「パパ」の戦力化計画」〜育児と仕事の板挟みにならないために〜
なぜ育児において「パパ」が必要か?
そして、男性が育休を取得して何をしなければならないか?
はじめに
COVID-19により、妊娠、出産、育児がおかれる環境が大きく変わりました。産前に学ぶことができる「両親学級」、出産時の立ち会い、面会の中止。さらに、緊急事態宣言による移動の制限により、実家からの支援が困難。
ふたりは同時に親になり、夫婦二人で育児を立ち上げなければなりません。
特に、これからパパになる人に知って欲しいと思います。
本書で伝えたいこと
赤ちゃんが誕生した瞬間、涙が出るほど、感動します。
そして、子どもの成長とともに、親も新たな発見があり、親も成長できる実感があります。
育児は人生を二度経験している感じで、非常に面白い世界観を体験することができます。
赤ちゃんとの生活が始まると、これまでの生活とは全く違う状況になります。
分からないことだらけで、何をするにしても全てが「ぶっつけ本番」、
この子を死なせてはならないという「緊張感」。
目の前のことに対応することで精一杯という日々が続きます。
出口のないトンネルかのような感覚に襲われます。
これらいずれも事実です。
パパになる人たちに知ってほしいこと
今、パパは家庭の中で、育児をするための重要な戦力です。
パパが育児に参画することは、ヒトの長い歴史において当然のことであり、そうでない時代は都市型生活が普及した直近100年間だけのことだということを考えてほしいと思います。
家父長制の時代、家父長である男性が育児をしていることは想像できないかもしれませんが、子どもが生まれた時、子どもの乳を確保する責任は家父長にありました。もし乳が確保できない時は必死になって、周りの家に頼み込んで乳を確保したと言われています。
核家族での育児では男性は重要な戦力です。
ぜひちょっと意識して出産、育児について考え、行動してもらえればと思います。
出産、育児が「ぶっつけ本番」、「緊張感」の中で行われ、多くの人たちが辛い経験をする理由は、現在の生活環境において、幼少期から学校教育を含め、社会人になってからも、出産、育児について学ぶ機会がないからです。
また、出産、育児について学ぶきっかけもありません。
マーケティング用語である「AIDMA」で整理して考えると、A(Attention)、つまり事前に学ぶ、調べる、準備するきっかけが、出産、育児にはないということになります。
Attention(存在を知る):出産、育児
Interest(興味を持つ):出産、育児とは?
Desire(欲求):もっとしっかり学習したい
Memory(記憶する):実践で活用できるように準備する
Action(行動する):実践で試し、サポートしてくれる人を探しておく
今まで、出産、育児について学ぶきっかけがないのであれば、これからはきっかけを作ればよいと考えています。また、出産、育児について知るきっかけができれば、「AIDMA」の通り、興味を持って、自分たちで調べ始めることで、事前に準備を進めることができ、それをサポートする仕組みを知ることで、ぶっつけ本番、緊張感の中での育児の辛さは軽減されます。
また、男性はきっかけをつかみ、興味を持てば、自分で調べます。
そして、自分のやるべきこと、タスクになれば、自ら行動を起こします。
だからきっかけが産後、育児がスタートしてからではなく、産前の時間がある時に、そのきっかけをつかんでもらいたいと考えています。
男性育休を取得しようかと考えている人たちと接点を持つ企業や組織が、パパが育児において戦力になるように協力してくれたら、仕事も育児もやりやすい社会が実現します。
本書が出産、育児について男性も、女性も、企業や社会も知るきっかけとなり、出産、育児について興味を持って、自分たちで準備を進めるきっかけになればと思っています。
1) 準備しておけば、乗り切れる
基本的には予備知識なしで育児をすることには限界があります。
メディアや先輩パパ、ママの育児が大変という話は、知識不足、経験不足、体制不足が原因です。そして、新たに「パパの戦力化」という課題が追加され、より複雑化しています。
「パパの戦力化」は家庭だけでなく、企業や社会の協力が必要で、これから巻き込み方を考えていく必要があります。
世間では、男性育休の義務化が言われていますが、パパが育休をとって何をするのか具体的に理解できているのかが疑問です。まず育休はただの休暇ではないことを理解する必要があります。育児を立ち上げるための期間であり、パパとして、夫として、戦力になる必要があるのです。
