マシュマロで「自制心」は測れない!?
こんにちは!
こしあんです。
あなたはマシュマロ・テストをご存じでしょうか?
”名前だけなら聞いたことがある”という人も多いかもしれません。
このマシュマロ・テストですが簡単に言えば、「ご褒美のマシュマロを我慢することで自制心を測り、それが高ければ大人になってから成功する確率が高い」といったものです。
しかし、本当にこれだけで人の「自制心」が測れるのか?
実はこのマシュマロ・テストでは、テストを行なったときの状況というものがあまり考慮されていないことがあります。
「どんな状況でも同じ人間は同じ行動を取るのか?」と聞かれるとそうではないような気もします。
今回は、私たちの「行動」と「その時の状況」は切っても切り離せないというお話です。
【マシュマロ・テスト】
冒頭でも書きましたが、この実験は大体3~5歳くらいの子どもに対し、大人がマシュマロを与え、「すぐに食べてもいいが15分間待てば二つめのマシュマロが貰える」というものです。
大人が部屋を出ていったあと、子どもがマシュマロを食べるのを我慢できる時間を唯一の基準として、自制心のレベルを測ります。
15分間我慢することができれば「自制心」のレベルは高いとされています。
この実験を考案したコロンビア大学心理学者ウォルター・ミシェルは、その後の追跡調査で、最初の実験で自制心が最高レベルだった子どもは平均すると大人になってからも社会への適応能力に優れ、学業でも成功を収めていたと報告しました。
その結果、子育ての分野で「自制心」に対する熱狂が沸き起こったといわれています。
終いにはマシュマロを我慢できない子どもは、「人生で失敗するリスクが多きい」なんてことも言われていました。
先に結論を言ってしまえば、ニューヨーク大学とカリフォルニア大学の研究チームが再現しようとしましたが、これを再現することはできませんでした。
ここで発見されたのは、両親または保護者の社会経済的背景や教員の違いを考慮に入れれば、4歳時点で衝動的な子と意志を貫いた子の間に達成能力の差はあっても、15歳の時点でそれは概ねなくなっているというものでした。
ここでふと疑問に思うことがあります。
それは、そもそも私たちの持っている「自制心」は生まれ持った特性なのか?
そして、生まれてから一生自制心が育たないなんてことがあるのか?ということです。
実際、ミシェルと一緒に追跡調査を行なったワシントン大学の正田祐一教授は「誰もが性格は生まれ持ったものだと決めつけて、硬直な人格教育を進めるためにこの研究を利用するなんて、本当に皮肉な話だ」と語っています。
私たちは「自制心」だけを見て、その子の”その後”を決めつけていますが、実はこの自制心とその時の状況というものは切り離して考えることはできません。
それを確かめるため、ロチェスター大学の脳科学・認知科学を研究しているセレスト・キッドは、このマシュマロ・テストに捻りを加え、独自のバージョンを考案しました。
この実験では子供たちをまず二つのグループに分けます。
一つは「信頼できる状況」に置かれたグループ。
もう一つは「信頼できない状況」に置かれたグループです。
まず、マシュマロ・テストが始まる前に、「信頼できない状況」の子供たちは約束を守らない大人と対面しました。
たとえば、アートプロジェクトなどで集められた子どもたちに「少し待っていれば新しい画材を持ってきて、使い古されたボロボロのクレヨンと取り替えてあげる」と大人から約束されます。
しかし、数分後その人物は手ぶらで帰ってきます。
一方、信頼できる状況に置かれた子供たちは、約束通り新しいクレヨンを提供されました。
実験の結果、「信頼できる状況」の子どもたちは、かつてマシュマロ・テストに参加した子どもたちとよく似た行動を取っています。
マシュマロの誘惑に負けた子供は数人で、およそ3分の2は15分間我慢することができました。
一方で信頼できない状況に置かれた子供たちは違いました。
なんと半数は大人がいなくなった途端にマシュマロを口にしたそうです。
そして、15分間我慢できたのはたった一人だけでした。
キッドはホームレス施設でボランティアとして働いているとき、このマシュマロ・テストのことを聞きこんなことを言っています。
あなたはこのような状況でも「マシュマロを我慢できないのは自制心が足りないからだ」と考えるでしょうか。
「自制心」というものはなにか本質的な特質のように感じることがありますよね。
