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(後編)おすすめの一冊『成長を支援するということ ―深いつながりを築き、「ありたい姿」から変化を生むコーチングの原則』

こんにちは。紀藤です。毎週日曜日は、おすすめの一冊をご紹介する「今週の一冊」のコーナー。今日は、以前ご紹介したコーチングに関する本の”後半”をお伝えします。(前回のお話はこちら↓↓)

まず、お伝えしたいのが「めっっちゃ素晴らしい本だった!!」です。

タイピングを打つ手がいつもより踊り、高揚した感情で打鍵音がいつもより大きくなっている気がします。コーチングに携わっている人は、皆さんにぜひ、心より全員におすすめしたい。

それは「コーチングの可能性に、改めて気づくことができる」からです。

本日は後半ということで、第8章の「組織にコーチングの文化を築く方法」を中心に見ていきたいと思います。それでは、早速まいりましょう!


組織にコーチングや助け合いの文化を築く

特に第8章では「組織変革への道筋」として、職場にどのようにコーチングの文化を築くのかが記載されています。

「コーチングで組織変革を・・・」というと、大それたウルトラCの難題のように聞こえる人もいるかもしれません。しかし、著者らは「それはもっと身近なものである」として、このように述べています。以下、引用いたします。

モーエン社に最初にコーチングを持ち込もうとしたとき、変化はなかなか進まなかった。ダーナー曰く、幹部たちには「従業員にどんな気分か尋ねるような習慣がなかった」そうである。(中略)

しかし少しずつ、研修や対話を通して組織の文化は変わっていった。会話をする時間など取れない。ましてや話を聞く時間など取れるわけがないと思っていたマネジャーたちが、まさにそれをするための時間を使い始めた。
会議の廊下で上司と部下のあいだに生じる非公式なコーチングなども、日常的な光景として目につくようになった。

 これこそ私たちが組織の中につくりだそうとしているコーチング文化であり、本書で伝えようとしているのもこうした学びなのだ。

P227-228

こうした、「何気ない日常で『相手を支援するために時間を使う』」こうした行動があることで、互いが成長し、学ぶ枠組みが生まれる、これがコーチングを組織文化になる、ということです。

職場にコーチングを持ち込む3つのアプローチ

さて、コーチング自体は、昔から存在しています。
1960年代後半からはじまり、本格的に組織に導入されてきたのは、1990年代後半から2000年代前半。そういう意味では、実践的には比較的新しい考え方と言えそうです。

コーチングを導入することで、様々な効果が確認されています。
皆を動機づけ、やる気を起こさせるリーダーシップを求められる社風の場合、コーチングの効果は特に高くなりますし、新米リーダー、企業におけるマイノリティ(女性)などがいる場合も、コーチングがよりポジティブな影響を与えることもわかっています。

では、職場にコーチングの文化を持ち込むために、何ができるのでしょうか? ポイントは「人間関係が鍵」と述べた上で、以下の3つの基本的なアプローチを本書では紹介しています。

<組織にコーチングを導入する際の3つの基本的なアプローチ>
(1)ピアコーチングをする:
 ペアまたはチームでのピアコーチングを促し、その訓練をする
(2)内部コーチと外部コーチを利用する:
 プロのコーチとして訓練を受けた者、およびプロの団体から認定を受けた者にアクセスできるようにする
(3)マネジャーをコーチにする:
 マネジャーや上級幹部が部下にコーチングを提供できるように、幹部教育をする

P232-233より著者編首

ということで、以下3つのアプローチを順に紹介いたします。

(1)ピアコーチング

ピアコーチングとは、「同僚・対等な立場の人」によるコーチングです。

「Peer=同等の人、同僚」と訳されるように、上司-部下間で行われるものではないところが特徴です。上司に部下が5人いて、毎週1on1をやるとしたら、それだけでも相当な時間です。そんな中で、ピアコーチングは組織にコーチングを導入する際のアプローチとして有効です。

ピアコーチングとは

本書においてピアコーチングは、以下のように説明がされていました。

ピアコーチングは、相互支援のための個人的な支えとなる結びつきを形にしたものである。ほぼ同じ地位にある2人以上の人が、個人および職業人として成長を助け合うために集まり、有意義な出来事や特定の瞬間をふり変える。(中略)
ピアコーチングの主な目的を「明確な境界をもうけつつ、ゴールに向けた相互の学びを推進すること」と説明している。

P233

ピアコーチングのまとめ(やり方や効果)

このピアコーチングのやり方や効果について、以下本書の内容より、まとめてみます。

<ピアコーチングのまとめ>
●誰と(WHO):
・ピア(同僚)
(3人以上の集まりの場合、ピアコーチング・グループと呼ぶ)
●どのように(HOW):

・公式な形でも、非公式な形でも良い
・組織内の人だけで集まっても、組織の壁を超えて集まってもよい
●何について(WHAT):
・1人が仕事上重要だと思う出来事を選び、相手またはグループに対して発表し、その後、みなでそれがどうなったか、他に選択の余地はあったかということを話し合う。
●本人にどんな効果があるか(WHY):
・ピアコーチングにおける信頼に満ちた人間関係は、セーフティネットとして機能し、助け合いにつながる。またアイデアの実現性をチェックし、経験した出来事の意味を確認し合うことができる。
・また、専門家や「上の人」から指導を受けるとなると、「他者が規定した自分」を押し付けられNEA(ネガティブな感情)を呼び覚ますことにもつながる。しかし集まった人々は地位や立場の違いを取り払うので、平等な人間同士として話をすることができる。
●組織へのメリット(What's merrit?):
・コストが低く、大勢のマネジャーや従業員の助けになる。またポジティブな土壌を作ることにも繋がる。
・ピアコーチングは長続きし、深い結び付きができる傾向がある。ポジティブな感情は伝染し、他の場所でも変化が起こる。
●機能させるために必要なもの:
・参加者の自己認識と内省
・お互いへの気遣いと思いやり
・コーチングのスキル(最大化させるためには望ましい)
●ダークサイド(注意点)
・従来のアプローチ(問題の見極めと問題解決に意識を見極めるもの)になる場合、ネガティブな感情(NEA)を活性化させ、新しいアイデアや可能性を閉ざしてしまう可能性がある。
・問題を認識することと、問題について考えたり話たりすることに大半の時間をつかうことは、全く違う。(定期的にスキルのあるコーチにチェックしてもらうのもよい)


