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「巨匠の貫禄。P. D.ジェイムズの書く “復讐”」~英語多読のための読書ガイド [ミステリー]~

英語学習誌『多聴多読マガジン』連載記事「多読のための読書ガイド」からのスピンアウト! 多読のプロたちによるおすすめの良書(英語の本)を紹介するコーナーです。


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ミステリー編 ~2024年10月号~

執筆:河出 真美 (梅田 蔦屋書店 洋書コンシェルジュ)


巨匠の貫禄。P. D.ジェイムズの書く“復讐”


P. D.ジェイムズ。
若き女探偵コーデリア・グレイや詩人にして刑事のアダム・ダルグリッシュを生み出した偉大な作家。

人呼んで“the Queen of Crime”――今回はそんな彼女の作品から、「復讐」をテーマにした短編を2つご紹介します。

まずは The Part-Time Job
子ども時代を地獄に変えた男を殺してやると12歳の時に誓った男による、完璧な復讐計画。

タイトルの意味が効いてくるラストが見事な一作です。

次は The Victim
不似合いなほど若く美しい妻を裕福でハンサムな男に奪われた主人公が、周到な用意を重ねて完全犯罪を企てます。

この2編、どちらも主人公が冴えないタイプの男性で、相手をじわじわ苦しめてやるという強い決意を持ち、自分に疑いがかからないように細心の注意を払いつつ時間をかけて計画を実行に移す、というところまで一緒なのですが、全体の雰囲気も読後感もまるで違っているのがさすがP. D.ジェイムズ、というところ。

両方読むと、はたして復讐が成功するとはどういうことなのか、と考えてしまいます。短いながら巨匠の貫禄漂う名編を2つ、どうぞお楽しみください。


(1)『The Part-Time Job』

YL 8.0
著者 P. D. James
出版社 Vintage
総語数 3,360 語

この主人公がすごいのは、復讐への情熱をこんなにも長い間持ち続けたことだと思うのです。

なにせ「殺す」という誓いを立てたのが1932年、実行に向けて動き出したのが1953年、実に20年以上も復讐に取りつかれていたわけです。

着々と準備を進めていく楽しそうな様子を見ていると「復讐からは何も生まれない」なんて言えなくなってしまいます。


(2)『The Victim』

YL 8.0
著者 P. D. James
出版社 Faber & Faber
総語数 6,120 語

The Part-Time Jobの主人公は楽しそうに復讐を企てていましたが、本作の主人公は人生のほろ苦さを漂わせています。

失った妻への思いはページからあふれ出すよう。

幸せを奪った男への復讐を入念に練るも、実行後、彼を待ち受けていたのは……。

復讐の後の苦さを描いた作品です。

やらずにいられない、でもやったとしても幸せになれるとは限らない、それが復讐。


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