丁寧なクロワッサン作りの歩留まり
問題提起
クロワッサンの特徴でもある層を作るために、シーティング(折り込み)が行われます。しかし、バターを完全に包んで行った場合、生地の端までバターが行きわたっていないため、綺麗な層が出づらいという問題があります。その問題は、生地の端を切り落とすことによって解決できるのですが、そこで歩留まりを考えなくてはなりません。
具体的な歩留まり
普段は家で四つ折りを2回行っているのですが、580gの生地(うち、250gが小麦粉、150gが折り込み用バター)をおよそ40cmの長さにのばすとやり易いと感じます。ここで、生地の端を切り落とすのですが、それぞれ1cm以上の幅で切り落としてしまっているように思います。それを合わせて3cmと仮定すると、3/40もの生地がクロワッサンになれていません。2回目のシーティングも同様に、3/40の生地はクロワッサンになれません。
二等辺三角形に切るときも、底辺の層を出すために生地の端を切り落とします。ここでもおよそ3cmほど切り落としているのですが、二等辺三角形の高さが25cmになるようにしているため、3/28もの生地がクロワッサンになれていないのです。
また、適当な長方形から二等辺三角形を切り出す場合、その二等辺三角形の半分の大きさの直角三角形が2個余ると思います。つまり、クロワッサン1個分の生地を切り落とすのです。普段作るクロワッサンの数は5個なので、それを基準に考えると、1/6の生地はクロワッサンになれていません。
このように、丁寧にクロワッサンを作ろうとすると、その歩留まりが気になってきます。
このときの歩留まりは、以下のように計算することができます。
(1-3/40)×(1-3/40)×(1-3/28)×(1-1/6)=6845/10752≒64 [%]
つまり、歩留まりは約64 [%]です。
逆に言えば、約36 [%]もの生地がクロワッサンになれていないのです。
一般的な歩留まり
シーティングの回数をn、n回目のシーティングでのばしたり切り落としたりする長さをx_nやy_n、二等辺三角形の高さをh、底辺の層を出すために切り落とす長さをz、作るクロワッサンの数をNとおきます。
このときの歩留まりは、以下のようになります。
Π_{m=1}^{n}(1-y_m/x_m)×(1-z/(h+z))×(1-1/(N+1))
すなわち、切り落とす長さを短くするほか、シーティングの回数を減らしたり、のばす長さを長くしたりすると歩留まりを高くできます。さらに、二等辺三角形の高さを高くしたり、作る数を増やすのもよいのです。
改善例
先ほどの例では歩留まりが約64%だったのですが、一般的な考察を経て改善してみると、どのようになるのでしょうか。
幅出しを抑えて細くするなどして、60cmまでのばした四つ折りを2回してみます。切り落とす長さは普段の半分、すなわち合わせて1.5cmにします。二等辺三角形の高さを28cmにして、クロワッサンにボリュームを出してみましょう。ここでも、切り落とす長さは普段の半分です。そして、普段のおよそ倍の数の、11個のクロワッサンを作ってみます。
このときの歩留まりは、以下のように計算することができます。
(1-1.5/60)^2×(1-1.5/(28+1.5))×(1-1/(11+1))=39039/47200≒83 [%]
つまり、歩留まりは約83 [%]です。
かなり改善できたのではないでしょうか。
まとめ
クロワッサンはバターを多く使用するため、パンの中では比較的高級です。だからこそ、その価格を抑えるために、歩留まりが重要になってきます。しかし、60cmの長さがある作業台の用意や、二等辺三角形の高さを変えることによる焼き時間の変更、一度においしく食べきれる量の焼成など、さまざまな困難があるでしょう。それでも、歩留まりを高める方法をたくさん知っておくことは損ではありません。それは、可能な限り最善な歩留まりのクロワッサン作りを手助けするでしょう。