ピアコーチングは「新しい準拠集団」をつくる

その他、ピアコーチング・グループの効用として「社会的アイデンティティ・グループ」に形を変えて人間関係が継続する点、が述べられています。
 
たとえば、リーダーシップのプログラムに参加した仲間(医師・弁護士・経営者・人事など様々な人)の20人ほどのグループへの継続調査によると、プログラムが終わってからも数年経ってもその関係が繋がり続け、「お互いを新しい準拠集団の一員」とみなすようになり、この仲間では夢や将来について語り続ける友人になったとのことです。
(個人的なつぶやきですが、これは、まさに立教大学の大学院(LDC)の仲間がそんな感じで、たしかに!と思いました)

ピアコーチングの歴史

また、本章ではピアコーチングの歴史についても述べられています。
1960年~70年代では、「サポートグループ」「Tグループ」、
1990年代になると「自主運営と自己設計の作業チーム」となり。
2000年代には、「組織内の学習チーム、スタディグループ」となりました。

すべてのピアコーチングの共通点をみると、以下の3つが挙げられます。

<ピアコーチングの歴史からみる共通点>
1)非公式かつ自発的に生じた横のつながりであること
2)生活、仕事、学びに関して助け合うのが目的であること
3)メンバーが自らテーマを決め、プロセスを管理すること(世話役がいない)

P240

ピアコーチングを推進するために

本書では、「ピアコーチングを広めることは組織にとって究極の成長活動と考えてもいい」とまで述べています。

このことで、外部の雇われたコーチにアクセスできない社員にも成長の可能性が生まれ、コーチングが組織全体に広がり、そして従業員一人ひとりが「個人の取締役会」(鍵となる人間関係やサポート、進捗をチェックしてくれる人々)を持つことに繋がるそうです。

そして、ピアコーチングを広げるためには、以下の2点が必要と述べます。

<ピアコーチングを推進するエネルギーを育てる方法>
1)幹部だけではなく、広い範囲の人々がコーチングにアクセスできるようにすること
2)継続するプロセスを大事にすること

最後に、ピアコーチングが最も強力に効果を発揮するのは「5~12人の小グループでポジティブな感情(PEA)を起こす活動をするとき」とのこと。ただ自分である場合、最初は少ない人数でピアコーチング・グループを育てることがおすすめだそうです。

(2)内部コーチか外部コーチか選べるようにする

次に「組織にコーチングの文化を築く」ために、どのようにコーチを導入するのか? を検討する必要があります。大きく、社内か外部か、となりますが、その選択基準が述べられています。

●社内コーチの場合:
「社内で有能なコーチ」を育成する研修から始める

●外部コーチの場合
・基本は、コーチ認定機関に連絡を取ることになる。重要なのは「信用できるコーチであることを認定する協会や会社」を選ぶこと。
(国際コーチング連盟(ICF)、国際ビジネスコーチ協会(WABC),センター・フォー・クレデンシャリング・アンド・エデュケーション(CCE)は、組織の能力モデルにおいた認定証を発行している最大の組織である)

いずれにせよ、これらの内部コーチ、または外部コーチのどちらかにアクセスできる状況を作ることがポイントであるようです。

(3)マネジャーをコーチにする

最後は、マネジャーを育ててコーチにすることです。

「マネジャーを育ててコーチにする」とは、即時フィードバック、協調性を育む、専門能力を開発できる能力を育てるなどのことです。

ただ、このためにはいくつかのステップが必要になります。なぜならば、マネジャーには日々の業務に加えて、新しい役割が増えるため、納得してその役割を受け入れる必要があります。そのため、

・コーチングの重要性の周知
・コーチングに必要な視点とスキルの療法を身につけられる研修の実施

などが必要になります。

しかしながら「他者を育てるスキルは、標準的なマネジメント能力とは違う」ためトレーニングは必要になりますが、現場でのインパクトは大きいと述べています。

まとめと個人的感想

本当は、第9章、10章もまとめようと思っていたら、濃厚すぎて、第8章だけのまとめになってしまいました。

特にこの章では「組織にコーチングの文化を築く」には、ピアコーチングが重要であるとして、多くのページ数を割いていました。そして、その普及のためにはクリティカルマス(最小必要人数)の全体の3分の1を超えると、それが標準的な文化になる、と述べています。

改めて、本著書が、大学の研究者を含めた理論と実践によって編み出された、「人を支援するためのコーチングに関する論文(科学)」からの知見が多分に含まれており、実に説得力を感じる内容でした。

その他にも、「組織への展開のゴール、パターンが整理できる」「コーチングが難しいケースへの理解が深まる」など、多くのコーチングへの気づき得られる内容でございました。

いやー、素晴らしい著書でした。度々読み返したいと思います。

最後までお読み頂き、ありがとうございました!

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