【狭心症】疑わしい症状や心筋梗塞との違いは?専門医が徹底解説!
胸の症状が気になって、心臓の病気かもしれないと不安に感じている。
医師から狭心症の疑いがあると言われて、狭心症や心筋梗塞について知りたい。
医学系の学生さんや新人さんで、狭心症の勉強をしているけれどいまひとつよくわからない。
このような悩みを抱えている方はいませんか?
狭心症にはいろいろな分類がありますが、実はこの記事で説明する2つの病態が基本になっています。
私が循環器内科医として日々外来診療をする中でも、患者さんの症状がこの2つの病態のどちらかに当てはまるかどうかを想定しながら問診しています。
この記事では
狭心症を理解するための基本的な心臓の働きや機能
狭心症の症状はどのようなもので、なぜ起こるのか?
代表的な2つの狭心症
について解説します。
この記事を読むと、狭心症の疾患概念や循環器内科医がどのような視点で診療しているのかがわかるので、病気に対する理解が深まると思います。
一般の方が抱えていらっしゃる疑問を解くのにも役立つはずです。
一応補足ですが、今回お話しする内容は一般的な内容であって、もちろん例外もあります。ご自身の病状で悩んでる方はこの記事だけで判断せずに、かかりつけの先生に相談してくださいね。
狭心症とは:一過性心筋虚血による胸部症状
狭心症とは一過性に心筋虚血が誘発されることにより胸部症状が出現する病態のことです。
このように説明してしまうと難しくてとっつきにくいので、まず心臓の解剖生理について少しだけ説明しておきます。解剖生理は病態を理解するための助けになるからです。
心臓の構造や機能
心臓は全身に血液を送るポンプの働きをしてますが、主に筋肉(心筋)でできています。筋肉も栄養や酸素をもらわなければ動けませんので、筋肉自体に栄養を送る血管が心臓の周りを蔦のようにに巡っています。この血管を冠動脈といいます。心臓は冠動脈を介して栄養をもらうことで、仕事をすることができます。
狭心症と心筋梗塞の違い
狭心症とは、一過性に心筋虚血が誘発されることにより胸部症状が出現する病態のことです。
虚血とは、何かしらの理由で酸素需要に酸素供給が追いつかなくなった状態、つまり心筋が必要としている酸素の量に対して、心筋に届けられる酸素の量が少ない状態のことです。
酸素供給の不足、過剰な酸素需要のどちらでも生じます。どちらかだけというわけではなく、両者が合わさって起こることもしばしばあります。
酸素供給が低下する原因として、冠動脈の高度狭窄や血圧の低下などにより、冠動脈の血流が低下するといったことが挙げられます。
酸素需要が高まる原因は、心臓の仕事量の増加です。心臓の仕事量は一般的に「心拍数と収縮期血圧の積:double product」で推定されます。つまり、血圧や心拍数が上昇すると、心臓の仕事量が増加して心筋虚血が誘発されることがあるということです。
心筋虚血が起こった場合、「胸が痛い、しめつけられる」などといった症状が出ます。これが狭心症の症状です。狭心症は一過性の心筋虚血ですが、心筋虚血がある程度持続した場合、心筋細胞が死んでしまう(壊死する)ことがあります。これを心筋梗塞といいます。
狭心症の種類
実は狭心症にはいろいろな種類があって、分類のしかたによって様々な枕詞がつけられることがあります。不安定狭心症、労作性狭心症、異型狭心症などですね…けっこう混乱しますよね。このあたりは初めて勉強される方にとっては混乱を招いてしまって苦手意識を生んでしまう要因になっていると思います。
そこでこの記事ではシンプルに、代表的な2つの病態に厳選して説明します。まずこの2つを理解しておくと、その他の狭心症の理解がしやすくなると思います。
労作性狭心症:運動したときに胸が苦しくなって、休むと良くなる
労作性狭心症の典型的な症状は「運動したときに胸が苦しくなって、休むと良くなる」というものです。名前の通り労作時に症状が出現します。
病態を少しだけ説明します。
冠動脈に動脈硬化が起こると、血管の壁にはプラークと呼ばれるコレステロールの塊が沈着していきます。コレステロールがどんどん蓄積してくると、冠動脈の内腔(血液の通り道)が狭くなり、血流が制限されてしまいます。
