好きな小説家#1 橋本紡先生
拝啓、橋本紡さま。本当はそう書き始めたかったけれど、このnoteは感謝の手紙ではなく、単なる日記になってしまったのでやめた。ただ、小説からもやりとりからも学ぶこと・考えることが多く、出会えたことに感謝している小説家であることは間違いない。
私は文章を書くことが苦手な子供だった。
小学校の作文の時間が嫌いだった。原稿用紙の最初の行すら埋まらなかった。何を書けば良いのか分からなかった。国語が苦手、文章を書くことが苦手。
そんな文章を書くことへの苦手意識は変わることがなかったけれど、その意識に少しだけ変化があったのは橋本先生の存在が大きい。
先生は文章の書き方や校正についてよくツイートしていた。そのツイートがあったおかげで、読みやすい文章とは何かを考えるきっかけになった。自分がいかに文章に無頓着かも気付けた。プロの作家さんがどういった視点で文章をみているかが垣間見れた気がした。
そんなきかっけをいただいた橋本先生について今回は書こうと思う。
何気ない日常を切り取る小説
私が初めてきちんと読んだ橋本先生の小説は『半分の月がのぼる空』。これはライトノベルからの出版だった(後に橋本先生は文藝に移籍される)。
当時のライトノベルと言えば、現実離れした設定だったり、ハーレムものだったり。そういった話が多かった中、『半分の月がのぼる空』はボーイミーツガールではあるけれど、何か衝撃的なことが起こるわけでもなく、日常と地続きの小説だった。何かで読んだ話だと、当時のライトノベルでは異例の取り組みだったため、シリーズ化にならなくても良いように書いていたとのこと。
Amazonレビューをみると、1巻は別に……といった反応も多い。ただ私はあまり迷うことなく2巻を手に取った記憶がある。最終巻が出るまで、新刊の発売を楽しみにしていた。
読んでいた当時は「ここが好き」といった明確な気持ちはなかった。文藝に移籍されてからの作品を含め、改めて今思うと、何気ない日常の中での感情の機微、美味しいご飯を作り誰かといっしょに食べること、テンポの良い会話、そういった描写に魅力を感じて読んでいた。他にも、男性作家であるのに女性の内面の描写がリアルな点もすごいところだと思っている。
個人的なおすすめ作品
個人的なオススメは下記の三冊。本当は『半分の月がのぼる空』も『流れ星が消えないうちに』も入れたいのだけれど、『半分の月がのぼる空』は高校生の時に読んだ記憶のままだったので外し、『流れ星が消えないうちに』は新潮文庫の100冊に入っているので、下記の三冊をおすすめとした。(『ハチミツ』も好きなので、好きを挙げるとキリがない。)
『 ひかりをすくう』
仕事を辞め、日常の中で何かを取り戻す話。
『 九つの、物語』
生きていこうと思える作品。各章で文学作品が登場する。
『 もうすぐ』
出産に纏わる話。読むと悶々とする。
橋本先生の小説はどれも読後感が良い。現実と向き合うことには変わりないが、作者の優しさを感じて暖かい気持ちになれる。ただし、『もうすぐ』だけは出産について書かれており(現状が変わっているかは分からないけれど、当時先生が取材を重ね、現実に近いものが描かれている。)、少し読むのにパワーがいるかもしれない。
twitterと読書会
当時はtwitterという媒体が少し浸透してきたくらいの時だった。
皆がまだ個人のつぶやきとして自由に使っていた時代。SNSが非オフィシャルの風潮が強い時代。
私も周りの人に聞いて始め、橋本先生のアカウントを見つけた。
橋本先生は橙色のぐるぐるしっぽの猫のアカウント。猫好きの先生らしい。
珍しいことだと思っているけれど、先生は一般の方と普通にリプライで会話をしていた。私の子供じみた感想やとめどないリプライにも真摯に答えてくれた。
そして、『ふれられるよ今は、君のことを』が出版され、こじんまりとした読書会を各地で開くと先生が言った。
初めて読書会というものに参加した。ただの参加者なのに緊張した。繰り返し読むのが苦手な私が、繰り返し読んで臨んだ。
読書会の内容は今となってはうろ覚えだけれど、その中に自分の好きな一節を各自が読み、なぜ選んだのかを発表するというものがあったことは覚えている。
私は小説の最初の方に出てくる「犬の話」を話した。暖かい光の中、目の前に景色が広がり、自分が風になったような感覚が心地よくて、また登場する犬君が可愛くて、この部分を選んだ。
この日、周りにいた人と話し、twitterで参加者と繋がり、色々な人と話すのはこんなにも刺激的なのかと感銘を受けた。
現在、橋本先生は小説家をやめ、海外に移住している。twitterからも離れ、連絡手段をfacebookへ移行した。頻繁には更新されていないけれど、年に数回、暮らしについてやお子さんがすくすくと育っていることが伺える投稿をしている。
また、何かの形で先生の文章が読めたら良いなと思いながら、久しぶりに『九つの、物語』を読み返そうと思う。
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