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学生指揮入門(前編)

本ドキュメントはアマチュアヴィオラ弾きの私が、大学オーケストラでの学生指揮者の経験を通じて得た気付きを書き記した備忘録のようなものです。指揮法そのものではなく、学生指揮者(練習指揮者)として基本的な考え方、練習のマネジメント等について言及していきます。

1. はじめに

本ドキュメントのメインの対象は学生指揮者(練習指揮者)を任されることになり、指揮法の本を手に取ってみたものの、音楽の専門教育を受けたことはなく、何から手を付けたら良いか分からないといった方を想定しております。私自身、学生指揮に指名されたとき最初非常に苦労したので、同じような立場にある方への何らかのヒントになればと思います。簡素な表現のため、分かりにくい点や不正確な記載があるかもしれませんが、ご指摘頂ければ幸いです。
学生指揮の役割は楽団によって多少違ってくると思います。私の所属していた大学オーケストラでは、演奏会本番はプロの指揮者に振って頂いておりましたので、学生指揮は役割は主に普段の合奏の指揮と練習計画の策定でした。

<目次>
1. はじめに
2. 指揮棒を持つ前に
3. 指揮の実践
4. プロジェクトとしての演奏会

2. 指揮棒を持つ前に

下振りの指揮者の場合、指揮者としてのスキルよりトレーナーとしてのスキルが重要になります。学生指揮が最低限できなければならないことを、以下の3つのプロセスに集約してみました。
スコアを理解する
音を聴く
指摘する
逆説的に棒を振ることは必須ではないとも言えます。各項目の詳細は以下に説明します。

スコアを理解する

最低限の準備として合奏前にスコアを読み込み曲を覚えておかなければいけません。具体的な方法としては、ひたすらCD等の音源を聞きながらスコアを追っていくという作業の繰り返しです。聴きながら各パートの役割(メロディ・オブリガート・リズム・ハーモニー等)を確認していきます。スコアを見たときに、その場面の音楽が頭の中で響くようになるまで、耳を通して曲を摺り込んでおかなければなりません。

音を聴く

合奏中はまず第一に楽団員の奏でる音を聴くことに集中しなければいけません。慣れないうちは指揮棒を動かすことに神経を使うあまり、音を聴くことができなかったり、逆に音を聞くあまり、ずれた音に釣られて棒を振るというおかしな状況になったりすることがあります。自分の頭の中で鳴っている曲に合わせ右手は意識せず自動的に動き、神経は耳に集中しているという状況になっておかなければなりません。楽器でスケールを弾くときにいちいち運指を意識しないのと同様です。指揮にも基礎練習が必要ですが、それについては次回「3. 指揮の実践」で述べます。

指摘する

理解したスコアと楽団員の奏でる音を比べOK/NGの判断をし、指摘します。曲の解釈云々の前にスコアにはいろいろな情報が記載されています。AllegroならAllegroのテンポに、4/4拍子なら4/4拍子のアクセントに、DurならDurの響きに、スラーならスラ―のアーティキュレーションに聞こえなければならないのです。判断の基準はスコアに書いてある内容と聴こえてくる音との間に齟齬がないかどうかです。自分の感性だけに頼った指摘をしても説得力はありません。
指摘を出すときは何か具体的な解決策を提案できることがベターですが、何とかしようと無理をして不確実で抽象的な指示を出してはいけません。事実だけを端的に述べた上で、奏者と一緒に問題を解決しようとする姿勢が大切です。

→学生指揮入門(後編)


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