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自宅のピアノを特別レシピで調律してもらった

昨日、自宅のピアノを調律してもらった。
私のピアノはもう120年以上前に作られたピアノで、随分と古いものなのだけれど、大切に弾けばまだまだ美しい音色がする。

ピアノの寿命は大体100年持てば良い方と言われているので、もう寿命はとっくに通り越してはいるのだけれど、私があまり激しくピアノを弾くわけでもないためか、何とか延命している。このピアノが製造された1890年代、ドイツ ベルリンにはベヒシュタイン社の工場が3つだったか5つだったかあったらしい。それほどに、ベヒシュタイン社のピアノは売れていたのだろう。

第二次世界大戦の前まで、ベヒシュタイン社は最も”メジャーな”ピアノメーカーであった。その証拠と言っては何だが、1902年にヤマハが初めてのグラントピアノを完成させるにあたり、ピアノ作りの技術の習得のためベヒシュタイン社より技術者を呼び寄せたという。ヤマハが製造したグランドピアノ第一号はベヒシュタイン社のピアノのデッドコピーとも言える一台である。

私の自宅のピアノも、そんな時代のベヒシュタイン社のピアノだ。

この頃のベヒシュタイン社のピアノ全般に言えることなのだけれど、高音域の音色が特徴的である。ブナ材に柘植の貼られたブリッジに張られている高音域の弦をアグラフと呼ばれる金具で鉄骨に対して押さえられるようにして張られるいわゆる「総アグラフ」と言われる構造となっている。そのためもあり、高音を強く弾いた時、「ピチャピチャ」というような音の鳴り方がする。現代のピアノは高音域の弦の張り方の構造が違うので、強く弾いた時の音の鳴り方がもう少し力強い。まあ、これは弾き手にもよるのだけれど。

昨日は、調律師さんとそういうような話をして、高音側は少しおとなしめの音で調律してくれたようだ。どのように調律したらそういうふうになるのかはわからないけれど、確かに比べてみると耳に痛くない音に仕上がっていた。ハンマーをいじるのではなく、調律だけで音色とタッチが変わるのには、驚いた。今までよりも少ししっとりとして、私の好みの音色に仕上げてくれた。

ピアノには、それぞれの弾かれ方にあった調律というのが存在するのだなあということを改めて再認識した。

そういえば、ビートルズやらブリティッシュロックの方々がピアノの録音に使っていたロンドンのトライデント・スタジオというスタジオがかつてあって、そこのピアノが1880年代〜1890年代のベヒシュタインだったと聞いたことがある。エルトン・ジョンのYour Songだとか、ニルソンのWithout Youのピアノを録音したのがそのピアノだ。
フルコンサートピアノではなく、もう少し小型のピアノであったとのことだが、録音を聴いていると現代のピアノとは違った華奢な懐かしいピアノの音がする(気がする)。

ロンドンにもベヒシュタイン社のショールームがあったのだが、トライデントのピアノは当時のベヒシュタインの代理店だったJake Samuel Pianoという会社からのリースで設置されていた。ロンドンには他にも多くのピアノメーカーがあるのだけれど、ベヒシュタインのピアノは戦後もロンドンに多くあったらしく、Queenのフレディー・マーキュリーも一時期ベヒシュタインのフルコンサートグランドピアノを用いて録音していた。

ベヒシュタインの楽器はもちろんクラシックのピアニストの方が愛用者が多く、本来はクラシック音楽を演奏することを想定して製造されていたピアノだが、思わぬところでも活躍していたのだ。

そういうこともあり、私は自宅のピアノに特別な愛着がある。色々なところにガタはきているのだけれど、これからも大切に弾いてこのピアノの余生をゆっくりと過ごしてほしいと強く感じた。

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