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【子どもの発達障害と大人の発達障害の違い】

発達障害というと「子どもに特有の障害」と思う方も多いのですが、実は、「大人の発達障害」も珍しいものではありません。


近年、メディアでも「大人の発達障害」が取り上げられることが多くなりました。
このコラムを開いてくださったあなたも、仕事や生活の上で困難を感じていて、「もしかして、私は発達障害なのかもしれない」とお悩みの大人の方ではないでしょうか。


この記事では、「大人の発達障害」の解説から発達障害の種類、職場で見られる大人の発達障害の特徴と事例、相談先などを解説します。


ご自身の発達障害を疑っている方はもちろん、発達障害を抱える人への接し方にお悩みの方もぜひ参考にしてください。



大人の発達障害って?



そもそも発達障害とは?

そもそも「発達障害」とは、一言で言えば、「脳の機能の障害」のことです。

身体の機能と同じように、脳の中(心の中)にもいろいろな機能があります。

脳の機能(心の機能)のバランスにばらつきがある状態が、「発達障害」と呼ばれるものです。

もちろん、やはり身体と同じように、誰の脳の機能(心の機能)にも多少のばらつきはあります。

そのうち、ばらつきが非常に大きくて、社会生活を送る上で支障が出るものを「発達障害」と言うのです。

人にはそれぞれ個性があります。のんびり、几帳面、マイペース、おだやか……。個性の多様性は社会を豊かにするものです。

しかし、個性のために自分や家族・周囲の人たちが苦労するような状況が出てきたら、それは「発達障害」が関係するのかもしれません。

なお、発達障害には知的障害を伴うこともありますが、必ず伴うわけではありません。

非常に知能が高く、高学歴だったり知的職業に就いていたりする発達障害のある人も多くいます。



大人の発達障害と子どもの発達障害との違い

発達障害は、「生まれつき」のものであり、大人と子どもで異なることはありません。
日本では、2005年に「発達障害者支援法」が定められました(その後、改正もされています)。

その中で、発達障害は、「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達症害、学習障害、注意欠陥多動性障害、その他のこれに類する脳機能の障害であって、その症状が通常低年齢で発現するもの」と定義されています。(参考:文部科学省「発達障害者支援法(平成十六年十二月十日法律第百六十七号)」

ポイントは、「通常低年齢で発現する」というところです。

これは、発達障害は生まれつきのものであるためです。

逆に言うと、「大人になってから(思春期から、満〇歳から)」のように、成長してから発達障害になるということはありません。

そう見える場合は、「大人になるまで、発達障害だと知らなかった(気づかなかった)」というケースなのです。

現在はある程度の支援体制が整い、発達障害のある人は子どもの頃に早期発見されます。

そのためもあって、「発達障害は子どもの障害」というイメージを持つ方がいるのかもしれません。



大人になってから発達障害に気がつく理由

発達障害は生まれつきのものです。しかし、大人になってから発達障害(による困難)が顕在化し、成人後に診断がつく人も多く存在します。

なぜ、大人になるまで自身の発達障害に気づかないのでしょうか。

現在の子どもたちは、発達障害の特徴があると、子どものうちに発見されることが多いです。そして、適切な療育・サポートを受けつつ、「生きづらさ」を少しずつ解消していきます。

ですが、現在大人である人たちが子どもの頃には、「発達障害」は一般的ではありませんでした。

適切な診断やサポートを受けられないまま、「ちょっと変わった人」として見過ごされて来たケースが多かったのです(誤って統合失調症などの別の診断名が付けられることもあったようです)。

