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<アートマネジメント・2>

 茅ヶ崎市美術館は素敵なのだ。武蔵美通信の間、何度もこの美術館にレポートのテーマになってもらった。公園の中にある立地といい、市民に大事にされている感じといい、理想的な地方の美術館の趣きがある。この課題では主役になってもらいました。以下レポート。

茅ヶ崎市美術館におけるアートマネージメントについて

1) 茅ヶ崎美術館について

 茅ヶ崎市美術館は1998年4月に茅ヶ崎駅から南方に程近い高砂緑地公園の中に開館した。運営の意義は「市民の余暇活動活性化のために所蔵美術品の展示で市民に還元する」である。指定管理者制度により、公益財団法人茅ヶ崎文化・スポーツ振興財団が運営している。公開された近年の資料によれば、「平成29年度(1)展覧会事業 予算額11,122千円(関連催事を含む)」とあった。各企画展の結果と評価が細かく掲載され、一つ一つの企画展示、全てのワークショップについて調査報告がなされている。これらじは次年度の企画へと真摯に向かっているように見受けられる。

 収蔵品は美術館サイトのデータベースに1292点が掲載されている。美術館にて展覧会を行った作家の作品が多くを占め、地域に根ざして活動していた作家たち、あるいは湘南地方に転居して来た作家の作品を多く収蔵している。寄贈も多い。美術館の存続とその経緯についての展覧会があり、それによれば収蔵品は二千点ほどだという。最新の報告書では令和4年4月から5年3月の観覧者数は24419人で、2月から3月にかけては工事のため休館していたものの、前年度データ23408人より千人程度増加している。同時期の収益は11387,732円で、前年度より240万円程度プラスとなっていた。

 事業報告書は、公益財団法人茅ヶ崎文化・スポーツ振興財団のウエブサイトにて毎年公開されており、各展覧会の入場者数や収支、及び具体的に利用者にどのような結果があったかなど詳細かつ簡潔にまとめられている。


2)企画展における方向性

 過去の作家たちの展覧会や歴史的芸術家の展覧会を開催する茅ヶ崎市美術館は、現代作家の展覧会も毎年企画している。茅ヶ崎の風景を展示した企画展示なども開催されており、常に地元との繋がりを重要視しているように見られる。

 2023年、開館25周年記念の春の企画展「渉る間に佇む」は茅ヶ崎市美術館のあゆみを、収蔵作品および関わりのある現代作家の作品、さらに地域との繋がり方を展覧会という形にしたものである。茅ヶ崎市美術館に関わりのある作家の作品を展示し、さらにある編集者が市民にアンケートをとり、その結果をカードの言葉、短冊の言葉、また音声にして第三展示室全体で展示した。これは市民の感想そのものがアート作品になっており、地域連携を重んじている館の姿勢が見える。

 その後に続いた、夏にかけての「イギリス風景画と国木田独歩」展は茅ヶ崎に住んだ国木田独歩を主役に作品『武蔵野』を底に、独歩が影響を受けた詩人ワーズ・ワースの流れからイギリス風景画へと広がる企画展があった。小説『武蔵野』の魅力である「風景」を呼水として、国内および諸外国の風景画もあわせ、その集合体の中であらためて「風景画」を鑑賞することの発見を鑑賞者に提示していると考えられる。ターナーやサミュエル・パーマーなど71点の海外作家作品を郡山市立美術館から、25点の主に日本人画家の作品を府中市美術館から借り受けている。2点のみ茅ヶ崎市美術館の所蔵(風景は甲州と伊豆)である。茅ヶ崎に住んだ国木田独歩に託しているため、近隣の市民には親しみが湧きやすく共感を得やすい。コロナ禍で海外旅行を控える人々も多い中(特に高齢者)、欧州の風景画を鑑賞してもらうことで旅の代わりにという思惑を感じる。タイトルに「イギリス風景画」とあるように風景に特化した作品を集めたので、「風景画」そのものが主役となっていた。この後、映画監督の小津安二郎の企画展も、「茅ヶ崎」をベースにしている。地域密着型企画展示と考えられる。


3)茅ヶ崎市美術館のマネージメントにおける姿勢

 都心の美術館では欧州などの有名美術館から借り受けた歴史的美術品や、日本人が好むとされる印象派絵画展など、集客力のある展覧会が華美な宣伝とともに開催されることが多い。比較して茅ヶ崎市美術館の場合は、コンパクトな場所なが、地域に根差し「美術館そのものの存在を近く感じさせるもの」と「今求められているもの」の接点を探し、新しい視点を丁寧に作り上げていると思われた。派手な宣伝などはないが、企画は無理なく鑑賞者を誘う仕組みになっており、訪問時には近隣の高齢者(割引がある)が訪れている様子を常に見かけた。「イギリス風景画〜」展についての利点は、海外からの貸出と比べて国内の貸出費用は低いと想定される。美術館や博物館同士の様々な連携があれば上記のような企画が成立するのだろう。企画展は本来、各美術館での研究をもとに提案されるのだろうが、国内でどのような種類の作品が現在借りられるのかを考慮して、新たな発見を鑑賞者に向けて提示できる良い例なのではと考察した。マネージメントとしては他に予算を回せることになる。地域との連携が良い状態にあることで経済的にもうまく回っている例のように思われた。例えば、地方によっては義務的に運営し、来館者が少なく赤字になるような美術館もあるだろう。茅ヶ崎市美術館に関しては、過去を振り返りつつ何を提示して行けば、鑑賞者に新しい視点を与えたり、収蔵資料に新しい光を当てられたりするかを、誠実に模索しているようだ。客観性を保ちながら、企画展示にトライしているように見えた。その努力が近隣住民にも伝わっているため、愛される美術館になっていると考察した。

レポートを終えて:美術館とは何か、ということを真剣に考えた課題でした。

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