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苔色

私は学生時代から10年ほど京都に住んだ。
京都がとても好きなのだ。
その理由の一つについて書いておく。

京都は苔の町でもある。

西芳寺(苔寺)は約120種の苔が境内を覆う寺
として有名だけどそれだけではない。京都の翠は
寺社の庭園、御所、鴨川沿いの草木だけではなく、
庭や小径の岩や石に覆う苔によるところが大きい。
五月雨に濡れた苔は最上の美しさを見せる。
深い森林の中でなくても京の町中でも
魅了される場所は多い。
私はこの苔のある景色がこの上なく好きだ。

苔といえば、世界に2万種もあるらしい。
そのうち1,700種類が自生しているという。
でも、大きく分けると3種類に分類されるそうだ。
これほど多様な種だとは思わなかったけれど、
その生命力はとてつもないくらい深い。
苔の緑色にはそれが表れているようにも思える。

江戸時代から使われる色名に「苔色」がある。
文字通り地表や岩を覆う苔の色を差す。
「モスグリーン」も苔の色をいうが範囲は
「苔色」よりやや広い。
日本人にはわびさびに通じる「苔色」の方が
ぴったりくる。
この苔色が変化することによって色名も変わる。
これもおもしろいではないか。

「苔色」→(明るくなる)→「柳葉色」
「苔色」→(やや黄味を帯びる)→「抹茶色」
「苔色」→(緑味がかる)→「松葉色」

色の和名は情緒に、機微に、暮らしになじみが深い。
秋に色づいた紅葉が苔の絨毯にひらひらと休む姿を
想像するのはこの上なく贅沢なひと時だ。

※ 写真は京都「高桐院」Photo by 金澤皐月


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