そして、大人になってから(社会に出てから)困難を自覚して、または他人から指摘され、病院に行って診断がつく…ということです。

大人になってから発達障害に気づく人には、次のような特徴・傾向があるとされています。

  • 優先順位がつけられず、仕事を効率的に進められない

  • 身の回りの整理整頓ができず、忘れ物や紛失が多い

  • 対人関係において独りよがりな言動があり、トラブルになることがある

  • 周囲の環境や支援が整わないと、精神障害などの二次障害に発展することがある

適切なサポートを受けることで、発達障害の特性に伴う大人(社会人)としての生きづらさにも、具体的な対策がわかっていきます。



発達障害の原因

発達障害の原因は、現在の科学では「よくわかっていない」というのが正直なところです。

しかし、「生まれつきの脳の機能障害」であることはわかっています(以前は、「親の育て方やストレスが原因である」と誤解されていました)。

その上で、遺伝の要素は否定できないこと、環境ホルモンや妊娠時や出産時の要因などの環境的要因も考えられることが指摘されています。

また、前述のとおり、発達障害の特徴は乳幼児期から現れるものであり、「大人になって発達障害になった」「思春期にいじめられて発達障害になった」というようなことはありません。

発達障害の治療方法

発達障害は、少なくとも現在の医学では、「治る」ものではありません。
そもそも、発達障害は障害ではなく「個性」であり、治す必要のないものだという考え方もあります。

ただし、発達障害に由来する「苦労」があることは事実です。

子どもであっても大人であっても、自分の発達障害の特徴を知り、必要に応じて適切なサポートを受けることで、「障害」や「個性」とうまく付き合っていけるようになります。



発達障害の治療薬

現代の医学には、「発達障害を根本的になくすための治療」はありません。ですが、(一部の)特性を緩和・改善できる薬はあります。

例えば、「メチルフェニデート」という薬には、ADHDの特性である不注意や多動性などを改善する効果があります。(参考:厚生労働省「メチルフェニデート

薬については、誤った情報や偏った情報も多く発信されています。また、発達障害の特性に関連する薬は市販されておらず、入手には医師の処方が必要です。

「自身に合いそうな薬があるか」「ある場合、服薬した方がよいか」などについては、副作用なども含めて、主治医に相談の上、方針を検討していきましょう。

参考として、埼玉県の「中川の郷療育センター」が発行している「発達障害の当事者とまわりの人のための薬はじめてガイド」」は、発達障害と服薬のことがわかりやすく解説されています。無料でダウンロードできますので、参考としてご覧ください。(参考:中川の郷療育センター「発達障害の当事者とまわりの人のための薬はじめてガイド」」)


発達障害の性別ごとの割合

発達障害のある人は、「女性よりも男性の方が多い」とされています。
厚生労働省が2016年に行った調査によれば、発達障害と診断された人のうち、男性は約68.8%、女性は約29.9%となっています(不明約1.2%)。(参考:厚生労働省「平成28年生活のしづらさなどに関する調査」

特にASD(自閉スペクトラム症、自閉症スペクトラム障害)に限ると、男性の発生頻度は女性の約4倍であるという説もあります。

ただしこれは、「男性に比べて、発達障害のある女性の割合は少ない」ということを意味するとは限りません。

女性の場合、発達障害があっても、知的障害や言語の遅れを伴わなければ「困難さ」が目立たないことも多く、発達障害の「診断」につながっていない(発達障害であることが見過ごされている)可能性もあるのです。(参考:厚生労働省「e-ヘルスネット ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)について」


発達障害の特徴・特性:ASD、ADHD、SLD、DCD

この章では、大人の発達障害に見られる4つの代表的グループの特徴・特性などを紹介します。

  1. 前提:発達障害の名称変更とグループ分け

  2. ASD(自閉スペクトラム症、自閉症スペクトラム障害)

  3. ADHD(注意欠如・多動性障害)

  4. SLD(限局性学習症・限局性学習障害)

  5. DCD(発達性協調運動障害)

  6. 補足:大人の発達障害と併発しやすい病気・間違えられやすい病気



前提:発達障害の名称変更とグループ分け

実は、「発達障害」という名称は、現在は「神経発達症候群」という名称に変わっています。

2013年、アメリカ精神医学会が定める『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』が改訂され、その中で「発達障害」の名称と分類も変更されたのです。

