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都合の悪い情報はどうして伏せられるの?

あなたは会社で、「悪い報告ほど、素早く上司に言うように」と言われたことがありませんか?
早い段階で手が打てれば、問題が大きくなる前に処理することもできますよね。

しかし、実践できている会社は少ないのかもしれません。

有名な話では、フォード・モーター社を立て直す際にアラン・ムラ―リーという人物が社長に就任した時のことです。
ムラ―リーは会議の席で「なんでも率直に言って欲しい」と管理職の人たちに言いましたが、最初は誰一人悪い報告はせず、体裁を取り繕うばかりのものでした。

でも、ほとんどの人が「悪い報告をすると自分の地位が脅かされる」と考え、報告を躊躇してしまうのが現状です。

しかし、悪い報告を躊躇する理由はそれだけではないんです。
人間は「マム効果」と言われるちょっと変わった性質を持っています。

今回は、「望ましくないメッセージについて沈黙を保つ」と言われるマム効果についてのお話です。


【マム効果ってなんぞ?】

マム効果(MUM Effect)はMum about Undesirable Messagesの頭文字からきています。
簡単に言えば、悪い知らせは他人には伝えづらいということです。

1968年にジョージア大学の心理学者シドニー・ローゼンとエイブラハム・テッサ―が、このマム効果について行った実験があります。

被験者たちは、消費者の好みに関する調査に協力して欲しいと言われ、男性用消臭剤の好みを尋ねる調査だと信じ込まされて会場となる部屋に集められました。
実際、様々なブランドの製品が並べてあるテーブルに連れていかれ、「今日は各製品について色や匂いなどの複数の要素を評価してもらいます」という説明を受けます。

そして、一通り説明をした後、研究者はいったん外へ出ます。

しばらくすると、研究者の人がとても急いだ様子で戻ってきてこう尋ねます。
「あなたはグレン・レスタ―さんですか!?」また、被験者が女性だった場合は「グウェン・レスターさんですか!?」といった感じでレスターさんを必死に探しています。
被験者の人はもちろん違う人物なので違うと答えます。

研究者は、実はグレンさんの家族に関して何かとても悪い知らせがあるようなので、すぐに知らせる必要があることをその場にいる人たちに伝えます。

このとき私たちは、「家族に不幸があったのかな?」とか「誰かが事故にあったのかな?」といろんな想像をするのではないでしょうか。


さて、ここであなたにも想像して欲しいのですが、このような状況のとき、ほどなくやってきたグレンに対してあなたはどのように先ほどの情報を伝えますか?

①「研究者の人が探していましたよ」と特に内容を言わないで伝える。
②「家族に何かあったようです。急いだほうがいいかもしれません」と悪い知らせも一緒に伝える。

実験結果は、「知らせ」が良いものだった場合、別のグループの被験者たちは、グレンに良い知らせがあるということも併せて伝えていました。
しかも、グレンが部屋に入ってくるなり、半数以上がすぐに状況を伝えたそうです。

しかし、悪い知らせだった場合、概要をすべて伝えたのは5分の1程度でした。
そして、グレン(研究者の一人)が「どんな種類の知らせなのかを教えてくれ!」と迫っても80%の人が答えることを拒否したそうです。

この研究から、相手を動揺させ得る情報を持っている場合、人は最も負担の少ない道を選ぶ傾向があることが明らかになりました。 
そして、このマム効果は、個人的な知らせだけに留まらず、人の失敗や弱点についての気まずい情報を伝える際にも当てはまるようです。


【ついやってしまう優しい嘘】

人間とは面白いもので、相手をどう見ているかを本人へ正直に伝えることを躊躇う一方で、本人以外の人に伝えることは気にしません。

例えば、「お父さんって○○だよね」といった母・子の共通の認識は父親にはあまり伝えられることがありません。
たとえば、足が臭いとかトイレが長いとかあるかもしれません。

1972年に、ジョンズホプキンス大学で行われた調査では、女子大学生たちに一番の親友、その次に親しい友人2人、そして嫌いな人1人、全部で4人の人物を思い浮かべてもらい、それぞれの長所と短所を書き出してもらいました。

そして、「書き出した特徴をこの4人の誰かに伝えたことがありますか?」という質問をしています。

結果は、他人には気兼ねなく話をするが、本人にはほとんど言ったことがないというものでした。
研究者は、「私たちの社会は他人が自分の事をどう思っているかを知りすぎないように作られている」と結論づけています。

他の研究では、研究室に被験者を呼び、いくつかの絵画の評価をしてもらいます。
その後、それらの作者であるアーティストたちを部屋に呼んで、参加者たちがいま言った意見をフィードバックのためにアーティストへ伝えてくださいと指示しました。

しかし、多くの参加者たちは本当の気持ちをかなりオブラートに包んで話したり、まったくの嘘をついたそうです。
特に作品が個人的に重要なものだと言ったときは、その特徴がより強く現れていました。

この結果から人は真実を伝えたことで起こる気まずさを避けるために、相手に対して優しい嘘をつくことがわかりました。
相手を傷つけたくないという気持ちもあるとは思いますが、正しいフィードバックを求められている場合、この気遣いは邪魔になってしまいます。