その戦力になるために何が必要か、そして、何を準備しなければならないか、そして困ったときは誰に相談すれば良いかを知ることが大事です。
2) サポートしてくれる人はたくさんいる
「子育ては自分でしなければ、親失格だ」は過去のこと。
自分一人でやる必要はありません。周りには助けてくれる人、サービスがたくさんあります。必要に応じて外部サービスを利用することで、ストレスをためないことも大事なことです。外部のサービスをうまく活用して、育児と仕事の両立をしている人が増えているので、外部サービスをうまく活用することを考えてみて下さい。
3)論理的に考えるきっかけに
出産、育児は経験と勘に依存しており、それぞれに思想信条、イデオロギーの世界になりがちです。出産、育児に関するテーマは意見の対立が起きやすいため、気軽に情報を交換することが難しい状況が時々発生します。
また、出産、育児について提供される情報のほとんどが女性に向けた内容となっているので、夫婦二人で育児をする時代、男性が欲しい情報が皆無ということが実態です。
このような課題をもつ人たちを対象に、社会科学、自然科学の視点から出産、育児について本書を通じて情報提供し、いろいろ自分で調べるきっかけにしてもらえたらと考えています。
4)オンラインが活用できる
出産や育児について、医療従事者が直接オンラインイベントで情報を発信する機会が増えました。COVID-19以前だと、専門家向けにリアルな会場で情報発信がされていましたが、COVID-19禍ではオンラインで妊産婦とパートナー向けに直接情報を提供する機会が増えました。ネットで怪しい情報に触れるよりもこのような医療従事者が開催するオンラインイベントに参加し、直接質問する方がスッキリすると思います。
また、子育て中のママやパパを対象とする悩みを、音声SNS(clubhouse)では毎日時間を問わずroomが開設され、助産師や医師などに気軽に質問したり、相談したりすることも可能です。
5)困ったときはSOSを出す
出産、育児は一人でやる必要はありません。
困ったときは、パートナーや実母、家族に相談しましょう!
また妊娠期から信頼できる専門家との関係を準備しておきましょう!
周りに自分のこと、自分たちのことを理解してくれている人たちがいると、実際に困ったことが発生した時や悩んだ時に的確なアドバイスを受けることができ、落ち着いて対応することができるので。
どのように専門家と関係を築くことができるかについては、本書の中で紹介します。
出産、育児の大変さをゼロにすることはできませんが、事前に知識を身につけ、信頼できる協力者を見つけ、体制を作って準備しておくことで、その大変さを軽減することはできます。
ぜひ参考にして頂ければと思います。
本書を制作するきっかけ
私自身が「ぶっつけ本番」、「緊張感」での育児、そして共働き、核家族での育児の大変さを経験しました。自分が感じている大変さは周りからすると、ただ単なる愚痴や家庭の問題のように受け取られ、相手に状況を理解してもらい、相談できる雰囲気にはなりませんでした。だから誰にも相談できず、自分の中に溜め込み、耐えるだけという状況に陥りました。しかし、このまま当事者として発信せず、課題を解決するために行動しければ、次の世代もこの大変さが繰り返すという危機感から、ライフワークとして課題解決に向けて活動しようと決意し、活動を開始しました。
活動を通じて感じたことは、産前から準備をしておくことの重要性です。
多くの場合、男性は赤ちゃんが生まれてから現実に直面し、何も準備をしていないことに愕然とします。できることが限られているのに、やるべきことが山のようにあるというに状況に陥ります。
また、女性は妊娠初期から体調の変化があるので、徐々に準備を進めていくことができますが、出産予定日が近づいてくると、いろいろ考えることが増え、誰に相談して良いかわからない不安な状況になります。
このような状況を改善するためには、どのような解決方法があるかと考えた時に、助産師の存在が鍵になるのではないかと思い、COVID-19以前から助産師にコンタクトし、情報交換並びにディスカッションを重ねていました。
1)COVID-19で妊産婦支援へ動き、感じたこと
