見出し画像

キーワード~アメリカの著作権制度~

『アメリカ連邦著作権法における”派生的著作物”とは』
 
“Derivative work”とは
 
米国著作権法の定義規定(101条)には、”derivative work”について、次のように定義しています:
 
「派生的著作物」とは、翻訳、編曲、ドラマ化[脚色化]、小説化、映画化、録音、美術複製、簡約化[短縮]、要約、又はその他著作物が改作され、変形され、若しくは翻案された形式のように、1以上の既存の著作物を基礎とする著作物をいう。全体として著作者の作成に係る創作的な著作物を表す改訂版、注釈[注解]、詳説[詳解]、又はその他の修正変更から構成される著作物は、「派生的著作物」である。
 
(原文) A “derivative work” is a work based upon one or more preexisting works, such as a translation, musical arrangement, dramatization, fictionalization, motion picture version, sound recording, art reproduction, abridgment, condensation, or any other form in which a work may be recast, transformed, or adapted. A work consisting of editorial revisions, annotations, elaborations, or other modifications, which, as a whole, represent an original work of authorship, is a “derivative work”.
 
(注) 「派生的著作物」というのは、わが国の「二次的著作物」(2条1項11号参照)に相当するものですが、ここでは「派生的著作物」と和訳して解説します。
 
「派生的著作物」とは、要するに、「1以上の既存の著作物を基礎とする著作物」(a work based upon one or more preexisting works)をいいます。実務上、「新バージョン」(a “new version”)と同義に用いられることもあります。ベルヌ条約では、文学的・美術的著作物を「翻訳し、翻案し、編曲しその他変更した物」(translations, adaptations, arrangements of music and other alterations)を保護するよう、同盟国に義務付けています(ベルヌ条約2条(3))。
 
上述の派生的著作物も著作権によって保護される「著作物」であることに変わりはないため、派生的著作物として保護されるためには、米国著作権法で称するところの「著作者の作成に係る創作的な著作物(性)」(an original work of authorship)を有していなければならないと解されます(102(a)参照)。
 
派生的著作物は、既存の著作物をもとにして、それに「変形」(transformation)や「修正変更」(modification, alteration)、「翻案」(adaptation)等が加えられて、当該既存の著作物とは別個の創作性が認められる「著作物」が創作された場合のその「著作物」のことです。「源」(原著作物=既存の著作物)から「流れ出て」(derive)、新たな創作性(an original work of authorship)が加えられたもの(著作物)が、「派生的著作物」の射程範囲ということになります。
もっとも、どの程度の「変形」や「変更」等があれば足りるのか(派生的著作物性が認められるのか)は、非常に難しい問題です。この点に関する裁判例(下級審判決)も相当数ありますが、「通説」と呼べるような法解釈は今のところないように思います。ここでは、アメリカ著作権局の見解を紹介しておきます。
 
アメリカ著作権局の見解(公表資料より)
 
『派生的著作物が著作権によって保護されるためには、新著作物(a new work)とみなされる程度に十分に(sufficiently)オリジナル(原著作物)とは違ったものであるか、又は、実質的な[相当な](substantial)量の新しい素材(new material)を含んでいなければならない。既存の著作物にほんの少し変化をつけたり、また、既存の著作物にほとんど実質的な部分を加えていない場合には、著作権法の目的からすると、そのようなものに、新バージョンとしての資格[適格性]を認めることはできない。(派生的著作物を構成する)新しい素材は、それ自体でオリジナルなものでなければならず、かつ、著作権による保護に適したものでなければならない。』
 
(原文) To be copyrightable, a derivative work must differ sufficiently from the original to be regarded as a new work or must contain a substantial amount of new material. Making minor changes or additions of little substance to a preexisting work will not qualify a work as a new version for copyright purposes. The new material must be original and copyrightable in itself.
 
定義規定にあるように、派生的著作物の具体的な形態(態様)としては、既存の著作物に次の変化が加えられたものが挙げられていますが、それらをアメリカ著作権局公表の資料をもとに具体例を交えながらまとめてみると・・・
 
