見出し画像

「デザインのひきだし54 表紙加工」

コスモテックの前田です。

コスモテックの箔押しブログ 「 ようこそ!行列のできる 『 箔押し印刷工房 』 へ 」 開設20周年の節目である 2025年最初の大仕事は 『 デザインのひきだし54 』 の表紙加工でした。 コスモテックは今回で 『 デザインのひきだし 』 の表紙の加工をお手伝いさせていただくのは、なんと12回目になります。

そして、今回の気になる表紙の加工は 『 攻め箔( せめはく ) 』 です。
昨年( 2024年 )後半、この note の記事でコスモテックの推し箔押し表現として 『 攻め箔 』 をご紹介しました( 下記 note 記事参照 )

記事では、 コスモテックが 『 攻め箔 』 挑戦に至るまでの経緯や最新の加工実例として S_D さまのお名刺をピックアップしました。

今回の 『 デザインのひきだし54 』 の表紙では、編集長の津田淳子さまより S_D さまがデザイン、加工をコスモテックという布陣で制作に臨ませていただきました。それでは、気になる加工の裏側をどどん!とご紹介します。


◉ 3版構成から成る 押し表現( 文:青木 )

少し前に X ( 旧Twitter )で S_D さんのお名刺が大きな反響を呼んでいました( 下のポスト参照 )その S_D さんがなんと 『 デザインのひきだし54 』 の表紙デザインを行うことに!

表紙デザインの制作過程では 『 デザインのひきだし 』 編集長の津田さん、デザインを担当される S_D さんと私 青木で幾度もお打ち合わせ ならびにやり取りを行いました。 津田さんから たくさんのアドバイスをいただき、S_D さんが 『 攻め箔 』 の魅力をぐっと効果的に伝える工夫をデザインにどん!と落とし込んでくださいました。

きっと S_D さんのデザインに触れたことのある方、 S_D さんにデザインをご依頼した経験のある方であれば、今回の表紙を見た瞬間に 「 この図案もしかしたら… S_D さん!? 」 と ぴん!と来た方も多くいらっしゃったのではないかと思います。

大きな反響があった S_D さんのお名刺の加工内容はそのままに、加工面積をぐーんと拡大し、大きな表紙の前面に。 『 デザインのひきだし54 』 の表紙では 「 攻め箔 × 攻め箔 × エンボス加工 」 の合計3工程を実現させる加工内容となっております。

下の画像は S_D さんからあがってきた最終のデザインイメージです。

「 攻め箔 × 攻め箔 × エンボス加工 」 の合計3工程から成る表紙
S_D さんのデザインのテイストが感じられる


今回はまさに SNS上 バズっていた S_D さんのお名刺( 『 攻め箔 』 のサンプルとして販売するも瞬殺完売! )を逃してしまった方、気になっていた方にも間近で実物として 『 攻め箔 』 をご覧いただける絶好の機会なのです。

◉ 2024年の最後の仕事は校正立ち会い!

右 『 デザインのひきだし 』 編集長 津田さま と 左 S_D さま
箔押し立ち会い時のお二人からのアドバイスをもとに 調整に調整を繰り返す


前田(コスモテック)です。
2024年の年の瀬、コスモテックにとって最後の仕事が 2025年2月発売の 『 デザインのひきだし54 』 表紙加工の校正立ち会い、そして取材でした。

当日は 『 デザインのひきだし 』 編集長の津田さま、表紙デザインの S_D さまが駆けつけて、加工に立ち会ってくださいました。また 立ち会いでは、箔押し2色とエンボス加工の3工程を目の前でご確認いただきました。

コスモテックの加工現場に搬入された 『 デザインのひきだし54 』 表紙の山
表紙は バルキーボールF( そのまま ) にスミ1色印刷がされた状態


スミ1色印刷された状態のフカっとやわらかい質感の紙 バルキーボールF( そのまま )に6号金とストロベリーの2色の箔を箔押し加工し、その後、エンボス加工でがっつり 表紙を盛り上げました。

3工程から成る表紙 「 ① 6号金 → ② ストロベリー → ③ エンボス加工 」

表紙のデザインには製本特集ということもあり
S_D さまによって製本に関わる道具などのモチーフが散りばめられている

◉ デザイナーと加工現場の二人三脚から成る

加工でポイントとなるのが、やはり今回のメイン 『 攻め箔 』 の表現です。『 攻め箔 』 は、箔押しされているものの中に見える細かなテクスチャー( 模様 )の入っている部分です( 下の写真参照 )

加工で使用する金属版は、上の写真の細かなテクスチャー部分が白抜きの状態になっております。テクスチャー部分に加工の圧力がしっかり かかるように箔を押すことで、白抜き部分を抜かず、あえて箔で埋めて テクスチャー部分が盛り上がり、模様を浮き立たせて見せる表現方法が 『 攻め箔 』 です。

