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京都精華大学の講義を4年前の内容と比較したら真逆のことを言っていた
4年連続4回目の京都精華大学ゲスト講師に呼ばれてきました
去る2022年6月8日(木)に、京都精華大学の新世代マンガコースに在籍する大学一年生を対象とした講義を行ってきました。
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2019年にお声がけいただいてから足掛け4年。「デジタル時代の漫画家サヴァイヴ論」というテーマで毎年1-2回、90分2コマ前後のボリューム感の講義を展開してます。
今年も張り切って2コマ180分用の資料を準備していったのですが、「今年は1コマでお願いします」という依頼を完全に見落としていたことに講義開始1時間前に気づいて大慌てだったことは言わないお約束です。
日本の漫画業界で「いま起こっていること」と「なぜ起こっているのか」を伝え、「自分が漫画家としてどういうスタンスでサヴァイヴしていくか」について考えるきっかけになればいいなという気持ちで臨んでいます。
漫画家であり大学教授でもあるおおひなたごうさんからは、いつも依頼をいただくたびに「去年の資料をそのまま使っていただいても大丈夫です」と言ってくださるのですが、年々使えない部分、更新が必要な部分が増えています。
なぜなら、それくらい漫画業界が毎年変化しているからです。
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業界に対する「ネガティブな目線」が4年経ってなくなっていた
昨年から今年にかけての大きな変化は、やはりWEBTOONの台頭でしょう。依頼時に「WEBTOONについても触れてほしい」という話があったほどです。
正直、昨年までは「WEBTOONについては専門外なので話せません」と言い切っていたのです。しかし、この一年でナンバーナイン自身もWEBTOON制作スタジオを立ち上げるほどWEBTOONにどっぷり浸かるようになるなど、業界自体に大きなうねりをもたらしたビッグウェイブへと成長しました。
毎年、こうして講義資料を作るために過去の資料をさかのぼるのですが、年々言っていることが変わっていることに気づきます。
例えば、2019年にはじめて教鞭を執った時は、「出版業界全体は最盛期から1兆円も規模が縮小し、漫画業界の成長具合は横ばい」「唯一電子コミック市場のみ調子いいから今後紙の本で単巻100万部を超えるような作品はほとんど出ない(かも)」と、デジタル市場以外を結構ネガティブな目線で見ていました。
それが翌年、翌々年の資料では、「『鬼滅の刃』『呪術廻戦』『東京卍リベンジャーズ』など単巻100万部超の作品が連発」「漫画業界は2年連続過去最高の市場規模を更新」など、成長横ばいどころか右肩上がりにギュンギュン上がっていきそうなニュースが目白押しとなっています。
ちなみに毎年累計発行部数1000万部以上の漫画が何作品あるのか、という質問を講義中にしているのですが、2019年の講義では141作品、2020年の講義では206作品(前年+65)、2021年の講義では222作品(前年+16)、そして2022年の講義では253作品(前年+31)と、着実に増えているのが分かっておもしろいです。
WEBTOONの話をした時の学生たちの意外な反応
講義では、もちろんWEBTOONの盛り上がりに関する話題にも触れました。講義を始める前に学生さんから「WEBTOONが日本で流行らないのはなぜ?」というストレートな質問をいただいてたこともあり、さぞ皆さん興味があるのだろうと思って僕は意気揚々と話し始めます。
しかし、反応は意外なものでした。まず、WEBTOONを読んでる人が何人いるのかを確認したところ、全体の1割程度くらいしか手を上げる人がいません。
講義を受けていた別の先生曰く、「学生はクレジットカードを持ってない人もいるからアプリで漫画を読まない」「留学生が半数近くいて、みんなWEBTOONではなく横読み漫画を学びに来ている」という2つの可能性があるそうです。
2つ目については、中韓出身の留学生が多く、彼ら彼女らの多くはWebブラウザで読むWEBTOONは結構前に通っていて、それよりも日本の横読み漫画を読んで育ったから、本場日本で学びたいという思いが強いのだそう。
この話を聞いて、今年日本で大盛りあがりのWEBTOONを学生に伝えたいと息巻いていた僕は一瞬挫けそうになりましたが、なんとか立て直して日本でWEBTOONがなぜ盛り上がっているのかをしっかり説明させていただきました。
確かに、わざわざ日本まできて最近盛り上がっている歴史の浅いWEBTOONの話を聞くよりも、日本が最も得意としている漫画の話を聞きたいですよね。その話を聞いて日本の漫画を誇らしく思うと同時に、ことWEBTOONにおいては完全に中韓と日本の立場は逆転してしまっていることを身を以て知らされたなと、逆に危機感をつのらせました。
研究者に聞いた韓国WEBTOONの最新トレンド
講義終了後の会食時に、韓国出身の漫画表現について研究されている研究者の方とお話しした時に、韓国WEBTOONの世界で起こっていることも軽く教えていただきました。
韓国WEBTOONの単行本化は、基本的にKickstarterなどのクラウドファンディングを積極的に活用して資金を集めているという話や、作家さんを使い捨てるようなエージェンシーが増えている(一年かけて10話描き終えた時点で、描き始める前と契約書の内容が違うというのもよくあるそう)という話。他には新しいWEBTOONプラットフォームの乱立により淘汰も進み、一つのプラットフォームと版権買取契約を結んでしまったせいで他のプラットフォームに出せなくなるトラブルが発生している話など、漫画とWEBTOONは表現は違えど同じような問題をはらんでいるんだなぁと感じさせられました。
また、映画化で話題になっている『SLAM DUNK』は韓国人の青春で、読んでない人はいないと言えるほど神だといういい話も聞きました(個人の感想も入っています)。
YouTubeについても、韓国では1000万再生からが戦いだが、BTSのMVなどはファンの力で1時間で1000万再生を超えるといいます。「2億は作れる」という言葉が印象的な夜でした。
未来予想はなかなか難しいけど、毎年講義を行うだけでなく、過去を振り返ることでまた違った発見ができるのもゲスト講師の楽しみだなと、今回の講義で気づくことができました。
来年はどんな話を繰り広げられるのか、そしてこの一年で漫画業界にどんな変化が起こるのか、すでに楽しみでなりません。改めまして、今年も貴重な機会をいただきありがとうございました。来年も呼ばれればすぐに馳せ参じます。
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漫画制作ディレクター / エンジニア / WEBTOON編集者 / 日南デジタル漫画ラボスタッフ