WHO(世界保健機関)が定めるICD(国際疾病分類)における名称も、2018年に『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』に合わせて「神経発達症候群」に変更されています。

発達障害の一種として広く知られていた「アスペルガー」という診断名も、現在は正式ではありません。

発達障害に関する診断名は、新旧で次のような分類になっています。
神経発達症候群(旧・発達障害)

  • ASD(旧・広汎性発達障害、旧・アスペルガー症候群、旧・自閉性障害)

  • ADHD(旧・注意欠陥・多動性障害)

  • SLD(旧・学習障害、LD)

  • その他の発達障害(DCD、知的能力障害、コミュニケーション症群、運動症群)

名称や分類は変更されましたが、これまで使われてきた「自閉症」や「アスペルガー症候群」といった診断名も、いまだに病院や一般社会で使用されており、非常にわかりにくい状況となっています。



ASD(自閉スペクトラム症、自閉症スペクトラム障害)

ASDとは、「自閉スペクトラム症、自閉症スペクトラム障害(Autism Spectrum Disorder)」を意味する発達障害の1種です。(参考:医学書院『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル 』、宮尾益知『ASD(アスペルガー症候群)、ADHD、LD 職場の発達障害 』、姫野桂『発達障害グレーゾーン 』、厚生労働省「ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)について 」)

ASDには多くの特性がありますが、その中でも下記の2点がよく見られるものとして挙げられます。

  • 社会的コミュニケーションおよび対人的相互反応における持続的な欠陥

  • 行動、興味、または活動の限定された反復的な様式

他に、感覚過敏(光や音や刺激への敏感さが目立つ)、発達性協調運動障害(不器用さが目立つ)などの特性がある人もいます。

なお、「スペクトラム」というのは、特性に様々なグラデーションがある、という意味です。一口に「ASD」と言っても、その特性の現れ方はひとりひとり異なります。

より具体的な例では、例えば次のような状態・状況です(例であり、ASDの特徴は多岐にわたるため、ご紹介するもの以外にもたくさんあります)。

  • 臨機応変が苦手で、電車のダイヤが乱れるとパニックになり職場に行けない

  • 「空気が読めない」と言われる

  • 一方的に話す、会話がかみ合わない

  • 友達ができず孤立しがち

  • 好きなことには精通しているが、その他のことに対して年齢相応の知識や常識がない

  • 手指をパタパタ動かす

  • 味覚や触覚が過敏である


ADHD(注意欠如・多動性障害)

ADHDとは、「注意欠如・多動性障害(Attention-Deficit Hyperactivity Disorder)」を意味する発達障害の一種です。(参考:医学書院『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』、田中康雄『大人のAD/HD』、岩波明『大人のADHD:もっとも身近な発達障害』)

ADHDには多くの特性がありますが、その中でも下記の2点がよく見られるものとして挙げられます。

  • 不注意…忘れ物やケアレスミスが多く、確認作業を苦手とする

  • 多動・衝動性…気が散りやすく、貧乏ゆすりなど常に身体を動かしていないと落ちつかない

その他にもよく挙がる特性の現れ方として、「マルチタスクやスケジュール管理が苦手」といったものがあります。

たとえば、次のような症状があります(こちらも、実際はより多岐に渡ります)。

  • 仕事の間違いやミスが目立つ

  • 気が散りやすく、人の話を聞いていない

  • 片づけができず、忘れ物や失くし物が多い

  • おしゃべりが止まらず、人が口を挟む隙を与えない

  • 順番が待てない

  • ささいなことで口論するなど、我慢ができずにトラブルを起こす

  • 衝動買いをして後悔する



SLD(限局性学習症・限局性学習障害)

