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ショートショート140「怪談の不始末にかかる事後面談」
「で、改めて聞くけど、これ……何?」
「耳です」
「だよね、俺、何をお願いしたっけ?」
「芳一を連れてこい、と」
「だよねぇ…」
献上された二つの耳を見て、上様の亡霊は頭を抱えた。目の前の鎧武者の亡霊には、いまひとつ自分の言わんとすることが伝わっているような気がしない。
「どうして俺が芳一を連れてきてほしかったか、わかる?」
「琵琶を演奏してもらうため、ですかね」
姿勢を正した武者の鎧がガシャリと音を立てる
「それをわかっててさ、耳だけ持ってきてどうするのさ?」
「現地に行ってみたんですが、芳一いなかったんですよね。何回も呼んで、できる限り探したんですよ?LINEも送ったけど、既読にもならないし。それで……」
「で?」
「どうしたものかと途方に暮れていたら、目の前の中空に、耳が浮かんでるのに気づいたんです。その時、思ったんですよ。上様、芳一を連れてこいって言ってたし、目標の達成率ゼロってのも武士の恥というか、なんというか。じゃあ、とりあえずこの耳だけでも持っていこう、と」
「百歩譲ってさ、それ芳一のだって、確証あるわけ?」
「……いやぁ、エビデンスを問われるとなかなかはっきりと言い切れない部分もあるかとは思いますが、芳一の何%かを連れてきた、という解釈もできなくはないかな、と」
言い訳が熱を帯びるに連れて、ガシャリガシャリと鎧が鳴る。状況が不利になると身振り手振りが混ざってくるのは昔からの癖だ。
はぁ……
上様の亡霊は大きくため息をつく。
「とりあえずさ、お前の解釈は、それはそれでいいよ」
鎧武者の表情がパッと明るくなる。
「いや、違うから。OKってことじゃないから。あのさ、お願いの本質をもうちょっと考えてみてよ。そうだな、期待されてる内容を相手の立場に立って考えてみようよ」
「……と言いますと」
「はい、お前はね、コンサートのチケット買ってました。もうなんというか7日間連続開催。出演は、涙が出るほどの歌唱力を持ったアーティスト」
「……楽しみで楽しみで待ち切れないですね」
「だよね? だよね!? んで、当日会場に行ったら、そのアーティストの耳がステージに置いてありました。これ、どう?」
「それは……」
「んで、主催者が言うわけです。アーティストがいなくなってしまったので、アーティストの一部だけでも連れてきました」
「……いや、でも数%だけでもいるなら、それはライブと言え−」
「−るわけないだろ。保身のために、自分でも薄々おかしいと思う主張を振りかざすな」
「むむ……」
黙り込んだ鎧武者を尻目に上様は続けた。こういう時、彼は反省をしているのではない。ただただ神妙な面持ちで反省のポーズを見せながら、上様が納得する落とし所を自分で見つけるのを待っているだけなのだ。
「で、どうするつもり?」
「返してきましょうか?この耳」
「そこじゃなくて……みんな楽しみに待ってるだろう」
上様が指差す先には、夥しい数の怨霊が持つペンライトが、人魂のように墓場で煌めいている。
「あ、そういえば」
「え、何かある?」
「拙者、昨日の芳一の演奏録画してました」
「やむなしだな、今夜はそれで凌ごう」
こうしてその夜の芳一琵琶弾き語りライブは、ライブビューイングへと変更された。やはり生演奏が良かったという声がなかったわけではないが、概ね好評だったという。
了
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