もちろん、だからといって「事実をただ言えばいい」ということではありません。
相手が成功するために何が必要かを考えることが大切です。

人間なら誰だって面と向かって短所を言われればいい気分ではありませんよね。
もちろん誹謗中傷は論外ですが、適切なフィードバックでも落ち込んだり、反発を覚えることもあります。
そのため、黙っていようとする傾向は進化論的な観点から見ると理にかなっていると言われています。

集団に属することに生存がかかっていた時代では、たとえ小さな集団であったとしても、調和を乱すことは仲間から追放される可能性があります。
その時代、追放されれば待っているのは「死」です。

そのため、人は本能的に自分の社会的な地位を脅かすような行動は避けると言われています。

しかし、適切なフィードバックが無ければいいものができないのもまた事実。
仕事では特にそう感じることもあります。

正しいフィードバックを得るために映画製作会社のピクサーでは「ブレイントラスト」と言われるちょっと変わった取り組みをしています。
これは、映画の製作過程で、監督は同僚からいっさい遠慮のない意見を貰うためのミーティングを自ら開くというものです。

簡単に言えば、監督が手掛ける作品のストーリーにダメ出しをしてもらうというわけです。
このブレイントラストは、わかっていたとしても精神的なダメージは大きく、そのセッション後は仕事が手につかず、早退せざるをえないほど疲れ果ててしまうそうです。
私は多分耐えられませんね。

しかし、ピクサーのようにきちんとみんなが理解してフィードバックを求めている場合の意見はとても参考になるかもしれませんが、普通は波風立てたくないと考えてしまいます。

もちろん、「周りが真実を言ってくれない」という問題も確かにありますが、私たちは「フィードバックを求めたくない」という気持ちも少なからず持っているのではないでしょうか。

喜んでダメ出しをされる人ってあまりいないような気がします。
しかし、自分の成長や会社を運営していく上では避けて通れない道でもあります。

では、いったい誰にフィードバックを求めればいいのか?

家族や上司でしょうか?


【適切なフィードバック】

誰でも彼でも適切なアドバイスをしてくれるわけではありません。
正しいフィードバックを求めるに、アドバイスを求めるべきではない人物というのも知っておかなければなりません。
それを紹介しましょう。

①愛のない批判者・・・ただの誹謗中傷、こちらのなすことすべてを批判してくるタイプの人です。
この人たちの言うことを聞く必要はありません。
このタイプの人たちは嫉妬や恨み、こちらの成功を妬んでいるに過ぎません。
そもそもこちらを信用してもいないので、ただ不当に批判的である場合がほとんどです。

②無批判な熱愛者・・・このタイプは、そばにいるととても居心地はいいかもしれませんが、適切なアドバイスを望むことはできません。
こちらのやることなすことすべてにOKがでてしまう状態です。
そんな人にフィードバックを求めても得るものはないでしょう。

リーダーシップを研究するジョン・ジェイコブ・ガードナー教授は、「愛のない批判者と無批判な熱愛者に挟まれたリーダーは気の毒だ」と言っています。
しかし、上の2つのタイプの人たちは意外に多いのかもしれません。

私たちに必要なのは「愛のある批判者」だと言われています。

そう言われると、自分の事を解ってくれている人を思い浮かべるかもしれませんが、「こちらのことを一番よく知っている」というだけではこの役には不十分です。

組織心理学者のターシャ・ユーリックは、その要素として相互信頼の度合いをあげています。
心からこちらのことを思ってくれているであろう相手でなければならず、だからといってあなたが悪事を働こうとしたとき、手を貸すような人物でもいけない。

自分に近しいからといって、必ずしも信頼できるわけではないといっています。
長く複雑な関係を持った相手だからといって、必ずしも役に立つフィードバックが得られるわけではないそうです。

逆に、ほとんど知らない相手でも、心からこちらの成功を願い、成功へ向けて大いなるサポートをしてくれる人たちもいます。
ユーリックは、「愛ある批判者」を特定する方法の1つとして、言葉よりも行動を見ることが大切だと言っています。

相手がわざわざあなたの成長を手助けするために尽力してくれるだろうか?
その相手はあなたが成長し、成功するために時間やエネルギーを割いてくれるだろうか?と見ることが重要です。

もう一つの要素は「こちらに対して残酷なまでに正直になる意志と能力」があるかどうかです。
それを測る一番の物差しは、相手がこちらに厳しい現実を告げてくれたことがあるかどうかと言われています。

もし、そういう経験がなければ、自分の考えを伝えることを恐れない人物を探すといいのかもしれません。
たとえその意見が気まずさを生む場合でも、自分の考えをしっかり言える人は愛ある批判者になる可能性があるそうです。

 

最後に、

アメリカにはCEO病と言われるものがあります。
変わった名前ではありますが、CEOでなくてもかかります。
この病は、自分の事を持ち上げてくれる人物だけで周りを固め、違う意見などを言う人を遠ざけてしまいます。

ただ批判するだけの人物はもちろん論外ですが、自分の周りにいる人物を思い浮かべたとき、愛ある批判者がいないとするとCEO病にかかっている可能性があるかもしれません。
「フィードバックを受ける」ということは耳が痛いことも多いとは思いますが、それがなかった場合の方がさらに深刻な事態を招くことがあるかもしれませんね。



今回はここまで

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最後までお読みいただきありがとうございます。

それではまた次回お会いしましょう。

※この記事は読んだ本をもとに考察し、私の経験したことなども踏まえて書いています。
そのため、参考にした本とは結論が異なる場合があります。
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