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発行部数やDL数では測れない電子コミックス「ヒットの定義」
(執筆: タクヤコロク(ナンバーナインCXO))
電子コミックス市場の勢いが止まらない。
2020年の同市場は昨年比31.9%増の3420億円と、ここ数年で一番大きな成長率を見せた。昨今は、『鬼滅の刃』効果もあって紙のコミックスも活況だったようで、漫画業界全体が賑わうのは嬉しい限りである。
電子コミックス市場の盛り上がりとともに、発売される漫画単行本の帯文やキャッチコピーの中に「紙+電子累計○○○万部突破」といった表現を目にする機会も増えてきた。
紙と電子で累計240万部とか、660万部とか、電子コミックスの市場規模が紙単行本のそれを上回った今でも「発行部数」で人気度を測るのは、読者的にも分かりやすくて、かつ「売れてる」と思わせる効果は抜群だ。
しかし、一つだけ疑問点がある。
果たして電子コミックスは部数という単位で正確に売れ行きを表現できるのだろうか。
複雑化する電子コミックスの収益源
紙の単行本のみを販売していた時代は、どれだけ売れたかの人気を計る指標は非常にシンプルだった。すべて発行部数で計算できるからだ。
紙の単行本は、基本的に出版社から取次を介して書店に並び、その売れた冊数を計算すればその作品自体の人気が「発行部数」として大体正確に計算できる。中古本の流通についてはそもそも著者や版元に収益が入らない(※)ため、計算に入れることはない。
(※)バリューブックスは中古本の売買において出版社へ収益の一部を還元する仕組みを構築している
従って、何部発行されたかが基本的には人気の指標となる。(ただし、発行部数=実売部数ではない)
翻って電子コミックスの場合、この計算が非常に複雑になる。理由は販売方式の多様化だ。
例えば全20巻の漫画があったとする。この漫画を電子コミックスで収益化する場合、以下の5パターンがある。
1. 1巻ずつ販売する
2. 1話ずつ販売する(単話版)
3. 複数巻をまとめて販売する(合本版)
4. 広告料をもらって読者には無料提供する
5. 月額定額読み放題サービスに参加して月ごとの読まれたページ分料金をもらう
各出版社がどういう計算方法で紙+電子の累計発行部数を計算しているかは分からないが、おそらく紙の発行部数と電子の上記パターン①を合計した数字だろう。
しかし、昨今の多様な販売形式の増加によって、本当の人気は発行部数では測れなくなってくるのではないだろうか。いや、発行部数(あるいはDL数)では見えない人気作が増えてくる、と言ったほうが正しいかもしれない。
2020年に漫画業界を湧かせたとあるニュース
去年、そんなことを考えるようになったきっかけがあった。ピッコマ発のWEBTOON(縦スクロール・フルカラー漫画)『俺だけレベルアップな件』が月間販売金額1億円を突破したというニュースだ。
『俺だけレベルアップな件』は、国内ではピッコマで独占配信中のWEBTOONで、単行本と電子書籍は現在4巻分発売されている。
単行本・電子書籍の価格は約1,000円と通常の漫画よりも高いのも手伝ってか、購入している人を見かける機会は少なく、それほど多く部数を刷っているようにも思えなかった。
自身の無知を露呈する形となってしまうのだが、そんな作品が月間販売金額1億円突破したということでまぁまぁ衝撃が走った。プレスリリースを読んだ限りでは、ピッコマで『俺だけレベルアップな件』に課金された総額が2020年3月の時点で9,800万円だったという。
月間1億円といえば、600円の漫画単行本が約16万6,000部発行された額と同等の売上である。しかし、後者は単行本の発行部数なので一度きりの売上。前者は毎月の売上だ。
単行本の刊行ペースが3ヶ月に1回だった場合、年4回にわたって16万6,000部が発行されるので、重版がかからなかった場合は年間累計66万4,000部が発行されたことになる。(これは僕が考えたものすごく単純な計算で、間違っている可能性も全然あるので参考程度に見てほしい)
一方で月間1億円となると、単純計算で年間累計12億円の売上だ。16万6,000部が毎月発行されるとなると、199万2,000部発行と同等のインパクトだ。
『俺だけレベルアップな件』は、2019年3月の連載開始時は月間売上約873万円スタートだったのが一年後に11.3倍の9,800万円となったことを考えれば、今後も成長する可能性は大いに秘めている。
電子コミックス活況の時代に見るべき「ヒットの定義」
『俺だけレベルアップな件』は、これだけの売上を上げているものの、「このマンガがすごい」や「マンガ大賞」など、ほとんどのマンガ賞で目にする機会が殆どなかった。
僕は幸いなことに、上記のニュースが出る前に社内の若いメンバーから教えてもらって読んでいたのだが、たしかにおもしろいし、月間1億円を稼ぐのも納得だ。
このニュースを振り返って感じたのは、電子コミックスの人気の指標は月間販売金額を見れば分かる、ということだ。ピッコマやLINEマンガといったWEBTOONが人気のアプリからは、「ヒット」を測る材料として今後も月間販売金額ベースでヒット作のプレスリリースが出てくるのではないだろうか。
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