見出し画像

電車の中、女子高生が2人

電車の窓に反射する世界は逆さで、  
天井が下り、地面が浮いている。  
君たちの声が、空間のどこかを突き刺す。  

「髪の毛を触るおじさんがいた。」  
「触るって、どう触るの?」  
「そっと、けど確かに。」  
「それって空気を触るようなもの?」  

手すりの冷たさに指先がはじかれ、  
僕の耳に聞こえるのは  
車輪の音か、君の靴音か。  

「私、触られなかった。」  
その言葉が不意に電車を止めた。  
光が逆流して、  
君の髪を数える少年が現れる。  

触られなかった髪が、  
触られなかったまま夜を迎え、  
静かに解かれる。  
けれど君はまだ気づかない。  

触れるべきだったのは、  
本当に髪だったのか。  
あるいは、  
僕らの見えない背中だったのか。  

窓の外に雲がいくつも消えて、  
君たちの声だけが残る。  
電車はもう走っていないのに。

いいなと思ったら応援しよう!