加工で使用する版を拡大して見てみると細かい無数のテクスチャーが!
金属版上の凹んでいる溝部分がデータ上 白抜き表現になっている部分 

一般的には NG 要素である 箔のバリ・絡み・埋まりをあえてデザインとして活かすことで 『 攻め箔 』 を表現します。

ただし、デザイン・金属版上で白抜きされたテクスチャー部分を加工の圧力によって箔でしっかり埋めるということは、ただ箔押し機の圧力をがんがん強くかければうまく 『 攻め箔 』 を表現できるというわけではありません。

白抜き部分の線幅や 『 攻め箔 』 のテクスチャーの形、『 攻め箔 』 の加工面積によっては うまく白抜き部分が箔で埋まらない場合もあり、デザインデータ作りはちょっとしたコツや工夫が必要になります。

デザイナーさまの試行錯誤する意欲や経験、加工所 / 加工現場のテクニックとやる気、それから校正( テスト )押しと余裕のある納期設定が必要不可欠です! 『 攻め箔 』 は、校正なしの一発本番で必ずうまくいく加工ではないことにご注意いただきたいと思います。

金箔( 6号金 )の 『 攻め箔 』 で使用した版がこちら
( ごく普通の亜鉛版を使用 )
ストロベリー箔の 『 攻め箔 』 で使用した版がこちら
( こちらもごく一般的な亜鉛版を使用 )

◉ 青木(コスモテック)からコメント

通常の箔押し表現で繊細なベタ白抜きを箔押し加工する時、白抜き部分が箔で埋まってしまう現象が起こりやすい…… この一般的には NG とされる要素( 箔の埋まり、箔の絡み )をデザインに取り込み、「 あえて箔で白抜き部分を埋めてしまう 」 ことで 『 攻め箔 』 は成立します。

また、箔押し加工で使用している金属版はごく普通の箔押し版です。

デザインデータの作り方、箔押し加工の押しテクニック次第で 『 攻め 』 の箔表現が可能となりますが、 『 攻め箔 』 を成功させるにはデザイナー、加工所・加工現場の表現への共通認識と相互理解、たくさんの会話が必要不可欠であると考えております。

また、使用する紙、使用する箔( 箔の接着剤も )によっても成功する・しないの明暗がハッキリと分かれるので、初めて挑戦する際は信頼できる加工会社とよくご相談された上で、まずはご希望の 『 攻め箔 』 テクスチャーだけを集合させた 小さな箔押し版( 100×100mm程度 )を作って希望する紙と箔を使った加工実験をしてみることをお薦めします。小さな版でテクスチャーが表現可能か確かめた上で、さらに本番データを使った校正箔押しを実施することも重要です( 小さな面積では見られなかったトラブルが現れる可能性があるため )

このようにすることでご依頼する側と受ける側で加工の認識をしっかり共有しながら進めると成功率が上がるかと思います。データ作り、押しのテクニックも重要な要素ではありますが、一番大事なものはご依頼主と加工現場との強固な信頼関係です。もし一発でうまくいかなくてもお互いに意見を出し合って試行錯誤しながら進めていけば より良い加工を実現できます。

◉ まるで突貫工事! 版の移植!

立ち会いでは 『 攻め箔 』 部分の箔の定着具合を津田さま、S_D さまにご確認いただきましたが、そこで一箇所気になる部分が出てきました。

それは、箔2色の図案の位置合わせで6号金とストロベリーの箔が隣接する、ある部分の箔押し位置が若干離れすぎていたのです。

津田さま・S_Dさま・私 前田で作戦会議
この後 箔押し版の一部分をカットすることに


箔押し機の熱板の高温の熱による金属版の伸縮によって 2色の箔押し位置同士が思うように ぴったり合わなくなってしまっていたのです。

「 どうにかならないものか…… 」

と考えた結果、位置が合わない部分の金属版をその場でカット!
二つに分離した金属版を熱板にそれぞれセットする際、位置をほんの少し近づけて設置することで、箔押し加工の位置合わせを行いました。

熱膨張による箔押し位置のちょっとしたズレを金属版をカットして位置を微調整して解決することは本当に手間のかかる作業ではありますが、そのほんのひと手間をかけることで表紙は一段と良い形となりました。

津田さまや S_D さまにも、「 前より格段に良くなった!」 というお褒めの言葉をいただき 私はホッとひと安心しました。

そして、加工立ち会いはさらに続くのでした。

◉ 3工程目はエンボス加工!