2020年3月頃、日本でもCOVID-19の感染拡大が報告され始め、妊娠、出産においても影響が出始めていました。東京都助産師会に所属する開業助産師は、いろんな可能性を想定し、準備をはじめました。医療機関での分娩ができなくなった時に備えて、自宅出産を行うための準備をしたり、そのために必要な防護服やマスクなどを調達し、現場は騒がしくなっていました。また、全国的に両親学級が中止になり、実家の実母や家族の支援を受けることができない、つまりは里帰り出産ができない妊産婦が増え、ますます家庭での育児の立ち上げが「ぶっつけ本番」になることが懸念されました。
このような状況に対して、東京都の開業助産師の有志と「東京 里帰らない人応援プロジェクト」を立ち上げ、助産師がオンラインでの面談、リアルでの訪問を組み合わせて、産前から産後(2ヶ月くらいまで)の妊産婦をケアするサービスを有償で提供を開始しました。
このサービスを利用した妊産婦は、初産婦より経産婦の方が多く、第1子の時に大変な思いをしたので、第2子の時はサポートして欲しいということでサービスを利用されました。また海外駐在中に妊娠し、出産は日本に帰国してから予定しており、現地に日本人向けの情報がないため、オンラインでサポートして欲しいと相談をもらうこともありました。
新たな気づきは、助産師がオンラインで面談するときは、妊産婦だけでなく、パートナーである男性も同席するケースが多く、夫婦二人で出産、育児を行うという思いが伝わってきました。
2)COVID-19によって働き方が変わった
COVID-19の感染拡大によって在宅ワークが広がり、新しいワークスタイルとして定着しました。これまで「リモートワーク」ということで、必ずしもオフィスで仕事をしなくても良いという環境を準備していこうという動きがありましたが、なかなか普及しませんでした。COVID-19によって一気にリモートワークが普及しましたが、仕事する場所が、自宅に限定されているのが「在宅ワーク」で、子どもがいる家庭ではいろいろ課題が顕在化しています。
出産、育児について考えるとき、仕事とのかかわりも重要で、共働き世帯が増えていることもあり、産前からパートナーとキャリアプランについて考えておくことは大事なことです。ワークスタイルの変化についてもどんな課題があり、どのような対策ができるかなどを、本書で紹介できればと思います。
(参考文献)
COVID-19により在宅ワークが増え、家庭での仕事と育児の両立に悩むママ、パパが増加
未就学児と在宅ワークで精神疾患の疑いありはおよそ6割という結果が報告されてます。
東京大学大学院教育学研究科附属発達保育実践政策学センター2020
「新型コロナウイルス感染症流行に伴う乳幼児の成育環境の変化に関する緊急調査」速報版(結果の要点)vol.1」
http://www.cedep.p.u-tokyo.ac.jp/projects_ongoing/covid-19study/
「母と子の新型コロナ」渡邊香、林謙治著
「助産師」の役割
COVID-19による緊急事態宣下で、助産師が妊産婦を支援しようと活動を始めましたが、それを利用する妊産婦が助産師の存在を知らないため、なかなか支援が届かないというジレンマを経験しました。
「助産師」と言う職業が初めて出産をする人たち(妊婦)に認識されていないため、初産婦へのリーチに苦戦しました。一方、一度出産を経験した人たち(経産婦)は、出産、育児のことはなんでも相談でき、出産、育児について信頼できる人ということを理解しているので、支援内容を理解してもらうことができ、あとは妊産婦と助産師との相性というところがポイントでした。
ここで本書の中でも度々出てきる「助産師」について紹介します。
1)「助産師」について
助産師は、看護師の資格を取得したあと、助産師になるための教育機関で数年学び、助産師の国家試験に合格する必要がある職業です。現在、日本では36,000人がアクティブに助産師として活動しています。また、助産師は出産、分娩に関わる専門職のイメージが強いですが、産前、産後だけでなく、女性の生涯、性に関することをサポートする仕事で、いろんな世代の女性をサポートします。
また助産師は、医療従事者の中で医師と同様に開業権を持っていることが特徴です。自分で助産所を開業することが可能で、日本には開業届を提出して活動している助産所は2800ヶ所あります。助産所でお産ができる施設はごく一部で、多くの開業助産所は地域の産後の女性の身体の様々なトラブルに対応するケアを提供しています。
2)「助産師」は怖いおばあさんではありません!