血流の制限がごく軽度であれば運動しても虚血を引き起こすほどではないため、とくに症状は出ません。しかし狭窄が中等度以上になると、運動したときや階段を登ったときなど、心臓がたくさん仕事をしなければいけないときに、仕事量に見合った血液を心筋に供給できなくなってしまいます。その結果、心筋で虚血が誘発されて胸が痛い・苦しいなどといった症状が出現します。
つまり労作性狭心症の病態は、「労作で心筋の酸素需要が高まったときに、冠動脈狭窄により酸素を十分に供給できないことにより、心筋虚血が誘発されて胸部症状が出現するという」ことです。
比較的初期の段階では、安静時の仕事量をまかなう程度の血流は保持されていますので、労作時に胸部症状が出現したとても、運動を中止して休むと症状は改善します。
しかし、動脈硬化が進行して内腔がさらに狭くなると、安静時にも狭心症症状が出現するようになります。当たり前といえば当たり前の話ですが、特に運動しているわけではないような安静時でも、心臓は全身に血液を送るための仕事をしています。
狭窄が進行すると、安静時の仕事に必要な酸素の供給もまかないきれなくなってしまい、とくに運動していなくても心筋虚血が誘発されて胸部症状が出てくるようになるというわけです。この段階では安静時にも症状が出現しているので、もはや「労作性」狭心症ではなく「安静」狭心症ですが、名前が違っても、起こっている病態が動脈硬化による冠動脈内腔の狭窄ということは共通しています。
冠攣縮性狭心症
冠攣縮性狭心症の典型的な症状は、「夜から朝にかけての時間帯で起こる安静時胸痛」で、日中運動したときには症状が出ないことが多いです。起こっている病態は、冠動脈の攣縮(縮こまること)による冠動脈の血流低下、酸素供給の低下です。
こちらも少し詳しく説明します。
動脈硬化の変化の一つとして、先ほど労作性狭心症で説明したような内腔狭窄ではなく、血管の機能障害が起こることがあります。血管が管の形を保っているためにはいくつかの機構があるのですが、機能障害によりこの機構が破綻すると、血管が異常に収縮して、管の形を保てなくなってしまうことがあります。
心臓の周りをめぐっている冠動脈が痙攣して異常に収縮することを冠攣縮といいます。冠攣縮がおこると、冠動脈の内腔が狭くなって血流が低下するので、心筋への酸素供給が低下します。攣縮が高度であれば、安静時でも(とくに運動などしていなくても)心筋における酸素の需要と供給のバランスが崩れて心筋虚血が誘発されてしまいます。
これが冠攣縮性狭心症です。
冠攣縮は日中や運動中は起こりにくく、夜から朝にかけてリラックスしている時間帯で起こりやすいということがわかっています。
多くの場合冠攣縮は自然に解除されますが、労作性狭心症が運動中止後に5分程度で胸部症状が消失するのに対して、冠攣縮発作では狭心症症状が30分程度続くことは珍しくありません。
まとめ
今回は、「狭心症発作とはどのようなもので、なぜ起こるのか?」などについて解説しました。
狭心症とは「一過性の心筋虚血により胸部症状が出現する病態」のことです。
心筋虚血とは心筋における酸素の需要供給バランスが崩れた状態で、心臓の仕事量に見合った酸素を心筋に供給できない場合に起こります。
この記事で説明した労作性狭心症と冠攣縮性狭心症は病態を理解するための軸になるので、外来診療を行ったりそのほかの狭心症を理解したりする上でも大切です。
この記事の内容は一般的な内容であって、もちろん例外もあります。実は、心筋虚血が起こっても、症状や起こり方が典型的では無い方や、無症状の方もいらっしゃいます。そのような方もいらっしゃるので、我々循環器内科医は症状だけで判断せず、いろいろな検査をして狭心症を証明して治療に臨みます。ご自身の病状で悩んでる方はこの動画だけで判断せずに、かかりつけの先生に相談してくださいね。
書籍でもっとよく知りたい方に向けて、おすすめ書籍を紹介しておきます。興味のある方は手にとって読んでみてください。
今回の記事が皆さんのお役に立てれば幸いです^^