しかし、実際は「私たちは状況によってかなり左右されることがある」ということを忘れてはいけません。
最初のマシュマロがいつ消えてもおかしくないと感じる子供たちにとって2つ目のマシュマロは意味がありません。
この場合、すぐに満足を得ることこそが合理的な戦略なんです。
【人の特性】
あなたはマイヤーズ・ブリッグス性格診断(MBTI)というものをご存じでしょうか。
これは、人の性格を16のタイプに分け、自分の理想的なキャリアはどれか調べたりするものです。
ハーバード教育大学院で心・脳・教育プログラムを指揮し、個性学研究所長を務めるトッド・ローズは、たとえばこのMBTIは「人間の特性が状況次第で根本的に変化するとは絶対に考えていない」と言い、MBTIは「内向的」か「外向的」かといった気質によって行動は決定されるもので、状況には影響されないと主張しているとしています。
あなたもどちらかと言えば”自分は内向的だとか、外向的だといった性格を持っている”と考えているのではないでしょうか。
私もそうです。笑
しかし、正田教授によれば、どの子どもも実際にはその両面を持ち合わせているといいます。
たとえば、ある女の子はカフェテリアで外向的かもしれないが、遊び場では内向的になるかもしれない。
また、その逆もありえます。
人がどのように行動するかは個性にも状況にも常に左右されるため、人間には「本質的な性質」など存在しないというわけです。
転職を経験したことがある人は想像しやすいかもしれませんが、職場の雰囲気って会社によって全然違いますよね。
たとえば、体育会系の抑圧的なところではあなたは割と意見を言わず、大人しくしているかもしれません。
一方で、割と好きな事が言えるオープンな会社ではあなたはもっと社交的に振る舞うかもしれません。
でも、あなた自身は何も変わっていませんよね。笑
確かに、「どちらかというと」とか、「強いて言えば」といった言葉を使えば、あなたは外向的、内向的だと分けることはできるかもしれません。
ただ、このような評価は集団において学者が大まかな結論を引き出すためには使えますが、個人に当てはめるのは十分ではないと言えます。
同じ本を読んでも、同じ映画を見ても人それぞれ感じ方が違うように、たとえ同じ状況に置かれてもそこから受ける影響というものは違ってきます。「じゃあ、人には全く一貫性がないのか?」と思うかもしれませんがそうではありあません。
私たちは特定のコンテクストで首尾一貫しているんです。
【行動とコンテクスト】
「コンテクストって何?」と思いますよね。笑
英語が堪能な人は別として、コンテクスト(またはコンテキスト,context)という単語は聞きなれないかもしれません。
訳としては「文脈」、「脈絡」、「状況」とされます。
また、ノースウェスタン大学人類学科名誉教授エドワード・T・ホールが生活習慣や価値観、文化的な背景などの手がかりをコンテクストと呼んでいます。
コンテクストは「ハイ・コンテクスト」と「ロー・コンテクスト」に分けて考えられ、ハイ・コンテクスト文化では共有するコンテクストを頼りに相手の意図を読み取ろうとします。
これはアジアにその傾向が強いとされます。
一方、ロー・コンテクスト文化では、表現の具体性や性格さが求められます。
欧米ではこの傾向が強いとされています。
「ちょっと、何言ってるのかわからない。笑」と感じる人は、今回の話では「状況」のことだと思ってください。
結局、個人の行動というのは特定の状況に左右されるもので、この状況を切り離して説明するのは、人の行動を予測することができないのではないかということです。
また、この状況が及ぼす影響は当事者がどんな特性の持ち主かによっても異なります。
行動は「特性だけ」、「状況だけ」で決まるわけではありません。
私たちがわかっているのは「同じ人」が「同じ状況」なら「同じ行動」をする可能性が高いということです。
別の状況になればまた変わってきます。
マシュマロを我慢できなかった子供たちは状況が変われば我慢できるかもしれません。
逆に、我慢できた子どもたちも状況次第では食べてしまうかもしれません。特性と状況をセットで考えることが大切ですね。
今回はここまで
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それではまた次回お会いしましょう。
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