2色の 『 攻め箔 』 の箔押しの位置合わせの後はエンボス加工です。
箔押しとの加工の位置合わせも重要ですが、エンボスのしっかりとした盛り上がり具合いは仕上がり全体の見栄えも変わってくる大事な部分です。

あまり盛り上げすぎると加工の圧力によって紙が破れてしまうため、津田さま、S_D さまに盛り上がり具合をご確認していただきながら、がっつり盛り上げながらも紙の破れないギリギリの圧力を目指して加工しました。

◉ 裏技的 『 攻め箔 』 で大旋風を!

S_D さまによる効果的な 『 攻め箔 』 を使用した表紙のデザインと、箔押しの加工現場による 『 攻め箔 』 表現のテクニック。 そして、さらに 『 攻め箔 』 をエンボス加工で ぐぐっと盛り上げることで、より見応えのある豪華な印象に変貌し 『 デザインのひきだし54 』 の表紙は完成しました。

2色の 『 攻め箔 』 とエンボスが加わり表紙が完成
きっとわかる人にはわかる S_D さまのデザインテイスト


ぜひ、実物をお手に取って コスモテック推し箔押し加工の 『 攻め箔 』 を体感していただけましたらうれしいです。

津田さま、今回もお声がけくださいましてありがとうございました!
そして S_D さま、素敵な 『 攻め箔 』 表紙をデザインしていただき、ありがとうございました!

2025年 コスモテックの箔押しブログは20周年。 コスモテックの挑戦はまだまだ続きます!

クレジット
表紙デザイン : S_D ( @s_design33
加工     : コスモテック
用紙     : バルキーボールF( そのまま ) - 大和板紙 
箔      : 2色箔( Gold No.6 + ストロベリー ) - 村田金箔

◉ 『 攻め箔 』 とコスモテックの変遷( 文:青木 )

今から十数年前、紙屋さんとデザイナー、コスモテック間で生まれた箔の埋め盛り、箔の絡ませ押しによる加工表現。それがシール界隈でも 『 攻め箔 』 というイケてるネーミングで愛されていることを知りました。 今後はコスモテックでも 『 攻め箔 』 の呼称で推していきたいと思っております。

さらに 『 攻め箔 』 が今回 『 デザインのひきだし54 』 の表紙加工として採用されました。何か不思議なご縁のような、運命じみたものを感じます。 コスモテックでは昔から たびたび加工していた表現ではありながらも、今だからこそスポットライトが当たることで燦然と輝くことがあるように。

時は2025年。コスモテックの箔押しブログは20周年( 2005-2025 )です。コスモテックは箔押しブログ20周年記念として、『 攻め箔 』 を推し箔としておススメさせていただきます!

デザイナー、シール界隈の皆さん、みんなと共に育む 『 攻め箔 』 は まだ発展途上であり、まだ見ぬ箔表現の可能性が潜んでいる余地がある、そんな予感がします。

また、現在 アートディレクター 安藤次朗さんの監修・デザインのもと コスモテック推奨の 100種類の 『 攻め箔 』 のテクスチャー・パターングラフィックを制作中です。 『 攻め箔 』 に挑戦したいけどテクスチャー作りが難しそう… とお悩みの方にも簡単にご利用いただけるデザインデータを販売、展開予定なので ぜひご期待ください!( 発売時期が決まりましたら 改めてお知らせいたします! )

『 攻め箔 』 と コスモテックの変遷

2012年 平和紙業株式会社 西谷浩太郎さん と コトホギデザイン 池上直樹さん と加工実験を開始

2012年 箔の埋め盛り・絡ませ押しと名付ける

2012年〜2014年 グラフィックデザイナー 岡本健さん をはじめとする一部のメンバーと共に制作物内で使用

( 十数年の月日が流れる )

2024年 シール制作者の AGAWA さん から 『 攻め箔 』 ( 名付け親 不明 ) の存在・名前を教えていただく( 『 攻め箔 』 = 箔の埋め盛り・絡ませ押し )

2025年 今回の 『 デザインのひきだし54 』 表紙加工で採用( 表紙デザイン S_D さん

2025年 アートディレクター 安藤次朗さん と 『 攻め箔 』 テクスチャー・パターングラフィックの販売を計画・進行中( 2024年〜 )

『 攻め箔 』 Special Thanks
・ 平和紙業株式会社 西谷浩太郎
・ アートディレクター / デザイナー 池上直樹( コトホギデザイン
・ グラフィックデザイナー 岡本健
・ シール制作者 AGAWA
・ アートディレクター / デザイナー 安藤次朗

【 箔押し加工 】
有限会社コスモテック 現場リーダー 前田瑠璃
〒174-0041 東京都板橋区舟渡2-3-9
TEL:03-5916-8360 / FAX:03-5916-8362

いいなと思ったら応援しよう!