SLDとは、「限局性学習症・限局性学習障害(Specific Learning Disorder)」を意味する発達障害の一種です。

読むこと、書くこと、計算することなど、特定の学習のみに困難が生じます。(参考:厚生労働省「e-ヘルスネット 学習障害(限局性学習症)」)

SLD(限局性学習症・限局性学習障害)は、知的障害とは全く異なるものです。

SLD(限局性学習症・限局性学習障害)のみがある人は、知的発達の遅れはありません。ただし、SLD(限局性学習症・限局性学習障害)と知的障害の両方があることもあります。

SLD(限局性学習症・限局性学習障害)の状態には、例えば次のようなことがあります。

  • 手紙や本など、長い文章を書いたり読んだりするのが苦手

  • 簡単な暗算ができないため、スーパーのレジでお釣りの計算などができない



DCD(発達性協調運動障害)

DCD は、「発達性協調運動症(Developmental Coordination Disorder)を意味する発達障害の一種です。(参考:医学書院『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』)

DCDの定義は以下のとおりです。

  • A) 協調運動技能の獲得や遂行が、その人の生活年齢や技能の学習および使用の機会に応じて期待されているものよりも明らかに劣っている。その困難さは、不器用(例:物を落とす、または物にぶつかる)、運動技能(例:物を掴む、はさみや刃物を使う、書字、自転車に乗る、スポーツに参加する)の遂行における遅さと不正確さによって明らかになる。

  • B) 診断基準 A における運動技能の欠如は、生活年齢にふさわしい日常生活動作(例:自己管理、自己保全)を著明および持続的に妨げており、学業または学校での生産性、就労前および就労後の活動、余暇、および遊びに影響を与えている。

  • C) この症状の始まりは発達段階早期である。

  • D) この運動技能の欠如は、知的能力障害(知的発達症)や視力障害によってはうまく説明されず、運動に影響を与える神経疾患(例:脳性麻痺、筋ジストロフィー、変性疾患)によるものではない。


日常生活場面で、以下のような姿が見られる傾向があります。

  • 歩く・走る・スキップするなどの動作がぎこちない

  • 跳び箱や縄跳び、鉄棒などの運動が同年代の人と比べて苦手である

  • 不器用さがあり、道具の扱いや細かい動きがうまくできない


補足:大人の発達障害と併発しやすい病気・間違えられやすい病気

発達障害では、ASD(自閉スペクトラム症、自閉症スペクトラム障害)、ADHD(注意欠如・多動性障害)、SLD(限局性学習症・限局性学習障害)、DCD(発達性協調運動障害)などが併発していることがよくあります。

それらの見分けや診断は医師でも難しく、他の病気の診断名をつけられることもあります。

ここからは、発達障害と併発しやすい病気・間違えられやすい病気をご紹介します(ひきこもりなど、病気ではない「状態」も含めます)。

「いろんな病気かも」とあなたを不安にさせるつもりではありません。ただ、各病気・症状・状態によって、必要な治療や対応は異なります。

そのため、「自分は発達障害だ」と自己判断で決めつけるのではなく、「発達障害かもしれないし、もしかしたら他の原因なのかも」などと想定することで、頼る相手も様々に考えられるということです。(参考:黒澤礼子『新版 大人の発達障害に気づいて・向き合う完全ガイド』)

発達障害と併発しやすい病気・状態

  • てんかん

  • チック

  • むずむず脚症候群

  • ニート

  • ひきこもり

  • 家庭内暴力

  • 非行や挑発的行動

発達障害と間違えられやすい病気・状態

  • うつ病

  • 統合失調症

  • 摂食障害

  • 強迫症

  • 社交不安症

  • パーソナリティ障害



大人の発達障害の診断に関する注意点

注意点①未診断で「自分は発達障害だ」と思い込まないようにしましょう

近年、「何がしかの生きづらさ」のために、自身の発達障害を疑って精神科を訪れる人が増えています。


しかし、これまでにご紹介した特徴・特性があると自分で思っている場合でも、「必ず発達障害である」とは限りません。


発達障害の特徴・特性は、ある程度は「誰にでも」当てはまるものです(例えば、コミュニケーションの難しさは多くの人が感じるものです)。


診断を受けていない段階で、「自分は発達障害だ」と思い込まないようにしましょう。


「生きづらさ」があるのは事実だとしても、その原因は他の精神疾患かもしれませんし、シャイで無口な性格や社会経験の少なさなど「病気・障害とは別の要因」に由来するものかもしれません。


