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自分に甘く、他人にも甘い社会は生きやすい。

これは、今でも思いだすと涙ぐんでしまうほど、心に焼き付いた思い出。私のイギリスに対する印象だけでなく、いろんな事をがらり変えてくれた。ずいぶん前のことだけど、思い出すといまだに感情が昂ってしまうので、うまくまとめられるかわからない。でも、一度言葉にしておきたいと思った。この日のことを振り返る度に、胸がいっぱいになる程あふれる感情は、心の底からの感謝だ。


事故にあった話

私は日本生まれの日本育ちなので、カルチャーショックは割とあって、引越し当初イギリスにはかなり不満があった。みんないい加減だし、何事もスムーズにいかない。日本だったらこんな事は絶対ないのに!と、何かしらストレスを貯める毎日。それでもなんとか日々をやり過ごして、2年ほどたち、生活が少し落ち着いた頃、運転中に交通事故に巻き込まれた。

停車中に後ろからブレーキなしで突っ込まれて、4台が玉突き。

片側1車線の見通しのよい一般道。渋滞はなく、普通の信号待ちで停車中だった為、後ろの事なんて全く意識になかった。突然体に強い衝撃を受け、次の瞬間、自分の車が前の車にぶつかっているのに気づいた。何が起こったのか全くわからなかった。

私の車の横で自転車にのっていた女性が、自転車を投げ出して私の車の窓をたたく。「あなた、大丈夫?赤ちゃんも、大丈夫?」視線が後部座席に行く。2歳の娘が泣いている。そこでやっと我に返り、娘に声をかけた。たくさんの人が私の車のそばにきている。

「大丈夫?赤ちゃんは心配なさそうよ。真っ青だけど、大丈夫?動ける?」
うなずいてみたものの、何もまともに考えられない。


【事故をおこしてしまった。どうしようどうしよう。】


【娘が怖がって泣いている…どこかぶつけたかな…だっこしてあげないと…怪我はないみたいだけど…。カーシートから動かしていいのかな。他の車の人と話をしなくちゃ…。】


車外に出てはみたものの、まるで役にたたない。とりあえず、写真を数枚とってみた。


【こんな時はどうするんだっけ…どこに電話するんだっけ……みんなの連絡先きかなくちゃ…車動かしたほうがいいのかな…】


さっき声をかけてくれた女性や他の人たちが、みんなの無事を確認してくれていた。誰かが電話をしている声が聞こえて来る。「怪我人はいないけど、トドラーと母親がいる。車からは液体が漏れているみたい…」

気づくと、梯子付きの大きな消防車2台とパトカー2台、救急車に囲まれていた。全部誰かがやってくれていたのだ。自転車の女性は、ずっとそばにいてくれている。私は、「ショック状態だから、座っていた方がいい」という理由で、娘と一緒に救急車の中に連れていかれた。

救急師さんたちは、娘の様子をしっかり見てくれたけど、ずっと私の方の心配をしてくれていた。警察の人は、私と娘が外へ出なくていいように救急車の中まで来て、書類をつくってくれた。今後のことも色々教えてくれた。

救急師さんは、娘をあやしてくれる。「子どもはちっちゃいけど、変に力んだりしないから怪我しにくいのよ。だから大丈夫」と笑う。

私の車が玉突きでぶつけた相手の人は、事故現場の近所の人らしく、奥さんを呼んでくれていた。(レッカー車が来るまで、自宅にいさせてくれておいしいお茶をご馳走になったし、家まで送ってくれたるほどの優しい溢れる方)

私は、何もできなかった。動けなかった。
ものすごいいい年の大人なのに、母親なのに、何もできないなんて、情けなくて恥ずかしくて仕方ないけど、体は震えたまま動かない。

でも、誰にも、「母親なんだから、しっかりしなさい」といわれなかった。
反対に、あなたは母親だから、他の人よりショックをうけて当然なのだと、子どもと一緒に事故にあうのは大変なことなのだから、あなたの反応は普通なのだと、何度も何度も伝えてくれた。

関係車両4台のうち、3台が見るからに廃車確定だったので、それぞれ酷い被害を被ったわけだけど、小さな娘のいる場で怒りをあらわにしたり、言い争いを始めることはなかった。

全然知らない人たちに、私と娘はとても大切に扱われ、守られ、赦されていた。尊重されていた。


以前の私は、割と自分に厳しい人間だったと思う。「ちゃんとしなきゃ。しっかりしなきゃ」と毎日思いつめていたし、他人にも同様の期待をして、厳しかった。だから、イギリスに来てからはいらいらしていたんだと思う。いい加減な人が許せなくて、心の中で何度も悪態をついたことがあるのだ。

あの事故の時、もし誰かが、不甲斐ない私の態度を責めたり、非難していたら、トラウマになってすっかり母として自信をなくしていたかもしれないし、外出できなくなったり、他人に対して攻撃的な態度を取り続けることになったかもしれない。

でも、ひとから赦されて、優しくされて、自分の基準で人を責めるのは愚かしいことだと気付けた。私もひとの失敗や、ちょっと被った迷惑を笑顔でかわせるひとになりたいと思っている。他人にやさしくなって、悪いことなんてあるわけないんだし。


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狐とね
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