strengths 」(VIA-IS; Peterson & Seligman, 2004)
・VIA-ISは240項目の自己報告式質問票である

<「心理的充足度」に関する尺度>
●「Positive and Negative Affect Scales 」(PANAS; Watson, Tellegen & Clark, 1988)
・PANAS は、肯定的感情と否定的感情を測定する20項目の尺度である

●「人生満足度尺度」(SWLS; Dienerら,1985)
・SWLSは、幸福の認知評価次元と 考えられている生活満足の5項目尺度である

●「基本的心理的欲求充足尺度」 (BPNSS; Deci & Ryan, 2000)
・BPNSSは、3つの基本的心理的欲求である自律性(7項目、例:「自分の生き方を 自分で自由に決められる気がする」)有能感(6項目、例:「たいていの日は、自分のしていることから達成感を感じる」)、関連性(8項目、例:「私の人生の人々は私を気にかけてくれる」)の欲求満足度を21 項目で測定する

<目標と強みの活用についての質問>
こちらの尺度は知られている心理的尺度ではなく、本研究用につくられた質問項目です。

●「学期の目標」:
・参加者は、その学期(3ヶ月間)の「上位3つの目標」について考え、書き出すよう求められた

●「目標と強みの活用」:
・参加者が5つの特徴的な強みをそれぞれどの程度活用しているかを評価した。(例:「今学期に設定した1つ目(2つ目/3つ目)の目標に向かって、それぞれの得意分野をどの程度活用しましたか」)
・0(まったくない)~4(とてもある)のリッカート5段階尺度

●「一般的な強みの使用」:
・参加者が自分の5つの特徴的な強みのそれぞれを生活全般でどの程度使っているかを評価した。(例:「今学期これまでに、自分の 特徴的な強みのそれぞれを生活全般でどの 程度使いましたか」)
・0(まったくない)~4(とてもある)のリッカート5段階尺度

「目標と強みの活用」について分析し、「5つの特徴的な強み」をどの程度使用したかを示すスコアを、以下のように算出しました。そうしたところ、本人が掲げた目標(1~3つの目標)のほうが、VIA24の全体よりも、より多くの分散が説明できることがわかりました。(このあたりの解釈が少し難しく、少し自信がありません・・・)

<進捗状況についての質問>
●「一般的な進捗状況」:
・参加者の生活全般にお ける進歩を評価した(例:「今学期、 生活全般においてどの程度うまくいっていますか?」
・1(まったくうまくいっていない)~7(とてもうまくいっている)のリッカート7段階尺度

●「目標の進捗状況」:
・参加者が3つの目標それぞれを達成するための進捗状況を評価した。(例:「あなたが特定した1つ目 [2つ目/3つ目]の目標の達成はどの程度 進んでいますか?

分析

分析のため、変数を単純化するために、上述尺度を「目標-強みの使用の複合尺度」、「上述の欲求充足の複合尺度」、「主観的幸福の複合尺度」を作成しました。その上で、構造方程式モデリング( SEM; LISREL 8.7, Jöreskog & Sörbom, 1999) を用いて、仮説モデルを検証しました。

結果

強みの活用は目標の進捗を通じて、幸福感に影響を与えた

反復測定横断的デザインなる方法により、個人の強みを活用して、個人的に重要な目標を追求する個人を追跡しました。
 分析の結果、 強みの活用は目標の進捗と関連していました。それはベースライン後6週間と10週間の両方において、欲求充足と幸福の両方と関連していたことがわかりました。

結論として、「強みの活用」が「目標の進捗」と「目標の進捗に関連する心理的欲求の充足」を高め、「幸福感(ウェルビーイング)に影響を与えることがわかりました。

まとめと個人的感想

「自分なりのミッション・ビジョン」を持つとやる気になるよなあ、と思ったり、目標設定面談などでも、自分で納得度が高い目標を決めた場合頑張ることができるものだ、という感覚はありました。

それが「目標の自己一致モデル」という概念を知ることで、腹落ちした論文でした。としたときに、やはり自分らしさ、価値観や興味などが明確にならないとそもそも目標の自己一致すら難しいわけですので、「自分を知る」というのはいずれにしても必要なことだよなとも思いました。

そして、「自己一致した目標」と「特徴な強み」を関連させて考える、というのも面白いなあと感じた次第です。

最後までお読み頂き、ありがとうございました!



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