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天国の門ふたたび〜母を看取る?
『私は行きません!けっこうです!』
そういうと天国の門はゴゴゴゴと音を立てて閉じられた
らしい。
母の話である。
数年前、熱中症で死にかけた時、母の前に、
というか母の寝床の上にその門は現れて、
『天国の門は開かれた。さあ楽になりなさい』と神々しい声が響いた。
らしい。
しかし、母は断った。
猫を置いてはいけない!と思ったそうで、
『けっこうです。まだ行けません』というと
その神々しい声は『一度閉じたらもう開かぬぞ』と言ったそうだが
『かまいません、天国よりタロウ(猫)が大事です、行きません』
そうキッパリと言って断った。
そして、天国の門は閉じられ、雲の向こうに消えて行った。
らしい。
そのせいか知らないが、その後なんどか死にかけたが死なない。
なんならもう本人が『もう生きなくていい。お父さんのところ行きたい』
そう願っても、天国の門は全く現れず、母はかろうじて生きていた。
しかし、そろそろ昇天拒否も時効を迎えたのか、地獄の方なのかわからないが、何がしかの門が開き始めたらしい。
母はまもなくあの世への門を潜ろうとしている。
先週からついに水もなかなか飲めなくなったのだ。
水が飲めないというのは生き物的には終わりの合図であると私は思っている。
それを無視して栄養点滴や胃ろうなど続けても苦しくなるだけであることは、これまで見送った父や義理の両親、知人などを見ればわかる。
神様はうまくしたもので、自然にまかせて亡くなる時には苦しまないように作っている。
なので、医者と相談し病院には移さず今いる老健のままでターミナルケアへと移行した。
(ターミナルケア=看取り)
ここでできるのは、水分の点滴と、スープ状にした食事を口から入るだけ…それも無理はさせない。
なので、5割食べられたらいい方で、1〜2割の日もある。
ターミナルケアになると1人部屋に移るので、
好きな音楽を聴きながら、毎日だれか子どもが来て身体をさすり声をかけ、ゆっくりと穏やかに枯れて行く…
なのだが…
おや?
なんか前より顔色よくない?
天国の門は、やはり閉じたままなのかな。
天国の門が開いた!と慌てたのはこちらだけだったのか、本人はのんびり寝息を立てている。
神様、もしまだ母に天国の門をくぐる権利があるのなら、この調子で苦しませずに呼んであげてください。