① 「翻訳」(translation)したもの:例えば、ロシア語で出版された原典を英語に翻訳した小説。
② 「編曲」(musical arrangement)したもの:例えば、バッハの曲をもとにして編曲された楽曲。
③ 「ドラマ化(脚色化)」(dramatization)したもの:例えば、Jane Doeの手紙や日記の記述をもとにした脚本。
④ 「小説化」(fictionalization)したもの
⑤ 「映画化」(motion picture version)したもの:例えば、ある脚本をもとにした映画、古い映画のシーンと写真を含むテレビ用ドキュメンタリー番組。
⑥ 「録音」(sound recording)したもの:例えば、以前ネットで公表された2曲を含む10曲を選曲してそれらを録音して作成したCD。
⑦ 「美術複製」(art reproduction)したもの:例えば、ある絵画をもとに制作した彫刻、ある写真をもとに描いた絵画、パブリックドメイン(公有財産)にある地図をもとに、いくつか新しい地図を加えて作成した地図帳、ある絵画をもとにしたリトグラフ(石版画)。
⑧ 「簡約化(短縮)」(abridgment)したもの:ほんの少しのささいな削除(only a few minor deletions)だけが行われても、それが「簡約化(短縮)」されたものとして、つまり、派生的著作物として保護されることはないと解されます。
⑨ 「要約」(condensation)したもの
⑩ 「その他著作物が改作され、変形され、若しくは翻案された形式」(any other form in which a work may be recast, transformed, or adapted):例えば、John Doeの日記の記述や手紙を含む彼の伝記、聖書からの引用句を含む歌詞と楽曲。
⑪ さらに、全体として著作者の作成に係る創作的な著作物を表す、「改訂版」(editorial revisions)、「注釈(注解)」(annotations)、「詳説(詳解)」(elaborations)、「その他の修正変更」(other modifications)から構成される著作物:
〇 既存のコンピュータプログラムの新ヴァージョン(改訂版)。
〇 既存のウェブサイトの改訂版。
〇 2020年度版のカタログに新たな文章と写真を追加して改訂編集した2021年度版のカタログ。
〇 以前にあるCDに録音されてリリースされた曲をリミックスして(新たにミキシングし直して)作成したCD(いわゆるリミックス版)。
〇 2000年代にはじめて出版された録音物にCDパッケージに含まれる写真及びライナーノート(解説文)を新しくしたものを付して、新たにリリースしたもの。
〇 2幕の演劇を全体的に手直して3幕の演劇に仕上げたもの。
 
米国著作権法では、その102条(a)で、著作権による保護の対象となる著作物を列挙していますが、ここに“derivative works”という用語自体は直接には出てきません。しかしながら、102条(a)で列挙されている著作物には、derivative worksを当然に含んでいると解されます(103条(a)参照)。例えば、「小説」は「言語の著作物」(literary works)ですが、それが「脚色されたもの」は、「派生的著作物としての言語の著作物」であり、さらにそれが「映画化されたもの」は「派生的著作物としての映画の著作物」に該当することになります。
 
派生的著作物に対する著作権
 
派生二次的著作物は「既存の著作物」を基礎とするため、当該既存の著作物が他人の創作にかかるもので、したがって、派生的著作物が他人の「著作権が及ぶ既存の素材を使用するもの」(a work employing preexisting material in which copyright subsists)になる場合、その使用が、正当な権利者から正当な許諾を得ずになされた場合(106条(2)参照)など、「不法に」(unlawfully)なされたときには、そのような二次的著作物に対する著作権による保護は、当該不法に使用された部分には及びません(103条(a))。
 
派生的著作物における著作権は、当該著作物に使用された既存の素材と区別されるもののみに及び、その既存の素材におけるいかなる排他独占的権利を伴うものでもありません(103条(b)第1文)。また、派生的著作物における著作権は、そこで使用されている既存の素材における著作権とは別個独立したものであって、その保護期間等に関して相互に影響することはありません(同第2文)。
なお、派生的著作物が、「原著作物の著作権を害することなく」(without prejudice to the copyright in the original work)保護される、というのは、国際的な了解事項です(ベルヌ条約2条(3)参照, わが国著作権法11条参照)。
 
派生的著作物を創作することによって、すでに著作権によって保護されている著作物(原著作物)の保護期間(存続期間)を伸張するようなことはあり得ません(上記参照)。また、すでにパブリックドメイン(公有財産)にあってもはや著作権による保護が終了している作品を原著作物として二次的著作物が創作された場合でも、一度公有財産に帰した素材に対する保護を、当該派生的著作物に基づく著作権によって復活させることできません。さらに、当該派生的著作物に基づく著作権によって、別の誰かが、公有財産に帰した同様の素材を用いて、別の派生的著作物を作成することを妨げることもできません。
 
(参考:米国著作権法103条)
(a) The subject matter of copyright as specified by section 102 includes …… derivative works, but protection for a work employing preexisting material in which copyright subsists does not extend to any part of the work in which such material has been used unlawfully.
(対訳) 第102条に規定する著作権の対象には、……派生的著作物を含むが、著作権が及ぶ既存の素材を使用する著作物に対する保護は、当該素材が不法に使用されている場合には、それが使用されている当該著作物のその部分には及ばない。
 
(b) The copyright in a …… derivative work extends only to the material contributed by the author of such work, as distinguished from the preexisting material employed in the work, and does not imply any exclusive right in the preexisting material. The copyright in such work is independent of, and does not affect or enlarge the scope, duration, ownership, or subsistence of, any copyright protection in the preexisting material.
(対訳) ……派生的著作物における著作権は、当該著作物の著作者が寄与した素材であって、当該著作物に使用された既存の素材と区別されるもののみに及び、その既存の素材におけるいかなる排他独占的権利を伴うものではない。そのような著作物における著作権は、既存の素材におけるいかなる著作権による保護とも別個独立したものであって、また、その保護の範囲、存続期間、帰属又は存在[有効性]に影響を与えず、又はこれらを拡大しない。
AK

いいなと思ったら応援しよう!