『メール』
「根性なし(笑)」
俺のメアドで届いてはいるが、送り主のメールはgメール。
cccなる名前になっている。
「根性なし?!」
その時、俺の中で何かが弾けた。
「俺は、根性なしなんかではない!」
「断然、違う!」
怒りが沸いてきて、パソコンを床に叩きつける。
シャワーを浴び、久し振りにスーツを着込む。
アタッシュケースには、履歴書。
俺は、マンションを飛び出すと、
わき目もふらず駅に向かった。
「おっと」
俺の歩く風速に、よろめくお年寄り。
「あ、すみません、平気ですか?」
「ええ、ええ、心配しないでくださいな。
年寄りですから、もう膝がねぇ。どうもありがとうね」
透き通った風が、心の灰汁をさらう。
都心に向かう電車の中、
若者が数人で、女性を囲んでいる。
「やめなよ」
つい、声が出てしまう。
「何、おやじ!」
アタッシュケースを軽く振り回すと、
ひとりの若者の額を割った。
「やべっ!みんな行くぞ!」
「大丈夫ですか?」
女性は仕事中のOLさんだろう。
会社の紙袋を手に俺に礼を言う。
「ありがとう御座います。お怪我ありませんでしたか。
あの、よろしかったら、お名刺かなにか・・・」
残念ながら名刺はない。
「いや、気にしないでください」
「…でも…」
女性は、自分の名刺を差し出した。
「もし、よかったらご連絡ください。
お礼したいので…」
俺は軽くうなづく。
心のヤニが剥がれていく。
とある駅で降り。
一番大きなビルに入る。
受付で「人事部の方と約束してるのですが」と言う。
そんな約束はもちろんしていない。
なぜか、面接室へ通される。
まぁいい。
面接官は、いかにも愛想がよさそうで、しかし鋭い視線を俺に向けた。
「今は無職なんですね?」
「ええ、パニック障害で」
「…そんな病名では入社は無理ですよ」
「なぜですか?」
「…」
面接官は神経質そうに俺を見つめる。
「面白い方だな。見た感じそんな病気には見えないし、
目が輝いている。何かご専門は?」
「前の会社では宣伝部にいました」
「ふむ。君は運がいいのかも知れないね。
今朝の就職情報誌に出したばかりなのに…」
「パニック障害なもんで」
「…ぷっ。いいだろう。
とりあえず、後日行われる入社試験と最終面接に臨んでくれ!」
どうだ!これでも、俺は根性なし!か?
床に叩きつけたパソコンはなんの反応もなかった。
無事、入社も決まり、宣伝部に行くと、
電車の彼女がいた。
「…たまにはメールもいいことしてくれんだな…」