生きづらさの原因を発達障害に限定せずに考えることで、「あなたに合う相談先・解決策」も、より多くの選択肢の中から探せるようになるでしょう。



注意点②発達障害の診断は医師だけが可能

「ある人が発達障害かどうか」は、検査や問診を行った上で、医師だけが判断できます。逆に言うと、医師以外には判断はできません。


診断の際には、「幼い頃から対人関係などで困難があったか」などについて、ご自身やご家族の記憶も参考にされます。


これは、「大人になってから(成長に伴って)発達障害になる」ということはなく、発達障害の特性は幼い頃から発生しているためです。


なお、発達障害の診断が出ることで、「これまでの困難がわかって、安心した」と思う人は多いようです。


一方で、「自分に障害があることが確定するのが怖い」と思い、検査を受けることをためらう人もいます。


「自分は検査を受けるべきかどうか」については、後述するサポート団体に相談できます。



補足:発達障害のセルフチェック

「自分に発達障害の可能性があるのか、なるべく手軽に知りたい」という方もいらっしゃるのではないでしょうか。

例えば『新版 大人の発達障害に気づいて・向き合う完全ガイド』では、基礎調査票の15項目の設問に答え、結果をグラフ化した評価シートを参照することにより、発達障害かどうかの傾向を知ることができます。(参考:黒澤礼子『新版 大人の発達障害に気づいて・向き合う完全ガイド』)

また、ごく簡易的なものではありますが、発達障害をセルフチェックするテストも存在します。
たとえば以下のようなものです。

しかし、これらのテストの結果はあくまで参考です。


繰り返す通り、「ある人が発達障害かどうか」は、医師だけが判断できます。


チェックリストに「当てはまる」「当てはまらない」からといって、「自分は発達障害である」「自分は発達障害ではない」と、自己判断するのは避けましょう。




職場で見られる大人の発達障害に関する事例3選

大人の発達障害の特徴は、職場、家庭、子育てなど、あらゆる場面で発現することがあります。


そして、大人の発達障害の特徴に関連して、「職場でいじめられる」「解雇される」「家庭の維持が困難になる」「自分ではそんなつもりはないのに子どもを虐待する」などという事例は、残念ながら「全くない」わけではないのです。


しかし、「発達障害を持っていると、社会生活や子育てに絶対に不向きである」というわけではありません。


発達障害を持ちながら、職場に適応していたり、発達障害ではない人よりも活躍したり、子どもを育てたりしている人もたくさんいます。


ただ、社会生活や子育ての困難の原因が、発達障害の可能性もあるということを知っていただけたらと思います。


大事なのは、「適切なサポートを選択して歩み寄ること」です。



そうすることで、仕事でも、家庭でも、その他社会生活でも、「あなたの発達障害」とうまくつき合っていけるようになります。


ここからは、特に職場で具体的にどのような「困った症状」が現れるのかについて、『大人の発達障害アスペルガー症候群、AD/HD、自閉症が楽になる本』から、3つの事例をご紹介します(一部編集及び簡素化しています)。(参考:備瀬哲弘『大人の発達障害アスペルガー症候群、AD/HD、自閉症が楽になる本』

