都市のイメージを読む 2
高専っぽく読むと
「都市のイメージ」第1章を高専っぽく読んでいきます。そのために、まずは「ブロック線図」について復習しましょう。ブロック線図とは、下図の様にシステムの構成を図示したものでしたね。
最も単純なブロック線図
入力信号は、ある伝達関数と呼ばれるブラックボックスを通って出力されます。この入力信号、出力信号、伝達関数は具体的には何でも良くて、例えば入力を電位差、出力を豆電球の光度とすると、伝達関数には回路の抵抗なんかが含まれます。これでA君が力を加えた時のバネの運動を記述しても良いし、入力した電力がヒーターを介してどの様に水温を上げるかを記述しても良い訳です。
次にフィードバック・システムについて復習しましょう。フィードバック・システムとは、出力信号が入力信号に還元される様な系のことです。
フィードバック・システム
例えば「ワットのガバナー」は、蒸気の力で回転する機構で、回転速度が一定を超えると弁が閉じて蒸気が減少し、速度が一定に保たれます。出力信号が入力信号を減らす様に還元されるフィード・バックをネガティブ・フィードバックと呼び、入力信号を増やすように還元されるフィードバック・システムをポジティブ・フィードバックと呼びます。
ネガティブ・フィードバックを持つ様な系は安定して、ポジティブ・フィードバックを持つ様な系は発散するので不安定になります。出力信号がいつまで経っても落ち着かないか、入力が途中で途切れてしまう様な系は不安定な系であるといえます。
このブロック線図の考え方を使って都市のイメージの1章をまとめると下図のようになります。
都市のイメージ1章の図示
「都市のイメージ」では、複雑な構造を持ち、これまでに無いスピードで開発を進められる都市の中で、ボストンのイメージマップのような「みんなで共有できるイメージ」を持つにはどうすれば良いか、ということについて考えています。そのためにはイメージのしやすさ、イメージの作られやすさ、であるイメージアビリティが大切になります。
工学っぽくこの概念を読むと、要は都市のイメージを構築する系が安定している、ということであると言い換えることができます。この「都市のイメージシステム」が安定して構築されるにはどうすれば良いか、というスタンスで読んでいきましょう。
上の図について見ていきます。まず、「環境」と「人間」が相互に関係しながら、人間の中に共通する「環境のイメージ」が形成されます。この環境のイメージの中には、アイデンティティ(Identitiy)、ストラクチャー(Structure)、ミーニング(meaning)が含まれています。
ミーニング(meaning)に関しては、人それぞれ同じ都市に関して異なる意味づけを行うため、今はいったん置いておきます。アイデンティティ(Identitiy)、ストラクチャー(Structure)は都市の物理的な環境によって規定され、個々人によらず皆の中で大体同じイメージを構成する要素になります。イメージアビリティとは、アイデンティティ(Identitiy)とストラクチャー(Structure)が、それぞれ環境によってどのように規定されるか、という関数のことだと理解することができます。
上記のまとめを参考にしながら、第1章の分かりにくかった表現について考えていきます。
「危険」という表現
ここで「危険」という表現が出てきますが、これ単体だと理解しにくい表現です。
そこで原著を確認すると、「precarious」という表現が使われています。
システムが "precarious" であるということは、入力が途中で途切れてしまって、「都市のイメージを構築するシステム」が安定して回らない、と理解することができます。
precarious:不安定な、心許ない、おぼつかない
問題意識
第1章終盤にかけては、これまでの議論を踏まえて大きく2つの問題提起をしています。
都市のイメージ 1章の図示 終盤の問題提起
人間側の問題について
ここでは、上図のうち左側の青くした部分、「各々の人間によって環境のイメージが構築される時点」における問題提起をしています。日頃生活をしている都市のイメージを十分に獲得するには、僕たち生活者が都市を見る視点を養う必要があります。まずは皆さんの住んでいる街のイメージを5つの要素で書いてみると良いかもしれません。
都市の作り方の問題について
2つ目は、「都市のイメージを踏まえた介入の仕方」に関する問題提起です。
ブロック線図を念頭に置くと、ここは「環境に対して影響力のあるフィードバックの経路ができた」と理解できます。つまり、今までは環境に対して人間が一方的に「環境のイメージ」を作り出して終わり、という単純なシステムだったものが、「環境のイメージ」を通して環境を大きく改変することが可能になった訳です。
そこで、イメージアビリティが問題になります。それは「環境のイメージ」の内、環境を独立変数として記述できる部分(個々人によって大きく変わるミーニングは別)だからです。当然環境を改変する際には、それがイメージアビリティにどう影響するかをよく考えなくてはならないのに、本書では現状がそうなっていない、という問題意識が提起されています。
一章は、「建築についての定義」としてこの謎めいた引用で終ります。初めて読んだ時はよく意味がわからなかった表現ですが、今は下記のように理解しています。
全体的環境とは、僕がブロック線図で表現したシステム全体のこと。建築とは、無反省に、機能的に、大規模な開発を行うだけでは不十分であり、全体としてのシステムを踏まえた上での環境へのフィードバックでなくてはならない、という主張では無いでしょうか。
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