「助産師」=「産婆」というイメージがあり、何やら年配の怖いおばあさんというイメージがあります。割烹着着て、一方的に「ああだ、こうだ」と言ってきて、「なんか私悪いことした?」と思ってしまうように追い詰めてきそうな感じがしますが、実際はそんなことはありません。
これは私見ですが、助産師は優しく、いつも元気な人が多い気がします。
助産師の年齢別分布でも若い世代が多く、一般的な就業者の世代別分布と変わりません。
決して、怖いおばさんではありません。
また、我が子の出産に立ち会った経験から分娩のとき、ずっと奥さんに寄り添い、最後赤ちゃんが出てくる時、命と向き合っているって感じで、なんだか凛々しく、強さを感じて圧倒された印象があります。
(図 年齢階層別就労者数 厚生労働省資料 2018年)
3)助産師はITリテラシーをCOVID-19で急速に身につけた
確かにBefore COVID-19では助産師たちはLINEやメールは妊産婦とのコミュニケーションで利用しているが、それを積極的に利用して行こうという雰囲気はありませんでした。それよりもリアルで対面し、妊産婦の表情や身体に触れてこそわかることがあるという感じでした。
しかし、COVID0-19により状況が一変しました。
リアルで対面ということは、助産師にも感染リスクがあり、妊産婦と赤ちゃんにも感染するリスクがあるため、リアル対面に変わる代替手段の確保が求められ、Zoomによるオンラインミーティングの可能性を探り始めました。若い助産師たちを中心に、Zoomを活用したオンラインイベント(両親学級、テーマ別講座など)が開催され、個別面談も必要に応じて対応するように大きく変わりました。
じょさんしonline(代表 杉浦加奈子さん)はそのパイオニアで2020年4月から3ヶ月くらいの間に、リアルでの両親学級が中止になったことを受け、オンライン両親学級を立ち上げ、50回1000組に両親学級を無償で提供しました。COVID-19禍でぶっつけ本番による育児の立ち上げの危機を回避することに貢献しました。
(参考Webサイト)
じょさんしonline https://josanshi-cafe.com/
これから出産、育児をスタートする人たちへ
出産、育児の課題は家庭だけの問題ではなく、社会の課題です。
夫婦二人とも仕事をしながら育児をする時代。
パパは重要な戦力です。
今のワークスタイルやライフスタイルに合うように、出産、育児をアップデートする必要があります。そのためには、当事者が課題を発信し、社会を巻き込みながら、変えて行く必要があります。
本書がそんなきっかけになればと思っているので、ぜひいろんな感想、ご意見を頂ければと思います。
Contents
1. 育児は本能ではできない、だから準備が必要!
2. 育児は一人でできない、だからパパが必要!
3. 育児は修行ではない、だから協力が必要!
4. (提言)育児をアップデートするために
参考情報
1. 胎児について
2. 胎児と赤ちゃんへの影響について
3. 母乳のメカニズムについて
4. 在宅ワークでの仕事と育児の実態(アンケート調査)
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