  1. 事例①「普通であること」に憧れるAさん

  2. 事例②職場の女性から怖がられるBさん

  3. 事例③会社にアロハシャツを着て行くCさん

  4. 発達障害に対する適切なサポートがあれば、働くことはもちろん可能




事例①「普通であること」に憧れるAさん

Aさん(55歳)は、翻訳者です。

外見も身だしなみも整っていて、マナーもきちんとしています。医師が話した感じでも、変わったところはありません。

Aさんのように、「外見や話した感じに変わったところがない」発達障害のある人も多くいます。

そんなAさんは、子どもの頃から周囲とうまくいかず、「普通であること」に憧れていました。

大学を出た後、Aさんの個性を知る母は大学院進学を勧めましたが、Aさんは「普通でいたい」と会社勤めの道に進みました。

しかし、会社に入るとAさんはたくさんの「できないこと」に直面します。

まずは、電話対応ができません。「いつ、誰が電話をかけてくるかわからない」といった「臨機応変の対応」ができず、電話に恐怖を感じるようになります。

もう一つは「お茶出し」でした。「仕事の流れを読み、課長さんの機嫌を見て、タイミングよくお茶を出す」ことが、Aさんには何よりも難しかったのです。

「どうしてこんな忙しいときにお茶を出すんだ!」と怒鳴られたり、今は忙しいだろうと考えてお茶を出さずにいると「お茶が飲みたいんだけど、気が利かないね」とイヤミを言われたり。

電話対応にもお茶出しにも、決まったルールがありません。

人の顔色や空気を読んで行動しなくてはならないこれらの仕事は、発達障害のある人たちが苦手とするところです。

大学受験も入社試験もパスし、翻訳家としても活躍できるAさんですが、多くの人がこなせる仕事ができず、「普通の会社員生活」を送ることができませんでした。



事例②職場の女性から怖がられるBさん

Bさん(男性、41歳)は、会社員です。

上司は、Bさんの次のような行動に困り、精神科に相談を行いました。

あるとき、Bさんの斜め前のデスクの女性が何気なく豆乳を飲み始めました。

その姿を、Bさんは睨みつけるように「じーっと」凝視します。女性は、飲食をしたのが気に障ったのかと思い「すみません」と謝りました。

すると、Bさんは「謝ることはないですね」と言って、急にニンマリと笑ったのです。

それからも、Bさんがその女性の顔を凝視することが続きました。

女性の顔を睨むように「じーっと」凝視した後、突然ニンマリと笑い、「今日は天気がいいですね」「傘が必要なので忘れないでくださいね」などと話しかけるのです。

Bさんのこうした行動に、その女性はすっかり怖くなって上司に相談し、上司も精神科医に相談したのです。

医師がBさんから話を聞いたところ、Bさんは姉から、「女性と話をするときには、目を見て笑いかけるように」と言われていたということでした。

女性を睨みつける(ように見えた)のも、ニンマリ笑うのも、姉から教わった「マニュアルどおりに」振る舞っていただけだったのです。

Bさんの行動は、「マニュアル」「ルール」に従ったものかもしれません。ですが、女性の顔色や空気を読んだものではないため、結果として「不気味」なものになっていたのでした。



事例③会社にアロハシャツを着て行くCさん

Cさん(23歳)は会社員です。

Cさんが会社にアロハシャツを着て行くことに困った母親が、医師に相談しました。

Cさんは、子どものころから強い「こだわり」を持っていました。

お母さんの話によれば、同じTシャツを色違いで何枚もそろえたり、同じスニーカーを何足も買ったりしていたとのことです。他にも、「明日は運動会だ」と決まっていたのに雨で延期になったことが納得できず、何時間も泣き続けたといったことがあったそうです。

Cさんは、今はアロハシャツに「こだわり」を感じているようでした。

見かねた上司が「そんな派手なシャツを着て、社会人らしくないぞ」と注意すると、今度はおとなしい色のアロハシャツを着て出勤します。

人の言葉を「言葉どおり」に受け取ってしまうのも、発達障害の特徴です。発達障害のある人は、冗談や皮肉がわからないことが多いといわれるのもそのためです。

Cさんも、「派手なシャツはいけない」という上司の言葉を、「地味な色のアロハシャツならいいのだ」と言葉どおりに受け取って、アロハシャツへの「こだわり」を捨てませんでした。

医師はお母さんに、社会には「就業規則」に書いていないルールも存在することを具体的に示してCさんに教えていく方法を提案しました。



発達障害に対する適切なサポートがあれば、働くことはもちろん可能

『大人の発達障害アスペルガー症候群、AD/HD、自閉症が楽になる本』では、その他にも、次のような事例が紹介されています。興味があれば、読んでみてください。

  • 会議のアポ取りなどの物忘れが激しい

  • 衝動性が激しく、カッとなると止められない

  • 感情のコントロールができない

また、紹介されている事例以外にも、大人の発達障害の特徴がトラブルにつながる事例はたくさんあります。


しかし、繰り返しますが、発達障害だからといって「悪い」「劣っている」のではありません。


ご紹介したような特徴も、適した環境でサポートを受ければ、「普通に働ける」「優れた能力を開花させられる」可能性は十分にあるのです。
発達障害に対する適切なサポートがあれば、働くことはもちろん可能です。




大人の発達障害の生きづらさを減らすためにできること

この章では、大人の発達障害の生きづらさを減らすためにできることや大人の発達障害に関連する困りごとを減らす環境調整、ライフハックについて解説します。


大人の発達障害の生きづらさを減らすためにできること3点

発達障害のある成人の方が感じやすいのが「生きづらさ」です。

「がんばっているつもりなのに、『怠けている』とみなされる」「トラブルが多く、孤独を感じやすい」など深刻な悩みに通じる生きづらさを抱えている方が多いのではないでしょうか。

そんな「生きづらさ」を減らすためには、以下の3点がおすすめです(※あくまで一例です)。

  1. 信頼できる情報を集め、知識を身につける

  2. 発達障害者支援センターなど、複数の相談先をもつ

  3. 自分の特性や得意なこと、苦手なことを周囲に伝え、理解してもらう

「①信頼できる情報を集め、知識を身につける」に関しては、政府広報オンラインや厚生労働省のWEBサイトなど、公的機関や信頼できる機関が発信している情報を集めるようにしましょう。

私たち「キズキビジネスカレッジ」でも、多くのコラムを公開しています。ぜひ、参考にしてください。

「②発達障害者支援センターなど、複数の相談先をもつ」については、現在は発達障害に関する様々な相談先があります。診断を受けていない状態でも、発達障害の確定診断がなくても(グレーゾーンの状態でも)利用できるところもあります。

そうした相談先を利用することで、実際のあなたのための「具体的な対策」がわかっていきます。

また、相談先を利用することで、「③自分の特性や得意なこと、苦手なことを周囲に伝え、理解してもらう」ための方法も見えてくるはずです。


大人の発達障害に関連する困りごとを減らす環境調整

発達障害のある大人が自分のよさを発揮して生きていくために重要なのが、「環境調整」です。(参考:厚生労働省「発達障害のある方への職場における配慮事例のご紹介」)

環境調整とは、障害に関連する困りごとが起きないように、環境の方を調整することです。

これは、「発達障害のある大人を取り巻く環境を変えることで、困難さを減らす試み」と言えるでしょう。

具体的には、以下のようなことが挙げられます(※あくまで一例です)。

  • 視覚刺激に敏感な場合、作業や学習の場をすっきりさせ、余計な刺激が入らないようにする

  • 聴覚刺激に過敏さがある場合、大きな音や声が聞こえない環境にする

  • マルチタスクが苦手で家事に負担感がある場合、家事を外注してやるべきことを減らす

ちょっとした工夫で発達障害に関連する困りごとを減らすことができ、二次障害の防止にもつながります。



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